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物語や歌

C0020. 父の旧知の村で迷う魂

あらすじ

 

 父と母がいて、私はひとり息子でした。両親はもう年をとったので、家の仕事はすべて私がやっていました。山猟にいってクマやシカをとってくると、毛皮を交易品に加工していたのですが、それがたくさんたまった頃に父がこう言いました。

 「息子よ、私が死ぬ前に、若い頃に交易に行っていた和人の村へ行って交易をしてきておくれ。朝早く村を出て、途中でアイヌの村を通りかかったらその近くに狩小屋を作って泊まり、交易に行って帰ってきたら、俵と樽をひとつ、そして酒をその村の村長のところに持っていきなさい。そこの村長は私の古い友人なのだ。子だくさんの村長であったけれど、今はどうしているのかわからない。おまえが行って確かめてきておくれ」。そう言われてからもしばらくは年老いた両親に留守番をさせることが気がかりで出掛けられないでいたのですが、ある時、両親が困らないように留守中の準備を整え、交易に出掛けることにしました。

 海に舟を漕ぎ出すとおだやかな凪(なぎ)でした。途中で父が言った通り、アイヌの村が窪地一帯にあるのが見えました。その近くに上陸し、狩小屋をつくって火の神様に祈りました。すっかり暗くなったので用を足して寝ようと思い、外に出ると、山の尾根に沿って松明の明かりが起こり、降りてきて家のまわりを回っている様子が見えました。不思議に思って家に戻り、火の神様に報告し、しっかり私を守ってくれるようにお願いし、どんなに耳を澄ましても人が歩き回る物音もしないのでますます不思議でしたが、安心してぐっすりと眠りました。

 翌朝になってまた舟を漕ぎ出し、和人の村に到着しました。父が親しくしていた殿様のところで歓迎され、2、3日泊まっていきなさいと言われましたが、家の年寄りたちが心配なので一晩泊まって帰ることにしました。殿様の家来たちにたくさんの荷物を舟に積んでもらい、再び来ることを約束して帰途につきました。

 途中で例のアイヌの村に立ち寄り、小さい俵をひとつ持って家を訪れましたが、誰も出てきません。家に入っていくと、家の人と思われる屍(しかばね)がいくつも横たわっていました。驚いて火をたき、火の神様にわけを教えてくれるように頼みました。鍋があったので料理をたくさんして、火の神様を介して死んだ人たちが食べられるようにと祈りました。

 狩小屋に帰ろうとしたのですが眠くて動けなくなり、その場でぐっすりと眠ってしまいました。夢にその家の人たちが生きていた時の姿で出てきて言いました。「私たちの村は突然流行病に襲われ、滅んでしまったのです。誰も祭ってくれる人もなく、神の国への行き方もわからないので、泣きながら家のまわりを歩き回っていたのです。それがあなたの見た松明の明かりの正体なのです。そしてあなたはとても心が美しいので、私たちのために食事を捧げてくれたので、本当に久しぶりに食事をすることができました。心から感謝いたします。明日の朝、私の宝物の中から欲しい物をお持ちください。そして家ごとに先祖供養の印だといって外に置き、村人たちが神の国に持っていけるように祈ってください」。驚いて起きてからは自分の舟にいき、樽やカマス、俵を背負ってきて家ごとに供え、いわれた通りに宝物を外に置き、家をすべて燃やしました。

 もう一晩泊まってから私の村に帰り、父に全て報告すると、父は泣いて「自分は何も知らないで暮らしていた。息子よ、ありがとう」と私に感謝しました。翌日になって、村人の中から良い人間、夫婦5組を選び、あの村のあったところで村づくりをしようと提案しました。皆で出掛けていって家をつくり、家の煙があがるだけでも供養の印となることを村人たちに言い聞かせ、恐れずにここで暮らし、縁のある村の人たちを供養してあげなさいといって帰ってきました。

 しばらくすると父も母も老衰で死んでしまい、それからは毎年私は交易に出掛けていき、あの村で休んで、そこの村人を連れて交易に行き、人々から感謝されました。「これからは人が通りかかったら泊めて、村を大きくしなさい」というと、私が毎年行くたびに村人は増えていき、皆でいたわりあって暮らしました。殿様のところに行くと、たくさんの交易品を受け取って帰ってきました。結婚して子どももたくさんでき、もう自分も年老いたので、先祖を供養することの大切さを人々に言い残します、とどこかの長者が物語りました。

 

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