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物語や歌

C0029. 殿様の無理難題とアイヌラックㇽ

あらすじ

 

 どこかの村の立派な村長が私で、妻は働き者で、畑仕事をして何でも作って暮らしていました。私も山猟にいくとクマやシカをとってきて、何を欲しいとも思うことなく暮らしていましたが、ただひとつだけ欲しいと思うのは子どもでした。
 ある時和人の村から何度も手紙が来て、いうことには「この村のアイヌの村長は、本当に勇気のある人だという噂を聞いた。我々の村に来て勇気比べをしよう」という内容でした。どうしてそんな噂が立ったのかわからず、行かないでいました。すると毎年毎年手紙が来て、ついには「求めに応じないために和人の村からアイヌの村に軍勢が攻めてきて、戦になる」という噂が立ちました。村人たちが苦しい目にあうのではないかと思ったので、仕方がなくこちらから出かけていくことにしました。神々に、私の背後に憑いてくれるように祈り、また村人たちにも私の背後に憑いて守ってくれるように頼みました。食糧を舟に積んで、泣いている妻に留守を頼んで出かけていきました。
 何日も泊まりながら進んでいくと、今まで交易にいくために通ったところに、見たこともない小さい山があって、その上には屋敷が建てられていました。山の下にある小さな入り江に舟をつけて、その山を登っていって、屋敷の前で咳払いをすると「お入りください」という声がしました。入ってみると家の中は光り輝いていて、神らしい姿の男性が座っていました。座の中央に座り、拝礼をして今までのいきさつを話すと、神の男性は顔をあげてこのようにいいました。
 「人間の旦那さん、私の言うことをよく聞いてください。私は天の国に住むアイヌラックㇽという神なのです。あなたがひとりで出かける様子を見て、とても生きては帰れないだろうと思ったので、あなたと一緒に行くつもりで、ここであなたをお待ちしていたのですよ。一緒に行きましょう」。
 そしてこの神と一緒に舟に乗り、和人の村に出かけていきました。神は、神の不思議な力で私の前に立ち、私になり替わり、私の姿を見えないようにして「何があっても身動きせずに、私の後ろに隠れて見ていなさい」と言いました。和人の村に着くと「アイヌの長者が来た」と言いながら和人たちがやってきて、私(の身代わりになっている神)を勇気比べをするための屋敷に連れていきました。屋敷に入ってみると、まさかそのような物があるとは思わなかった大きなまな板があって、私をそこで切ろうとしているらしいことがわかりました。人間は神ではないので、切られたら死んでしまうと思って、ひどくおびえていると、私の身代わりの神はまな板の上に横になり、和人の殿様が太刀を振りおろしました。すると何ということか、神のすがたは太刀で切られる前に消えてしまい、何度切ろうとしてもできないのでした。
 神はやがて立ち上がり、足を踏み鳴らして怒り「今度は殿様たちがここに横になりなさい。同様に切ってあげましょう」と言うので、殿様が言うことには「噂に聞く勇者であるアイヌの長者を切り殺してしまうつもりでしたが、できませんでした。たくさんのお詫びの品を差し上げますのでお許しください」。そう言っても神は怒りを解かないので、殿様は「それでは改めて交易船を出してお詫びにうかがいます。今後このような無茶は決して申しません」と言いました。そこで神は「今後このようなことがあれば、アイヌのほうから戦を仕掛けるぞ、わかったか」と言いました。殿様たちはたくさんのお詫びの品の舟に積み込んで、後からも舟で荷物を届けますというので、私は神と一緒に先に舟に乗って漕ぎ出しました。舟の上で神は私に「これからは何も恐れるものはないでしょう。酒が手に入ったら私に祈ってください。そうすればいつまでもあなたの背後に憑いて守ってあげましょう」と言いました。アイヌラックㇽ神を屋敷に送り届け、神が山を登って屋敷に入る様子を見てからまた舟を漕ぎ出し、しばらくして後ろを振り返ると、あの山も屋敷も跡形もなく消えてしまっていました。
 私の村に帰ってくると、村人たちも妻も大喜びで私を迎えてくれました。何日かすると和人の交易船がやってきて、色々な品物、宝物を届けてくれました。村人たちのおかげもあって生きて帰ることができたので、少しずつですが皆に分け与えました。アイヌラックㇽ神や色々な神々に酒を捧げて感謝をしながら暮らしていると、子どもを次々を授かり、もう何も人をうらやましいと思うこともなくなりました。子どもたちや村人たちに「若い頃は和人のきまりごとがきびしく、危なく殺されてしまうところだったが、神の力が強かったために生きて帰ることができたのだ。おまえたちが今生きていることも神がいたおかげなのだから、神に感謝することを忘れずに暮らしなさい、村人を守りなさい」と言って年老いて死んでいきますと、ある村の村長が物語りました。

 

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