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物語や歌

C0056. 神の娘に恋をした(エイノ)

あらすじ

 

 私は非の打ちどころのない立派な長者であり、妻も同じように立派な女性で、ふたりとも働き者なので、何不自由のない暮らしをしていました。ただひとつ、子どもがいないことを寂しいと思っていました。

 ある時山猟に行きたくなり、ウタクンペチ、ウサㇻクンペチという山の尾根伝いに登っていきました。人の通ったような跡があるので、その跡をたどって進んでいくと、どうしたことか草の生え際や木の幹が時々ピカッと光るのです。どうしてだろうと思いながら、なおも高いところを目指して進んでいくと、どこからか女性の歌声が聞こえて来ました。やがて山の中の平原に出ると、その平原の真ん中で、どこから来たのでしょうか、とても美しい若い娘が歌を歌いながらオオウバユリ掘りをしているのでした。その娘のあたりで、やはり草の生え際や木の幹がピカッと光っています。私は神の娘というものを見たのだろうかと思って、その娘に隠れて近づいていきました。見るとその娘は片肌を脱いで、今ふくらみはじめた乳房を出して仕事をしているのでした。私は驚きましたが、神を見たということがにわかに信じられず、後ろから静かに近づいて、いきなりその乳房をわしづかみにしてしまったのです。すると突然大きな音がしたと思うと、私は何がどうしたのかわからなくなりました。しばらくして気がつくと、私は平原の真ん中でばんざいをして仰向けに気を失っていたのでした。あの娘は荷物と一緒にどこかに行ってしまい、影も形もありませんでした。

 私は家に帰ってすぐに、宝壇の前で着物の袖口を頭から被り、丸まって寝てしまいました。あの娘のことを思い煩って、食事も喉を通りません。妻が出してくれた食べ物にはかびが生えてしまいました。妻がわけを尋ねても、何も言いませんでした。何とかあの娘を自分のものにできないものか、そればかりを思って寝ていました。妻は泣きながら「どこかの女性が恋しいのなら、私が探して連れてきますからわけを話してください」と懇願しますが、何もいわずに食事もしないまま寝て10日か20日かが経ちました。

 するとある晩、夢にあの娘が出てきて怒った様子でこのようにいいました。「これアイヌの旦那さん、私の言うことをよく聞きなさい。私は天界に住む雷神の娘であって、あの日は年老いた両親のいいつけで人間界に降りてオオウバユリ掘りをしていたのでした。あなたが出し抜けに私の乳房をつかんだのでびっくりして、飛んで天界に帰ってきたのですが、両親はこのようにいいました。『どうしておまえは人間のにおいをさせて帰ってきたのだ。人間界で何か悪いことをしてきたのではあるまいな』何度もそう言うので、仕方なくわけを話しました。『こういうわけで、私に不埒なふるまいをしたアイヌの男が私を想って寝込んでいるのです。人間界を見てください』そう言うと、父と母は神の力で人間界を見通してから『なるほど、アイヌの旦那さんは気の毒だ。おまえは人間界に行って、あの夫婦には子がないようだから、あの旦那さんの子どもを産んであげなさい。そして男の子が生まれたら人間界に残し、女の子が生まれたら連れて帰ってきなさい』と言うのです。明日になったら板張りの家と共に降りて行きますよ、わかりましたね」。

 目が覚めると、神に感謝をして祈りました。妻も同じ夢を見たようで、満面の笑みで喜んでいました。きれいに顔を洗い、髪を梳いていたところ、外にある低い祭壇の端のほうで火のはねるような音がしました。外に出てみると、祭壇の端のほう一帯に、小さくも立派な板張りの家が建っているのでした。遠慮しながら家に入っていくと、あの娘が糸縒りをしているところでした。仕事の手を止め、食事の支度をして私に差し出してくれました。そこで結婚の誓いを交わし、妻も家に入ってきて、その娘の手を取って撫でさすり、親愛の情を示しました。それからその娘は妻と協力して、畑仕事でも何でもこなしました。やがて食事をもどすようになり、妊娠したことがわかりました。それからは妻はその娘に何も仕事をさせずひとりで働き、やがて男の子を授かることができました。その子はいつも妻が背負い、神の女性には何もさせずに仕事をひとりで何でもしていました。次にふたりめの男の子ができ、次に女の子ができました。妻は大喜びで、子育て、家事にいそしんでいると、子どもが少し大きくなった頃、神の娘はこのようにいいました。「子どもも大きくなったので、私は長い間人間の世界で暮らすことはできません。神の国に帰ります。あなたたちが泣くと、私は神の国で苦労するのですよ。決して泣かないで、男の子たちを大切に育ててください」。そう言って、女の子の手をひいて天の国に帰っていきました。

 それからは息子たちに山猟を教えて暮らしました。やがてどこからか立派な女性がやってきて息子たちと結婚し、年を取ってからは息子たちに逆に養われて暮らしています。若い時雷の神の娘の乳房をつかんだおかげでおまえたちがここにいるのだから、天の雷神に祈ることを忘れずに暮らしなさいと教えながら死んでいきますと、立派な長者が物語りました。

 

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