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私はポイヤウンペという名で、育ての姉と一緒に暮らしていました。どうして自分が生まれたのかわかりませんでした。姉に男の仕事である山猟をするように言われ、クマやシカをとってくると、姉は喜びました。毎日山猟にいって、とってきた物を干し竿にぶらさげ、それ以外は刀の鞘に彫り物をして、よそ見をせずに没頭していました。姉が食事だと声をかけると食事をし、食べ終わるとまた彫り物をしていました。
もう一人前の男に成長すると、ある日海の向こうで戦いの音がしました。姉は「弟よ、戦いの音を聞くのではありません」と言いましたが、気になって仕方がありません。外に出ることも禁じられ、姉は火をたいて、何もしないで眠らずに私を守っていました。ひどく腹が立ちました。何ヶ月かして今は冬が近くなり、戦いの音はあいかわらず響いていて、海の向こうでは仲間のない神がやられているようでした。行って見てみたいと思いましたが、姉は駄目だといいました。
ある日姉が眠ってしまい、戦いの音は私のほうに迫って来るように思えました。すると突然家のてっぺんから神の声が聞こえました。「これポイヤウンペよ、おまえには耳が、心があるのか。もう何年も、沖の神が人間の村を滅ぼして海にしようとしているのを、おまえの兄オイナカムイが天から降りて防ごうとした。長い間論争をしたけれども沖の神は聞く耳を持たなかった。そこで戦いになり、何年かしておまえの兄は劣勢になったので、海の鳥の神である私に『弟に知らせてください。加勢に来させてください』と言ったのだ。あなたは何も聞こえないふりをして、一体何をしているのというのだ」と言われて、ひどく腹が立ちました。
姉はまだ寝ているので、私の彫り物をしまい、神の鎧(よろい)を着て外に出て、鳥の後について飛んでいきました。守り神に助けを頼みつつ海の戦場につくと、兄はすっかりやられて着物も体も削がれて、骨ばかりになっていました。「このポイヤウンペが来たからには、おまえたちただでは置かんぞ、わかったか」と私は言うと、兄を抱えて飛び上がり、兄を天の国に返す途中に介抱して元通りにしてあげました。「兄さん早く元気になって戦いに戻ってきてください」と言って、私は戦いの場に戻りました。
悪神たちは「ポイヤウンペを討って名をあげろ」と言って私にかかってきました。海の上で悪神を突いて切って戦いました。「兄が言う通り、人間がいるおかげで神々は木幣や供物を受け取ることができるのだ。滅ぼされてなるものか」と思い、すっかりやっつけてしまいました。悪い神たちは泣いて謝って「命ばかりは助けてください」と言って、逃げることもできずに命乞いをする者もいました。沖の神には「今後は人間たちがちゃんと食べていけるように考えろ、そうしなければ地下の湿地に行かせるぞ」と言いました。
私が戦いを終えて海を越え家に帰ってくると、姉はまだ寝ていたのでひどく腹が立ちました。そのうち姉は目を覚まして、私が説明したのでやっと全てを理解しました。
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