アイヌ文化では偉い神様とされ、むやみに殺してはならないものです。
アイヌ語辞典
アイヌの伝承
物語や歌など
クモを戒めて妻にしたオコジョ
ヨシ原の上に住むクモの女神が私で、色々な神様の男性に言い寄られても「地下の湿地に棲む魚を持ってきてくれた人と結婚します」というと、その神様たちは地下の湿地に赴いていって帰ってこないということを繰り返していました。
(話者がオコジョに代わって)
ある日女神の家に行って上座に急に現れてやると、女神は私を見て驚いて「どんなに力の強い神様なのでしょう。どうやって突然に上座に現れたのですか。私と結婚したければ、地下の湿地に行って魚をとってきてください」というので、すぐに地下の湿地にいって魚をとってきてやりました。また上座に突然座り「これが食べたくて色々な神を困らせていたのだろう。早く食べろ」と言って魚を投げると、その女は驚いて謝って「私が悪うございました。なぜあんな無茶をいったのか自分でもわからないのです。この世の者があの世の魚を食べると、どうなってしまうかわかりません。これからはこのようなことは致しませんから、どうか命ばかりはお助けください」と言いました。腹が立ったので、その女神の目に息を吹きかけてやりました。するとその女神が目が痛いといって転げ回って苦しみました。女神の家を焼いてしまうぞと言うと、それはどうか勘弁してくれと言って泣くのでやめておきました。
女神を置いて自分の家に帰ってきて女神の様子を見ていると、やはり目が痛いといって転げ回っている様子でした。そこで目の痛みを止めてやると、今度は私の素性を毎日探しまわっています。長い間放っておきましたが、かわいそうになって自分の居場所を教えてやりました。すると身の回りの物を持って、女神は私の家にやって来ました。私の家の中はゴミだらけであるようにわざと見せかけて待っていると、家に入ってゴミだらけなのを見てあきれていました。笑いをこらえて知らんふりをしていると、その女神は毎日一生懸命ゴミをかたづけていました。「どんなに立派な神様かと思って来てみたら、この家の有様は何でしょう」とぶつぶつ文句をいって、とうとう疲れて自分の荷物にもたれて居眠りをしている間に、家の中を元通りの立派な様子にしておきました。目が覚めた女神が驚いてかしこまっているので、私が「おまえは何人もの神様を苦しめたので、罰を与えるためにここに来させたのだ。心を入れ換えるならそれでよし、そうでないならまた罰してやるぞ」と言うと泣いて謝ったので、許してやることにしました。そしてその女神と結婚し、その後は心が安定したらしく、無理難題を言い出すこともなく暮らしました。お互いに子供がたくさんできる系統なものだから、たくさんの子宝に恵まれて幸せに暮らして年を取りました。(安田千夏)