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私はクマの神様です。ある時人間の村に飢饉がやってきました。人間たちはお腹を空かせて今にも死にそうです。私も食べるものがなくてすっかり困ってしまい、魚を司る神様やシカを司る神様に、食料である魚やシカを出してくれと頼みにいっても、相手にされませんでした。
困り果ててとぼとぼと自分の家に帰ってくると、来るときにはなかったはずなのに、途中に大きな家が建っていました。外の干し竿には、飢饉だというのにクマやシカや魚の肉がたくさんぶら下がっています。家の中に入っていくと、その家の男性が笑いながら「尊い神様はお腹が空いているようですね。たくさん食べてください」といって、魚を料理したものをよそって出してくれました。お腹が空いて早く食べたいのですが、私は偉い神なので拝礼の所作を欠かすわけにはいきません。何度も丁寧に拝礼を重ね、いざ食べようと思ってお椀を見ると、山盛りの食べ物だと思っていたものは、とぐろを巻いたヘビの山盛りだったのです。驚いて悲鳴をあげ、神窓から外に飛び出して自分の家に逃げ帰ってきました。
何が起こったのだろうと思って、神の力で見通してみると、私があがりこんだのはヘビの神の家で、その家の中でヘビたちが神が転げ回って私のことを笑っている様子が見えました。じつはヘビの神が天界から下りてきて、飢饉への対処について相談しているところに私が通りかかり、私はヘビの神からまやかしを見せられたのでした。驚きあきれてそのまま様子を見ていると、ヘビの神はさんざん笑った後で立ち上がり、ヘビ模様の着物を頭からかぶって、家を出ると浜に下りていって海の中に入っていきました。
魚の神の家に入っていって、わざと尻尾を振り回して戸口にぶつけて大きな音を立て、寝ている魚の神が起きて頭をあげるとそこにヘビの神がいたのです。驚いて飛び起き「どうか命はお助けください」といい、ヘビの神がなおも飛びかかろうというしぐさをすると、魚の骨の入った袋を出してきて骨を海にばらまくと、魚が海や川で飛び跳ねる様子が見えました。魚の神が一生懸命謝ると、ヘビの神は笑いながら家を出て、今度はシカの神の家を訪ねました。
同じ様にわざと大きな音を立てて入っていくと、シカの神は飛び起きて「どうか命ばかりはお助けください。人間がシカを食べるときの行いが悪いので、腹を立てていたのです。今シカを出し、2度とこのようなことはいたしません」と言いながらシカの骨が入った袋を出してきて、狩り場にまくことを約束しました。ヘビの神は笑いをこらえつつ帰ってきて、仲間と大笑いして、ついでに私のことも再び転げ回って笑っていました。
私は人間たちに夢を見せて「このようなわけだ。人間たちの獲物の扱いが悪いために、魚の神、シカの神が怒って獲物を出さなかったのだよ。ヘビの神が神々に働きかけ、獲物を再び出してくれるようになったのだ。これからはヘビの神に木幣を捧げて祈るようにしなさい」と言いました。人間たちは、力の残っている者たちが獲物を獲り、弱った人たちに食べさせて、すこしずつ元気を取り戻しました。私やヘビの神は人間から木幣を捧げて祈られています、とクマ神が物語りました。
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