イタチ科で体長は15〜30㎝ほどで、動きが俊敏なうえ肉食でネズミなどの小動物を補食します。アイヌ語名「雪ギツネ」は、冬毛の白さを表現しているのでしょう。「白ギツネ」と訳されていることもあります。
アイヌ文化では、すばしっこいのでつかまえるのは簡単ではなかったようですが、とったときは誰にも言わずにその頭骨を秘密の守り神として大切に保管すると運気が上がったといいます。当館の採録資料では、無理やりつかまえるのではなく、オコジョのほうで「この人を守ってあげよう」と考えてつかまりにくるものであるといいます。口承文芸資料では、非常に偉い神様であるため素性がなかなか暴かれないという話、また人助けをして天界に帰っていく話が採録されています(日高地方)。オコジョよりさらに小さいイイズナ(コエゾイタチ)もこの仲間に含まれると辞書に書かれています。
アイヌ語辞典
動物編:動272(1)
アイヌ語名:ウパシチロンヌプ upascironnup
語義:[<upas(雪)cironnup(けもの);エゾイタチは冬になると毛が雪のように白くなるので‘雪・けもの’の名があるのであろう。→§270(1)注(d)]
地域・文献:⦅胆振、日高、近文⦆
アイヌの伝承
物語や歌など
姉に虐待された娘とオコジョ神
私は姉に育てられている娘でした。姉は私に針仕事を教えてくれました。針仕事が姉以上に上手になり一人前の娘に成長した頃、姉は「おまえにはオタサㇺの村にいいなずけがいる」と言いました。私はその人のために手甲や脚絆を作り、姉が届けに行っていました。
ある時、姉がいいなずけのところに連れていくと言うので、二人で出かけました。途中で海というものを初めて見て喜んでいると、姉が突然私を蹴飛ばし「おまえが先に結婚するのは許せないから殺してやる」と言いました。さんざん暴行され、私は気を失ってしまいました。気がつくと姉はおらず、どういうわけか私は白い大きな犬になってしまっていたのです。「クンクン」「ウォー」としか声が出ず、泣きながら見知らぬ川の上流方向に向かいました。立派な家があったので、そのゴミ捨て場で泣いていました。
やがてその家の住人が山から帰ってきました。若い男で恐ろしかったのですが、食事の支度をすると家の中に招き入れて食事を出してくれました。男は「ひとり暮らしで寂しかったので、犬が来てくれて嬉しい。明日からどこにも行かず、留守番をしていておくれ」と言いました。それから私は犬の姿のまま、まき取りや水くみ、できる限りの家の仕事をしながらそこで暮らしていました。
ある朝白い犬の毛皮が私のそばに落ち、私は人間の姿に戻ったのでした。嬉しくて泣いていると、あの男の人も起きてきて、今までのことを全て話すと男は了解し、「これからもここにいれば、何も心配することはないから」と言ってくれました。それからは以前のように人間らしくできるので、家の仕事をしながら留守番をして暮らしました。
しばらくすると、男は儀式の準備をして神々を招待し、酒宴を開くと言いました。酒を醸し、木幣を作り、すっかり準備が整うと、私にオタサㇺのかつてのいいなずけと、そこに嫁いだ姉を招待しておいでと言うのです。恐ろしかったのですがオタサㇺに行き、二人を招待すると姉の顔から血の気が引いていました。すぐに帰ってくると、男は上等の着物や装飾品を出してくれました。私がそれで着飾ると、自分でも驚くくらいに神々しい姿になりました。
そのうちに招待された神々がぞくぞくと家にやってきて、忙しく応対して料理をふるまっていると、オタサㇺの勇者と姉も入ってきて、私の美しさに驚いていました。招待した神々が全てそろったところで、あの男は神々にこのように切り出しました。「儀式の前に、神々にお話をしておかなければならないことがあります。オタスッの村に、ふたりの姉妹がおりました。ある時、私が人間界を見回っていると、なんと姉のほうが妹を殺して捨てていったところに遭遇したのです。驚いて死んだ娘の魂を追いかけてつかまえ、もとに戻しました。でも人間の体であったならまた危険が及ぶと思ったので、私が犬の姿に変えたのです。そして私のもとに呼び寄せて一緒に暮らしていたところ、この娘は本当に働き者のいい娘であることがわかりました。この話を皆さんに報告してから、私はこの娘と結婚しようと思っています。ご意見をお聞かせください」。そういうと神々は皆結婚に賛同し、オタサムの神をあざむいて縫い物上手のふりをして結婚した姉のことを罵りました。
それから儀式が始まると、オタサㇺの勇者は姉を連れて出ていき、ひどく折檻している声が聞こえました。神々は私が働き者なのを喜び、「ここにいれば何も心配することはない。安心して暮らしなさい」と口々に言って帰っていきました。それからは夫と結婚して幸せに暮らしました。男の子が生まれ、次に女の子が生まれ、夫婦でかわいがって育て、子供たちが家の手伝いをするくらいに大きくなると、夫はある日私に話があると言ってこう切り出しました。
「妻よ、じつは私は天の国のオコジョの神なのである。この頃は神の国にも悪いことをする者たちが増えたので、天の国から帰ってくるように急かされている。そこで、今日帰ることにしたのだ。これからは天の国から神としておまえたちを守ることにする。おまえの姉は悪いことをしたので、オタサㇺの神に殺されてしまった。オタサㇺの神はおまえが恋しくて寝込んでいるけれど、悪い者と結婚してしまったのだからどうしようもない。今さらおまえと結婚することもできないのだ。そして子供たちがそれぞれ結婚したら、おまえを天の国に呼び寄せるから、そのつもりでいなさい。そして今日からはオタスッの家に帰って暮らしなさい」。言い終わると夫は外に出ていき、轟音とともに天に昇っていきました。私は音が東の空に消えていくまで夫を見送りました。
家に帰るために荷物を背負って外に出て私たちの家を振り返ってみると、家だと思っていたのは、植物のツルが巻きついて屋根のようになっていた場所なのでした。それから私は子供たちを連れて生まれた家に帰りました。長く無人だった家の中や外を掃除して、そこで子供たちと暮らしました。子どもたちには、天のオコジョの神である父に祈ること、そうすればいつまでも守ってもらえることを教えました。子どもたちにそれぞれ男の仕事、女の仕事を教え、ふたりとも一人前になり結婚をしました。そうすると夫が言った通りに、天の国から呼ばれて私は死んでいくようなので、子どもたちにこれからは人が通りかかったら引き留め、村人を増やしていきなさい、そして忘れずに神に祈りなさいと言い聞かせ、年を取り切らないうちに死んで天の国に行きますと、オタスッの女性が物語りました。(安田千夏)