やや湿った林内に生えるクルミ科の高木です。
アイヌ文化では、実を干して保存食にします。また幹から黒色の染料を煮出し、織物やきせるなどを黒く染めました。
この木では木幣も作ります。日高地方ではヘビや馬、道東地方ではヘビやオオカミという特定の神様のためだけに作るとされています。
アイヌ語辞典
アイヌの伝承
物語や歌など
クマと木の神の会話を聞いた男
私は父母と一緒に暮らしている若い男性でした。父母はもう年老いて働けないので、私がひとりで家の仕事や狩りをしていました。
ある時山でクマの歩いた道を見つけたので、そこに立っていた大きなオニグルミの木に登り休んでいました。すると大きなクマが浜から来て、木の幹に背中をくっつけて休み、このように言いました。「オニグルミの神様、今年は食糧がなりましたか?交易に行くために浜に出ていたのですが、帰ってきたのです」。するとオニグルミの木は体を揺すり「今年は不作で、あなたにあげるだけの実りはないのですよ」と言いました。するとクマは「ちっ!」と舌打ちして立ち上がり、今度はカシワの木のところに行きました。そしてまた「カシワの女神よ、今年の実りはどうですか?」と聞きました。するとカシワは「今年はたくさん実ったので、袋いっぱいにありますよ」と言いました。するとクマはそのドングリの入った袋を背負って、山へ帰っていきました。
私は木からおりて木の神に祈りました。「私は悪い心を持って来たのではありません。父母を養っていたのですが、今日山に来るとクマが浜へ下りた跡を見つけたので、出会ったら大変だと思ったので木の上に隠れていたのです。そして神様たちの会話を聞いたのですよ。どうか怒らないでください」と言って、家に帰ってきました。
食事をしながらそのことを父と母に話したところ、父はこう言いました。「おまえが立派な人としての心を持っていたので、神の話を聞いたのだ。これからも決して悪い心を持たずにいたならば、子供ができて神に守られるのだよ」。そして父は火の神に祈り、クマの神、木々の神に感謝の言葉を届けました。
父と母が死んでからはひとりで暮らし、どこからかやってきた女性と結婚し、子供たちが生まれました。男の子には男の仕事、女の子には女の仕事を教え、「まずクマの神、そして木の神々に祈るように。そうすれば神に守られるのだ」と言い置いて死んでいきますと、ある男が物語りました。(安田千夏)