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私はひとりの女の子で、兄とふたりきりで暮らしていました。どうして自分が生まれたのかもわかりませんでしたが、兄は猟が上手なので何不自由のない暮らしをしていました。兄についていってまきを取ったりしていて、少し大きくなると、兄は私に山菜とりや畑仕事を教えました。
あるときオオウバユリ掘りにひとりで山へ行くと、どこからか男の子の泣き声が聞こえてきました。声のするほうに進んでいくと、やっと歩けるようになったくらいの小さな男の子が、何度も転びながら、お母さんを探して泣き叫んでいるのでした。近くに行ってみると、きれいな顔立ちをしていて、耳には立派な耳環をしていました。こんなにかわいらしい子を捨てたのか、忘れて山を下りてしまったのかしらと思いながら、その子をあやして背負い、オオウバユリも一緒に背負って、重たい思いをしながら家に帰ってきました。兄に事情を説明すると怒られてしまい、それでもかわいそうなので私が育てていましたが、兄は毎日のように私たちをいじめました。「どこかへ連れていって殺してしまえ」とまでいうので、ここにいたらこの子は兄に殺されてしまうと思い、荷物をまとめて子どもを背負い、山の中へ逃げていきました。
山の中の知らない場所にきれいな川が流れていたので、そのほとりに小さい小屋をつくり、その子と一緒に暮らすことにしました。野草をとって、川には魚が遡上してきていたので、それを釣って食べて暮らしていました。
夏の終わり頃、何かの音がするのでそちらを見ると、山の高いところをクマが歩いているのが見えました。何かを転がして落としてきたので、見るとそれは大きな雄ジカの死骸なのでした。私たちに同情してクマ神が獲物をよこしてくれたのだと思い、クマ神に感謝して火の神に報告し、シカ肉をさばいて保存食にし、そのおかげで飢えることもなく暮らすことができました。そしてやがて、この子の親か知り合いを探そうと決意し、山を下りていきました。
知らない村に着いて一軒の家を訪れると、しばらくして女性が出てきましたがすぐに引っ込んでしまい、家に招き入れてはくれませんでした。そこで子どもの手をひいて勝手に家に入り、かしこまって座っていました。家の中には先ほどの女性がひとり、そして宝壇の前に男性が着物の袖を頭から被り、丸まって寝ていました。その男性は私たちを見ると起き上がり「どこから来たのか」と尋ねました。そこで今までのいきさつを話すと、男性は男の子を抱きしめて「私の息子ではないのか」といって泣きました。
「私の悪い妻が、ある日私が山猟から帰ってくると『山で息子が行方不明になった。誰かに連れ去られたのだろう』と言うので、それからは息子のことを思い煩って何をする気力もなく、寝込んでいたのだ」というのでした。そして火箸を取り、妻をさんざんに打ちのめし、なぜ子どもを捨てたのかと問いただしました。すると女は「子どもができたら旦那さんは子どもばかりをかわいがって、私をかわいがってはくれなくなった。それに腹を立てて、息子さえいなければ、またあなたと仲良く暮らせると思ったので捨ててしまったのです」と言いました。その男性はひどく怒り、その女を打ちのめして追い出してしまいました。そして私に感謝し、妻になってくれと言うので驚きました。私は兄が恋しいけれど、私がいなくなっても探しに来なかったのだから行くあてもないと思い、その人に言われるまま結婚して、そこでその子と3人で暮らすことにしました。
そのうちに女の子が生まれると、夫はこのようにいいました。「お兄さんが元気かどうか、訪ねていこう」。そして夫とふたりで子ども達を背負って、生まれ育った村に行きました。兄と住んでいた家を訪ねて、出てきた兄に今までのことを全て話しました。すると兄は「私が悪かった。かわいそうなことをしたと思い、おまえ達が出ていってからは後悔して、食事もせずに寝てばかりいたのだ。こうして無事な姿で訪ねてきてくれたことに感謝します」と言って喜んでくれました。何日かして私たちの村に戻り、しばらくすると兄のところにもお嫁さんがやってきました。お互いに行き来しながら仲良く暮らし、子どももお互いにたくさんできました。
それから雄ジカを転がしてくれたクマ神は私の夫に夢を見せて、そのわけを聞かせてくれました。そのクマは村を守る神で、人間の女性がひとりで苦労をして子どもを育てている様子を見て同情し、雄ジカを届けたということでした。それからは酒をつくると、夫も兄もクマ神に祈りを捧げ、感謝をしながら幸せに暮らしていますと、ある村の女性が物語りました。
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