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物語や歌

C0021. シナ皮を背負ったクマ

あらすじ

 

 私は本当に立派な村長で、立派な女性と結婚して暮らしていました。ふたりとも働き者で何不自由ない暮らしをしていましたが、ただひとつ子どもがいないことだけを寂しく思っていました。

 (話者はその妻に代わって)ある時狩りに行って2、3日帰ってこなかった夫が帰宅すると、このように言いました。「もう冬が近いので、家の壁や屋根を直すのに縄がたくさん必要になる。おまえは山に行って、縄の材料になるシナノキの皮をたくさん剥いできておくれ。山道を行くと川の上流に手ごろなシナノキの若木がたくさん生えたところがある。そこへ行って取ってきておくれ」。そして夫はまた狩小屋を作りに出掛けていってしまいました。

 天気のいい日に、私は山刀と荷縄を背負って出掛けていきました。すると夫の言った通りに、川に沿った高台にちょうど剥ぎ頃の若いシナノキの林があったので、そこで皮剥ぎに精を出しました。日が暮れようとする頃に荷物をまとめ、ふと川の底のほうに目をやると、なんとクマが私のほうに向かって登ってくるではありませんか。そのクマといったら、体中に毛が全く生えておらず、異様な姿をしていて大変気味が悪いのです。どこに逃げようにも、逃げる暇を与えられないように思って立ちすくんでいると、クマはもう私に手が届くところまでやってきました。そこで私は、シナノキの皮をまとめた荷物を思い切り蹴り落としました。するとクマは、その荷物を抱えたまま悲鳴をあげて川の底に落下していき、何かに衝突する音が響き渡りました。恐ろしくて泣きながら、神に助けを求めて祈りました。家に帰るときも、クマが死なずに私をどこかで先回りしているような気がして恐ろしくてならず、木の陰に隠れながら家まで戻ってきました。神様に祈りながら一晩ひとりで過ごし、翌日夫が帰ってきたのでわけを話しました。夫はひどく驚きあきれて、「何だか気が急くので帰ってきてみたら、そんなことがあったのか。神がいなければ殺されてしまっていたのではないだろうか」といって、怒りながら祈りの儀式をしました。
 その翌日、夫がクマの落ちたあたりを見にいくと、あのクマがシナノキの荷物を抱えたまま死んでいたということでした。夫は腹が立ったので、クマの頭を腐れ木の上に置き、罰して帰ってきたといいました。
 その夜見た夢には、げっそりとやせた、真っ直ぐな髪のみずぼらしいじいさんが出てきて、今にも死にそうな様子でこのようにいいました。「これ人間の娘よ、私は山すそに住むクマじいさんである。クマたちは人間の村に遊びにいって帰ってくると、オタスッの村長の妻であるあなたのことばかりを褒めるのだ。私はそれに腹を立てた。『神が人間を守っているものだというのに、なぜ神は自分を軽んじるようなことをいうのだ』と文句をいうと、神々は『ならばあなたはオタスッの村長の奥さんを殺して背負ってこい。そうしたら一番の上座においてあやろう』というのでなおさら腹を立てつつ暮らしていました。あなたたちが2人でいると、逆にこっちがやられてしまうと思ったので、旦那さんは山に行かせ、あなたがひとりでシナノキの皮剥ぎにいくように仕向けました。ところが私はあなたから川の底に落とされ、みじめな死に方をすることになったのです。神の国にシナノキの皮を抱えたまま帰ると、他の神様たちからさんざんに悪口をいわれました。あなたたちが、私が今まで通り神の末席にいられるように言葉を添えてくれたならば、今後はこのような悪さはせずに、あなたたちの背後に憑いて守り、子宝にも恵まれるようにしてあげましょう。悪い神を悪いままにしておくと、恐ろしいものですよ。どうかそのようにしてください」
 朝起きると夫も同じ夢を見たようで、怒りながら神に祈り、悪神に捧げる木幣と酒粕を持って外に出ていきました。帰ってくると、あの悪いクマに木幣を酒粕を捧げ、送ってやったのだといっていました。
 その夜また夢を見ました。あのみずぼらしいじいさんが髪を切りそろえ、笑いながら私に向かってお礼をいっている夢でした。
 それからしばらくは家の外を出歩くのも恐ろしかったのですが、やがて元通りになり、つわりが来たと思うと子どもが生まれました。それからもたくさんの子宝に恵まれ、女の子たちには女の仕事を教えましたが、シナノキの皮剥ぎをするときや、何をするときでもまわりをよく見回してからにしなさいとよく言い聞かせました。夫も男の子たちに「お母さんの憑き神が弱ければ、おまえたちの母はいなかった。神様はいるものなのだから、神を敬うことを忘れないようにしなさい。そして儀式のときは一番先に山すそのクマじいさんに祈るようにしなさい」と教えて、もう年を取って死んでいくのですと、オタスッの村長の妻が物語りました。

 

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