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どうして自分が生まれたのかわかりませんでしたが、家には祖父母と父母、そして兄と姉が6人ずついました。そして私だけは犬と一緒に物置の隅で育てられていました。家族が骨を私の上の投げると、犬たちは私を踏みつけて喧嘩をし、骨を取り合いました。私も骨をかじりながら暮らしていましたが、一番下の姉と兄だけは、こっそり食べ物を懐に入れてきて私にくれるので、それを食べていました。
少し大きくなると、まき取りをするようになりましたが、私がいいまきを取ってくると、家族は私を叩いていじめました。悪いまきを取ってくると喜びました。私がいじめられると、一番下の姉と兄だけはなぐさめてくれましたが、山猟に行くときも「貧乏人の子は狩りには行けないんだよ」と言って、決して私を連れていってはくれませんでした。
もう若者といえるくらいに私が大きくなると、一番下の姉と兄はこのように言いました。「父や母、村の人たちが話し合っているのを聞くと、おまえはどこか遠くに連れていかれてしまうのだという。おまえの実の父が祈っていた神がいるだろうから、どこに行ったとしてもその神に祈りなさい」そしてふたりは私をなでさすりました。
ある時酒をたくさんつくり、女たちは毎日杵つきをして、酒宴の準備をしているようでした。村人たちが家に集まってきて、儀式の前に唄ったり踊ったりしていましたが「貧乏人の子も家に入って食事をしなさい」と言われたので家に入ると、犬用の粗末な椀に、何か汁物を入れてくれて、それを食べると本当においしいのでした。父に「明日おまえを交易に連れていくから」と言われ、その後また物置で寝ていると、一番下の姉と兄が泣きながら来て「良いことをしにおまえを連れていかれるのではないのだ。おまえは神の子孫なのだから、神を背後に憑けて、何とか生き残っておくれ」と言いました。
翌日私は父に交易に連れていかれました。海に舟を漕ぎだすと、一番下の姉と兄は、浜に出ていつまでも私のことを見送ってくれていました。夜も昼も舟で進んでいって、どのあたりか神の山がそびえていて、その山の下にある砂浜の入り江に父は舟をつけました。「ここに上陸して休もう」と父が言うので砂浜にあがって休んでいると、父はすぐに舟に乗って海へ漕ぎ出し、私を置き去りにしていってしまいました。私は心細さに大泣きをし、一番下の兄や姉を呼んで泣き叫んでいるうちに陽が暮れてきました。
すると山の上から年寄りの男性が降りてきました。私を抱きしめて「かわいそうに、おまえが捨てられてしまった様子を見たので私は来たのだよ。一緒に行こう」といって、その年寄りは先に山を登り始めました。私はついていって、途中で道が悪いところがあると、その老人が私を背負い、頂上まで登っていきました。そこにはきれいな平原があり、家が建っていました。家にはおばあさんがいて、海の食べ物を料理してくれたので、たくさん食べました。それからその家で暮らし、何年か経って私は一人前の男にまで成長しました。
もう何でも一人前にできるようになったので、おじいさんはこのように言いました。「おまえの本当の父はオタスツの村長で、おまえをここに捨てていった男はその家の居候だったのだ。おまえの父はおまえを立派に育てるように居候に頼んで死んでしまったのだが、居候には6人の息子と娘ができたので、おまえの出生をねたみ、貧乏人の子としておまえを育てたのだ。しかし神は目の見えないわけではない。おまえの父が祈っていた神々がおまえを守っていたので、おまえは今まで無事でいられたのだ。私は海を司る老神である。おまえはこれから居候の悪者たちの村に行って、悪者たちを罰してきなさい。心がけのいい者は殺さずに仲間にしなさい」。
そしておばあさんが肌着を出してきて「この肌着の中に座って、どんな音がしてもじっとしていると、やがておまえの村に着くことができるのだよ」と言いました。肌着の口を開けて中に入ると、肌着は浮き上がって神窓から外に出て、雲の上まで飛びあがって海の上を飛んでいきました。海鳥が歌う声を聞きながら飛んでいき、見知らぬ村の上を通りかかると、村人たちが恐がって隠れる様子を見ました。やがて私の住んでいた村に着くと、村人たちは噂を聞いたのか、逃げてしまって誰もいないようでした。私の住んでいた家に着くと、肌着はひとりでに着陸してはらりと下に落ちました。
家に入っていくと、一番下の姉さんと兄さんだけは、寝所で隠れていたのでした。村人たちがどこに行ったのかと聞くと、山に逃げていったというので、そこに行って悪い者たちをみんな殺してしまいました。良い人たちは殺さずに、一番下の姉と兄のところに戻り、今までのいきさつを語りました。そして自分はまた戻ってくるからと言って姉たちに留守番を頼み、また肌着の中に入っておじいさん、おばあさんのところに帰ってきたところ、ふたりは喜んで迎えてくれました。そしておじいさんが言うには「もう何の心配もなくなったから天に帰るので、酒が手に入ったら自分たちを祈るように、そうすればいつまでもおまえたちを守ってあげよう」ということでした。そしておじいさんが私の村まで私を背負ってきて、私を置いて天の国に帰っていきました。
それからは村人たちを守って暮らし、どこからか淑女がやってきたので結婚し、子どもがたくさんできました。酒が手に入ると儀式をして、海の老神に必ず祈るようにと皆に教えました。一番下の姉と兄もそれぞれ結婚し、私は村人を守って暮らしていますと、ある村の長者が物語りました。
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