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私はある村に住むひとりの男でした。働き者で猟運にも恵まれ、何不自由のない暮らしをしていました。妻も働き者なので、畑仕事をして作物を何でも作っていたので、人をうらやましいと思うこともなかったのですが、たたひとつ、子どもがないことだけが寂しく思うことでした。
ある時、山の中を奥深く進んでいって、大きな木があるところを通り過ぎたところで、突然「私をかじって!」という声が聞こえました。あたりを見回しても、誰の姿もありません。また歩こうとして足をあげると「私をかじって!」と声がします。少し戻ってみると、イヌエンジュの大木があって、その木に触ってみるとまた同じ声がしました。どうやらその木から声がするようです。何かの神が何かを教えようとしてそのようにいうのだろうと思い、いわれた通りにその木をかじってみることにしました。イヌエンジュなのでかじるととても苦く、途中でやめようかと思いましたが、やめようとするとまた「私をかじって!」と声がします。木のまわりをまわりながらかじり続け、お腹がいっぱいになった頃「もうかじらなくていいよ」という声がしました。木の神に拝礼をしてから歩いていくと、何かが私の近くを通った気がしたので見たところ、樽ほどの太さもある見たこともない大きなヘビの赤マムシが私に襲いかかってきました。そこで戦いになり、何度か死にそうになりましたが、最後には私がヘビの皮をはいで殺してしまいました。木の神のおかげで助かったと思い、山を降りて、私の家まで帰ってきました。外から妻を呼び、体をはらい清めてから家の中に入り、火の神様に悪神を罰してくれるよう祈りました。
その夜夢に男が出てきてこう言いました。「これ人間の旦那さん、私の話を聞いてください。私はあなたに襲いかかった赤マムシの神です。神の国でもあなたは評判の勇者であり、私はそのことにひどく腹を立てていたのです。神があってこその人間、その勇気も神が憑いているからこそのものなのに、人間が偉いというのは我慢がならなかったのです。そこであなたを殺してやろうと思って襲いかかったのですが、イヌエンジュの神が先にあなたに憑いていたので、私は負けてしまいました。これからはこのような悪い心は持ちません」そしてイヌエンジュの神も(夢に出てきて)「酒が手に入ったら私に祈ってください。マムシというものはイヌエンジュのにおいを嫌がるものなのですよ。どこへいくときも、イヌエンジュの小片を懐に入れていきなさい」というので、起きてから神に感謝の祈りを捧げました。
それからは山猟にいっても悪い神に遭遇することはなく、いつも猟運に恵まれて暮らしました。それからは子どもも、男の子も女の子もたくさん生まれたので、子どもたちに若い頃にあった事件について話し、イヌエンジュの神のおかげで助かったのだから、イヌエンジュの神に祈ることを忘れないようにしなさいと言い置いて、年老いて死んでいきますとある男が物語りました。
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