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物語や歌

C0064. 村長の息子と貧乏人の娘

あらすじ


 私は父、母と一緒に暮らすひとり娘でした。イペッの川下の村の下端に住んでいて、同じ村の娘たちがきれいな着物を着て遊んでいる様子を見て、少し大きくなると、自分の家が貧乏であることがわかりました。家の仕事をひとりでしているので、村の女の子たちと遊んだこともなく、ひとりで垢(あか)や糠(ぬか)のついたつぎはぎの着物を着て、もう年老いて体が動かなくなった父と母の面倒を見て暮らしていました。男の人が狩りで獲物をとってくる様子を見てうらやましいとは思いましたが、誰も家には獲物を分けてくれなかったので、私が畑で作った物を家族で食べて暮らしていました。

 ある冬の日の夜のこと、明け方に目が覚めて、いつもは用を足したいと思ったことなどなかったのに、何故かその日に限っておしっこがしたくなりました。起きて外のトイレにいって用を足していると、なんと私が用を足したところから白、青、赤色の虹が現れ、弧を描いてイペッの川上の村の上端にある村長の家の屋根に突き刺さる様子を見たのでした。恐くなって家に入り、誰にも何もいわずに、ただ火の神様にはひそかに助けを求めて祈りました。

 何かの神の罰で私が殺されたら、父や母はどうするのだろうと思いながら思い悩んで暮らしていると、ある時こんな噂を耳にしました。村長のひとり息子はとても立派な美貌の若者で、親たちの面倒をよく見て暮らしていたところ、ある時から寝込んでしまい、食事もとらずにもう2ヶ月も3ヶ月も寝たきりなのだというのです。村人たちは集まって相談し、村の若い娘たちを順番に屋敷に呼び寄せ、料理を作らせて、その息子に食べるようにすすめているのだといいます。でも誰が行って料理を作っても食べるどころか起き上がることもしないそうです。イペッの川上の村のすべての娘はもう料理を作りに行ってしまい、最近ではイペッの川下にある私の村から娘を連れていきますが、やはり誰がいっても駄目で、とうとう私以外の娘は全て料理を作りにいったということでした。

 もう死ぬのを待つばかりになった時、私の村の村長がやってきて、私に料理を作るように勧めました。私は虹のことを思い出して恐ろしくなり、そして汚い格好でいって料理をしても若旦那さんは食べるはずがないといって拒むと、村長から叱られました。「もうおまえがいって駄目ならば、村長の息子は死ぬしかないのだよ」と両親にも説得されたので、私は精一杯きれいに身なりを整えて、村長と一緒に震えながら出掛けていきました。

 イペッの川上の村長の家には村人たちがたくさん集まっていて、私を見ると皆汚がって、そんな娘の作った物を食べるわけがないといいました。でも村長とその奥さんは、私に料理をするようにすすめたので、村人の陰口を聞きながら料理をしました。食べ物を盛りつけて寝ている若者のそばに行くと、まさか自分でもそのようなことをいうとは思わなかったのに「若旦那さん、起きて食事をしてください。食べないでいると弱ってしまいますよ」と声をかけてしまったのです。すると何と村長の息子は起き上がり、笑って私の作った物を食べました。その場にいた人たちはみんなすっかり驚いてしまいました。でも村長と奥さんだけは私に感謝してくれました。すっかり食べ終わると、村長の息子は「神のはからいでこの娘は私のところに来たのです。この娘と結婚しますので、父さん母さん、わかってください」というので、そこにいた人たちが汚らしいといって陰口をいうのを聞きながら、私はこっそりと外に出て泣きながら自分の家に帰ってきました。

 両親にあったことを全て話し、嫁に欲しいといわれて黙って帰ってきたことを話すと、両親は「神のはからいでそのようになったのだ。貧乏人といわれ、仲間はずれにされても、私たちは神を敬って暮らしてきたのだ。神は人間の心を見て人を選ぶのだよ。泣くのではない」と言われました。でもあんな立派な家に住む若旦那さんが、そしてきれいな娘が村にたくさんにいるというのに、結婚なんかできやしないと思って、その夜は眠りにつきました。

 すると、夢に神のような姿の男性が現れて、私に話しかけてきました。「私は天の国に住む雷の神である。おまえの父と母は、この村の人たちから貧乏人といって馬鹿にされていた。でも心はとてもきれいな人たちであることを私は知っていたのだ。そして子どもがなく、子どもを欲しいと思って暮らしているのを見て、私の娘であるおまえを授けることにしたのだ。でもおまえが神のような美しい姿で人間界で暮らしたならば、悪い男が言い寄ってくるかも知れない。それが嫌だったので、わざとに汚らしい格好をさせ、男たちが唾を吐きかけるようにしたのだ。でもイペッの川上の村長の息子も神の子で、おまえと同様に天から降ろされた者だった。私はおまえたちを夫婦にしたいので、おまえが用を足したところから虹が現れ、イペッの川上の村長の家にかかるようにし、その様子をおまえに見せたのだ。おまえの父や母も一緒に行き、近くで暮らせるようにはからってくれるなら結婚しますと承諾しなさい。それから私は今日、おまえたちが着飾るための着物やアクセサリー類を持ってきたのだよ。明日の朝それを着て装い、先方が来るのを待ちなさい」そういう夢を見て目が覚めると、本当にきれいな着物などがありました。泣いて神に感謝をしながら、そういうことであれば拒む必要はないから結婚を承諾しようと思いました。

 家の中をきれいに掃除していると、もう日暮れが近くなった頃、川上のほうから大勢の人が来る音が聞こえたので、父と母と一緒に、神がくれた着物などでしっかりと着飾って、村長の家からの使いの一行が到着するのを待っていました。一行が家に来ると、炉の前に座っている私たちを見てみんなびっくりしました。かしこまって家に入ってきて、「どうしてこれほどの人たちをこの村の人たちは貧乏人扱いをするのだろう」といって怒りました。父と母は川上の村の人に背負われ、私は後から歩いていきました。見物に来ていた私の村の人たちは、私たちの様子に驚き、私に唾を吐きかけていた男たちが、私が川上の村に連れていかれるのはもったいないと言い合うのを聞きながら川上の村へいきました。

 村長の家に入ると、あの若者は私たちを見て驚きました。見物に来ていた人たちも皆驚きました。私の両親も家の近くに暮らすことを快く承諾してもらい、皆でなごやかに食事をしました。ほとんどの人が帰ってしまうと、私と連れ添うはずの人がこのようにいいました。「皆さん聞いてください。私はじつは、この父と母の子ではないのです。私の両親は神を敬う心を持った人たちですが、子どもがなく、子どもが欲しいと思い続けていたのでした。そこで天の国の神々が相談して、私をひとり息子として授けたのです。ここに今日やって来た娘に食事をさせてもらい、外に逃げていかれてしまった夜、神が夢を見せてくれてそのわけを知りました。虹が私の家にやってきて私は寝込んでしまい、何か重たい物が私の上にかぶさっているようで、父たちが泣いているのはわかっていたけれど、動くことができなかったのです。でもこの娘が来たら急にその重たい物がなくなって体が軽くなり、誰かが私に『早く食べなければ、神の娘と結婚できませんよ』といったような気がしたので食事をしたのです」。そんな話を聞いてから、その人と一緒に眠りました。

 翌日には村の人たちがみんなで、村長の家の近くに私の両親が住む家を作ってくれました。以前暮らしていた家から見栄えのいい物だけを運んできて、あとは燃やしてしまいました。新しい家には家の神である木幣と火の神の木幣を新しく作り、前の家から移動してくれるように祈りました。それからは夫の両親も私の両親も同じように大切にし、面倒を見ながら仲良く暮らしました。夫は狩りが上手なので、男の人のとった物を食べるとこができ、何不自由ない暮らしをしましたが、しゅうとさんたちや父母は老衰で亡くなってしまいました。供養を欠かさず暮らしているうちに、お腹が大きくなり、男の子を授かりました。父たちが生きている時に授かったならばどんなに喜んだことだろうと思いながらかわいがって育てました。

 息子がひとりで遊ぶことができるようになった頃またお腹が大きくなり、今度は女の子が生まれ、次々と子宝に恵まれました。やがて長男は大きくなったので、結婚しておじいさんの子孫として家を継いでいくように、先祖供養や祈りの儀式について夫が教えました。嫁になった若い娘は、みんなでご飯を一緒に食べましょうと私たちや子供たちを誘ってくれたので、みんなで仲良く食事をして暮らし、一生を過ごしました。夫は先に老衰で亡くなってしまったので、私が死んだら天の国の雷の神のおじいさん、父さんに祈りますといって、それから先祖の国の人たちを祈りなさい、そして貧乏な村人も差別することなく食べ物を分けてあげなさいと言い聞かせて死んでいくのですという、ある貧乏人と呼ばれた神の女性の話。

 

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