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物語や歌

C0063. 居候の男に言い寄られメス馬にされた奥さん

あらすじ


 私は夫と一緒に暮らしていて、夫も私も働き者で、何不自由のない暮らしをしていましたが、ただひとつ子どもがいないことを寂しいと思っていました。

 夫が猟に行かなかったある日のこと、私が外に出ると、神のような立派な男の人が家の外に来て、あたりを見ながらうろうろしていました。驚いて家に入り夫に報告したところ「きっと休みたくて来たのだろうから、家に入れてあげなさい」と言われました。ゴザを敷いて家に招き入れると、その男の人は入ってきて客座に座りました。夫とその男の人はお互いに拝礼して、どこから来たのか尋ねると、その男の人は自分の村の話は何もせずに「ひとりで寂しかったので、話し相手を探して歩き回っていたのです」といいました。すると夫は「家には子どもがいなくて寂しい夫婦なので、良かったらこの家にいてもいいのですよ」と言いました。その人は拝礼して、一緒に色々な話をしましたが、その人の話は人間の話ではなく神の話ばかりなのでした。

 その日からその人は家に住み込み、夫と一緒に山猟に行くようになりました。夫も狩りが上手いけれど、その人も負けないくらいに狩りが上手で、クマやシカを一緒にたくさんとってくるので、夫は喜びました。

 ひと月かふた月経った頃、ある朝ふいにその人は「今日は疲れているので一日休みたいのです」と言い出しました。夫は「よく働いてくれる人だから、一日や二日休んでもかまいませんよ」といってひとりで山猟に出掛けていってしまいました。私は何か胸騒ぎがして、外で杵つきなどの仕事をしていました。その人は神座の寝床に横になっていました。もう日が暮れる、夫が早く帰ってきたらいいのにと思っていると、急にその人が私に飛びついてきたので驚きました。「奥さん!私はあなたを好きになったのです。だから今まで旦那さんの狩りの手伝いをしていたのですよ」と言って、私の着物をはぎ取りました。下着一枚で外に逃げると、その人は追いかけてきて、下着をはぎ取りました。私は真っ裸になり、その人を見ると、なんと今まで人間だと思っていたのは大きな馬だったのです。そして何と大変なことに、私も馬の姿になってしまっていたのでした。鳴きながら水くみの道を通って逃げていくと、その悪い馬神は私を鼻で突いて、川を遡っていくように仕向けるのです。川を遡って逃げていくと、そこには神の山がそびえていました。その山を登っていくと、山の中に広い平原があって、平原の上手にはメス馬の群れがいたので、その中に飛び込みました。

 (ここから夫が語る)

 メスグマを一頭とって、家に帰ってきました。荷物を下ろしても、家の中からは何の音もしません。不思議に思って神窓から中を見ると、家の中には妻の着物が捨てられてあるのが見え、ゴザも跳ね上がっていました。驚いて家の中に入ると、家の中は馬の足跡だらけでした。玄関には妻の下着が捨てられていて、足跡を辿っていくと、小さい馬が先に逃げて、大きな馬が後を追いかけたようでした。危急の叫び声をあげて神に抗議し「神が見ていたはずなのに何をしていたのですか」と怒りました。もう日が暮れてしまったので、探しにいくのも恐ろしいので、その日は眠りました。

 翌朝明るくなってからしっかりと身支度をして出掛けていきました。足跡を追って川を遡り、神の山を登っていくと、山の中に広い平原がありました。大きな木の神が立っていたので、妻が悪神の目を逃れて自分のところに来ることができるようにと祈りました。すると突然、平原の上手から馬の群れが逃げてくる様子が見えました。後ろからは大きなオス馬が陰茎をぶらぶらさせつつ追いかけて来るのが見えました。群れが私の近くに来ると、その中に、体の真ん中に白い布を巻きつけたような馬がいて、私のところに来てこのようにいいました。「私の旦那さん、なんと恐ろしいことに、悪い馬の神が、あちこちの村のきれいな娘をさらって、自分の妻にしていたのでした。私もさらわれてきたのですが、もう人間の姿に戻ることはできないのです。私の体にある白い模様は、悪神が下紐を切り忘れたものなのです。どこかでまた生まれ変わっても、この模様を持って生まれることでしょう。私のことはあきらめて、相手は恐ろしい神なので姿を隠してお帰りください。私の願いで、どこからかひとりの女性を旦那さんのところに行かせますので、嫌がらずに一緒に暮らしてください。悪神のせいで私たちには子どもがなかったのですが、その女性との間には子どもがたくさん授かりますよ。それから私のことを供養しようとしても、それは叶いませんよ」といってその模様のある馬が頭を下げて涙を落としました。「悪神が来る前に、早くお逃げなさい」と言って、私から離れて走っていってしまいました。

 妻を憐れみ、神に対して怒りながら、夢ででも知らせてくれれば良かったのにといいながら山を下りてきて、妻のことはあきらめました。ひとりになって寂しく自炊しながら山猟をしながら暮らしました。

 ひと月かふた月経った頃、猟から帰ってくると、家にかまどの煙が立っているので驚きました。神窓から家の中を見ると、見たこともない女性が煮炊きをしていました。妻が言っていた女性なのではないかと思って、家に入ってわけを尋ねると、その女性はこういいました。

 「私の家には家族がたくさんいて、私は一人前の娘になったので、姉の手伝いをして両親の世話をしていたところ、今日の朝父が突然にこういいました。『ある村に立派な旦那さんがひとりで暮らしている。行って家のことを手伝ってあげなさい』というものですから、いわれた通りにやってきたのです」というので、妻がよこした女性であることがわかりました。その女性に拝礼して、一緒に暮らすことにしました。

 その女性も亡き妻と同じように働き者で手先が器用で、私を大切にしてくれるので、感謝しながら暮らしました。ひと月かふた月一緒に寝ていると、その女性は妊娠し、男の子が生まれました。しばらくは私が家の仕事をして、たくさんお乳が出るように妻に食べさせました。子どもは元気に育ち、次々に男の子や女の子がたくさんできました。

 大きくなった子たちは家の外に新しく家を建て、そこに婿や嫁が来て、孫も生まれてにぎやかに暮らしました。でも亡き妻のことは、死ぬまで忘れることはありませんでした。その妻を供養することもできずに暮らしました。家に人が来ても、自分の村の名を言わない者は恐ろしいから泊めてはいけないよと、子供たちにもよく言い聞かせました。話すのも腹立たしい話ですが、死ぬ前に話しておこうと思いました。馬の素性は人間なのだよ。恐ろしいものだよと言い残して死んでいくのだと、ひとりの長者が物語りました。

 

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