アイヌ文化では、食糧として狩猟の対象になりました。とるごとに儀礼を行うことはせず、頭骨を保管しておき、年に2回祈りの儀礼を行ないます(十勝地方)。
アイヌ口承文芸では、ウサギは「もっと体が大きかった」「口がきけた」のに、失敗をしでかして現在の姿になったという由来譚がいくつかあります。当館採録の口承文芸では、人間に姿を変える散文説話の異類婚姻譚があります(日高地方)。
雪上の足跡
アイヌ語辞典
動物編:動284(1)
アイヌ語名:イセポ isepo
語義:[i-se-po i(ウサギの悲鳴):i-se([ウサギが]キイと鳴く)-p(もの)-po(指小辞);‘キイキイ鳴く小さなもの’]
地域・文献:⦅胆振、日高(沙流地方)、十勝、石狩、天塩⦆
物語や歌など
ウサギの穂摘み
私はひとりで暮らしている男でした。ひとり暮らしなので、猟から帰ってくると自分で食事の支度をしていましたが、ある日猟から帰ってくると、私の家にかまどの煙が上がっていました。不思議に思いながら家に入ると、白い着物を着たきれいな女性が料理を作っていて、私にそれを出してくれたので食べました。翌日にはどこかに行くのだろうと思っていましたが、どこへも行かずに毎日私の料理を作ってくれました。とても料理が上手で、穀物の料理をとてもおいしく食べさせてもらっていました。
ある日私は猟へ行かず、女性も出かけずに家で針仕事をしていました。そこでこっそりと白い糸玉の糸に針を通し、女性の着物のすそに縫いつけておきました。すると女性が外に出ていくと糸玉が転がり、糸をたどっていくと村人たちの畑につきました。普段村人たちが「ヒエを作っておいたのがなくなる」と言っていたのに聞かないふりをしていたのですが、そこで穂を摘んでいる一匹の大きなウサギを見ました。そこで家に帰って普通にしていると、あの女性が帰ってきました。顔色が悪く、いつも通りに食事を済ませるとこのように言いました。
「人間の男性よ。よく聞いてください。私は人間ではなく、天の国のウサギ神の娘なのです。神の国を見回しても私にふさわしい男はいませんでした。そこで人間界に目を向けると、あなたが私にふさわしいと思ったのでここにやってきました。妻になって子供をもうけたならば、ウサギの嫁、ウサギの子と人から笑われると思ったので、妻にはならず、あなたの世話をするためだけにやってきたのです。でももう年を取ってしまったので、神の国へ帰ります。でもすぐにどこからか別の女性がやってくるでしょう。酒をつくったときは、天のウサギ神に祈りますと言って木幣を添えて捧げてください」。
そして翌日、その女性は大きな年寄りウサギになってどこかへ行ってしまいました。その後どこからか女性がやってきたので、妻にして子供ができました。そこで言われた通りにウサギ神に祈り、子供たちが成長したらウサギ神に祈るようにと言い残して死んでいきますと、ひとりの男が物語りました。(安田千夏)