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物語や歌

C0052. お姫様のいれずみ

あらすじ

 

 私は立派な村の村長で、立派な女性と結婚して何不自由なく暮らしていました。男の子をひとり授かったので、大切に育てていました。年に一度はクマやシカの毛皮を持って、懇意にしている和人の殿様のところへ交易に行きました。たくさんの交易品を舟に積んでもらって自分の村に帰ってくると、奥さんが子どもを背負って飛び出してきて、たくさんの交易品を見て喜んでいました。

 今ではもう息子も大きく成長し、交易に行くと殿様は「あなたの息子も大きくなったでしょうから、一度交易に連れてきてください。私にはひとり娘がいるので、会わせていずれ結婚させましょう」と言ってくれましたが、まだまだ心配なので息子を交易には連れていかず、ひとりで行っていました。私が村に戻ると、息子はもう大きくなったので、舟を引っ張ったり荷物を運ぶのを手伝ってくれました。「僕が大きくなったら、父さんの代わりに交易に行きたい。来年は父さんと一緒に交易にいって、殿様と顔見知りになっておきたいんだよ」と言っていました。

 息子は今はもう立派な若者に成長し、狩りに行っても私以上にクマでもシカでもとり、毛皮の交易品も上手に作るようになりました。私が「来年交易に一緒に行って殿様と顔見知りになったら、その翌年からはひとりで交易に行きなさい。父さんはもう年を取って足が動かなくなるだろうから」と言うと、息子は「今までは父さんがひとりで頑張って僕たちを養ってくれたけれど、これからは僕が頑張って父さんと母さんを養うよ」と言ってくれました。

 息子と一緒に交易に行く日が来ると、妻は息子の散髪をし、上等の着物を着せて身支度をさせました。すると自分の息子なのに気がひけるくらいに、真の勇者の面差しをしていることに改めて驚きました。ふたりで出掛け、交易にいく道筋を教えながら舟を進め、殿様の村に到着しました。殿様は息子に会うと大喜びをし、屋敷に招かれました。

 ごちそうを食べて酒を飲み、大いに歓迎されていると、ふと、殿様にもひとり娘がいるという話であったのに、そういえば見たことがないと思いました。翌日帰ることにすると、殿様は息子に「来年からはお父さんの代わりに毎年来てください。ゆくゆくは私のひとり娘と結婚して、婿になってください」と言いました。

 たくさんの交易品を舟に乗せてもらって帰途につきました。そして海の真ん中に来た頃になって、なんと、美しい和人の娘が荷物の中から顔を出したので、本当に驚きました。息子は気づいていませんでした。息子が驚くといけないと思ったので、黙ってその娘を睨みつけました。

 するとその娘は泣きながら「私は和人の殿様の娘です。箱入り娘で、両親は私に外に出ることを禁じたのです。アイヌの旦那さんがどんな人なのか見たこともありませんでしたが、今回とうとう我慢できずに隠れて様子をうかがい見たところ、息子さんがあまりにも立派なので好きになってしまいました。舟に荷物を運び終わったところで忍び込み、今まで隠れていたのです。どうぞあなたがたの村に連れていってください。父たちは、私がいなくなったことを知ると、アイヌの旦那さんが連れ去ったのではないかと疑い、追いかけてくるでしょう。その前にアイヌの風習に従って髪を切り、入れ墨をしてください。そうすれば私ということがわからなくなるでしょう。それができないというのなら、ここで海に私を捨ててください」と言いました。

 そこで仕方がなく私たちの村に娘を連れていくと、妻は驚きました。息子もそこではじめて娘がついてきたことを知り、腹を立てていました。しかし妻は喜び、娘の言う通りにしてあげましょうと言って、家に連れていってしまいました。息子と一緒に荷物を運んでいると、息子は「それと知れば引き返して娘を殿様に返したのに、殿様たちが襲ってきたらどうするんだ」と言って怒りました。それをなだめて「おまえに惚れたっていうんだからそう悪く言うな」と言いました。夜になって、万事うまくいくように神に祈り、娘の髪を切って入れ墨をすると、娘は私たちや息子が気後れするくらいに神々しい、他に並ぶものがないくらいに美しいアイヌの娘の姿になりました。

 それから何日かすると、沖からたくさんの船がやってくるのが見えました。息子に「あわてたそぶりを見せるのではないよ。私たちが誘拐したのではない。神のはからいでやってきた嫁なのだから」。そう言って、妻にもその娘にも言い聞かせると、あの娘は笑いながら実に自然な仕草で、何事もないかのように家の仕事をこなしていました。

 そのうちに殿様たちが家来を連れて家に飛び込んできました。「あなたたちが交易から帰った後、娘がいなくなったことに気がつきました。娘を知らないですか。連れていったのではありませんか」と訊くので、私はあわてずに「ひとり娘なのに何とお気の毒なことでしょう」といって同情しました。殿様たちは私たちの様子を見て疑いを解き、食事を済ませると、あきらめて帰ることにしました。帰り際に「息子さんよ、私の悪い娘がいなくなっても、決してよそに行かず、私たちの屋敷に来てくださいね」そう言って帰っていきました。

 無事を喜んで祈りの儀式をし、神に感謝しました。神への結婚の報告も済ませ、ふたりは晴れて夫婦になりました。和人の娘はアイヌの風習を教えてくれと言い、すっかり私たちの生活になじんで暮らしました。働き者で、何でも覚えて上手にするので、年老いた妻は喜びました。息子はそれからも毎年殿様のところに交易に行き、色々な交易品を持って帰ってきました。殿様たちには同情するものの、これは神のはからいであったと思うように努めました。そのうちに男の子や女の子が次々に生まれ、かわいがって暮らしました。私の子孫達よ、いつまでも殿様とは懇意にするように、決して悪い心を持たずに暮らすのだよ、と言い残して、どこかの村の村長がこの世を去りました。

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