ヘッダーメニューここまで

ここからメインメニュー

  • 自然図鑑
  • アイヌ語辞典
  • アイヌの伝承
  • 物語や歌
  • 絵本と朗読
  • 語り部
  • スタッフ

メインメニューここまで

サイト内共通メニューここまで

ここから本文です。

物語や歌

C0065. 悪い姉に殺されそうになったが滝の神に助けられた娘

あらすじ



 私はオタスッの村長家系の娘で、両親はもう死んでしまって、村長である兄と姉に育てられていました。兄と姉にとても大切に育てられ、少し大きくなると姉は上等の布の切れ端を私に渡して「女は子供の頃から針仕事の練習をするものですよ」といいました。見よう見まねで作った物を兄や姉に見せると、上手だと褒めてくれました。でも翌日外に出てみると、私の作った物が捨ててあるのを見つけました。怒って姉を問いつめると、姉はとぼけていました。私が大きくなるにつれて、針仕事は上達していき、姉よりも上手に何でも作るようになりました。兄も姉も喜んでくれましたが、兄は特に私をかわいがり、食事をするときも脂身を私の椀に入れて「早く大きくなりなさい」といいました。そして毎日針仕事をしたり、家の仕事は姉を手伝って何でもしました。

 一人前の女性になった頃、兄はこのようにいいました。「オタサㇺの村長であるおじさんとおばさんが死んでしまい、そのひとり息子が家を守って暮らしている。その息子とおまえは、お互いの両親が生きていたときからの許嫁(いいなずけ)なのだ。許嫁のための手甲や脚絆、着物を作りなさい」。そこで私は色々な物を作ってしまっておくと、姉は自分が持っていってあげるといってオタサㇺに出かけていくことを繰り返していました。私は兄や姉と離れてオタサㇺの許嫁のところにいくのが嫌だったので、行かないでぐずぐずしていました。姉も連れていくとはいわないで、いつも通りに暮らしていました。

 ある日姉は、オオウバユリ掘りに行こうと私を誘いました。「オオウバユリ掘りをおまえに教えていなかった。これを知らないで嫁に行くと、婿さんから叱られてしまうよ」。姉がそう言うので、準備をしてふたりで出かけていきました。川を上流方向に行くと、オオウバユリがたくさんありました。でも姉はオオウバユリをとらずに、どんどん先に行きます。「このあたりのオオウバユリは根の球根が小さい。もっと山を登っていくと、いいオオウバユリがあるよ」といって進んでいき、川の源流近くの神の山を登っていきました。山の上にはオオウバユリはなく、姉は下のほうを確認しながら歩いているようでした。

 姉が突然下のほうを見て「妹よ、ここを見てごらん。見たこともない景色だよ」というのでのぞいて見ると、確かに見たこともないような、尖った石がいくつも突き出た恐ろしい大きな滝の上まで来ていたのでした。そして姉は突然に私の髪をつかんで殴りつけ、「おまえを殺すためにここに連れてきたのだ。私のほうが年上なのに、兄はおまえばかりを美人で器量がいいと言ってかわいがり、先に結婚をさせようとする。生きて帰れると思うな」と言うので驚いて「姉さん、どうか命ばかりは助けてください。私は結婚なんかしたくないから、姉さんがオタサㇺの長者と結婚すればいい。私は兄さんと一緒に暮らすから」といって、泣きながら兄や神々に助けを求めました。でも姉が容赦なく私を滝の上に落としたので、それきりどうなったのかわからなくなってしまいました。

 何かの音、何かの声がすると思って気がつくと、神の女性が私にお祓(はら)いの息をかけ、神の扇で私をあおぎ、薬を飲ませているのでした。また気を失って気がつくたびに、いつも神の女性が私を看病してくれていました。兄のことが気になって泣いてはまた気を失い、気がつくと男の神が神に祈る声が聞こえました。

 「この娘を助けてください。私の家のてっぺんで、人間の女の争う声がしました。人の家の上で遠慮もなしに人間ふぜいがと思って飛び出すと、滝壺に向かってこの娘が落ちてくるのが見えました。岩で着物も体も裂けてしまい、もう死んでいましたが、その美しさで輝いて見えました。そこで娘が滝壺におちる前につかまえ、自分の姉のところに連れてきて助けてくれるように頼み、娘の魂は、死者の国に着くまえに追いかけてつかまえ、娘に飲み込ませて戻しました。この娘の兄と許嫁の男は、娘がいなくなってしまってもあきらめきれずに山の中を歩き回って探しました。でも何の手がかりもないので『もう生きていられない』と言って家の中で食事もせずに伏せっています。しかし神々が守っているので死なずにかろうじて生きています。どうか娘を助けてください」。

 兄が可哀想で、兄が死ぬなら自分も死にたいと思いましたが、また気を失ってしまいました。次に気がつくと、私を看病している女の神がこのようにいいました。

 「私は滝の神の姉、水の神です。私の弟は気が荒く恐ろしいので、あなたを助けるように頼まれたので、もう10年以上も看病しているのですよ。あなたの兄さんも、許嫁も、神が守っているのでなんとか生きていますよ。泣かないで早く元気になりなさい」。

 そこで手や足を動かしてみると、動かすことができました。徐々に体を慣らして、やがて自分で座ったり食事ができるようになりました。ある日神の女性は「今日、私の弟である滝の神が何か話があるといってやってきます。私は気の荒い弟が恐ろしく、何を言い出すのやらわかりません。何を言われてもかしこまって座っていなさい」といいました。そしてきれいな着物を着せてくれ、滝に落ちたときに切れてどこかへいってしまった下紐の代わりに、新しい下紐をくれました。姉の神は忙しく食事の準備をして、私はかしこまって客座に座っていましたが、兄が心配で、いじわるな姉が生きていると思うと恐ろしく、また滝の神にどんな無理な要求をされるのかと思うと、心配で震えていました。

 夕方になって、立派な男の人が入ってきて、私に「元気になって良かった。神に感謝します」といって笑いかけました。姉の神が先に食事をしましょうというと、「話したいことがあるので、食事は終わってからにしよう」といいました。そして私に、今までのいきさつを話しました。そして「私は滝の神といっても大変重要な神であり、その神に助けられたおまえはオタスッに帰ることはできない。私と夫婦になり、一番先に生まれた子を、オタスッの兄の気を静めるためにそちらに送ろうと思う。姉さんどう思いますか」というと、姉の神は泣いて「何を無理なことを言うかと思っていましたが、それならばいいのです。いいことです」と賛成しました。そして私に「泣くのではない。必ずお兄さんに会わせてあげるから」と約束してくれました。

 その日から寝床を共にしていると、やがて私のお腹が大きくなりました。家のことは姉の神が全てしてくれて、私の体は再生してもあまり強くはないのだから働くなと言われました。やがて私にそっくりの女の子が生まれ、3人でかわいがって育てました。家の手伝いなどもできるくらいに成長した頃、滝の神である夫は「姉さん酒を醸してください。酒宴の準備が整ったら神々を招待し、オタスッの神も招きます」と言いました。それから姉の神は忙しく準備をして、私は兄に会えるというので嬉しくて泣いていると、泣くなと叱られました。準備が整うと、次々と神々が家に入ってきました。そして最後に、夢にまで見たなつかしい兄さんが手を引かれて入ってきました。(私は自分の寝台から出ないようにいわれ、すだれごしにしか見ることができませんでした。)夫である滝の神は、居並ぶ神々やオタスッの兄に向かって今までのことを説明しました。そして私の娘を兄にあげるというと、皆賛成し、兄は地面を叩いて喜び、私の夫に感謝しました。私の娘はすぐに兄になついたようで、じゃれついたり、兄の膝を枕にして眠ったりしていました。滝の神が促すと、姉の神が私の寝台のすだれを上げました。とうとう兄と対面を果たし、兄は私のところに来ようとしましたが、すぐにすだれはおろされてしまい、それっきりでした。酒宴が終わると、兄は娘を背負い、感謝の拝礼をして振り返りつつ帰っていきました。

 しばらくするとまた私のお腹が大きくなりました。兄がどうしているか気になったので神の力で見通してみると、私の娘をオタサㇺに連れていって、許嫁に事情を説明していました。ふたりでこの代わりに来た娘を慈しんで育てようというと、それまで寝ていたオタサㇺの神は飛び起きて喜びました。それから娘はオタスッの兄のところで暮らし、家の仕事や針仕事を教えてもらい、年頃になったらオタサㇺの長者のところに嫁いでいきました。オタスッとオタサㇺを訪ね合い、みんなで仲良く暮らすようすを見て安心しました。

 私が次に授かったのは男の子で、また3人でかわいがって育てました。兄の様子を見ると、時々私のことを思い出して泣いては「私の妹は尊い神の末席にいるのだ。何を泣くことがあろうか」といって自分を叱っている様子が見えました。私も兄や娘が恋しくて泣くと叱られました。そのうちに兄のところには、どこからか心の美しい娘がやってきて夫婦になりました。オタサㇺの私の娘には男の子が授かりました。オタスッやオタサㇺから一番先に酒や木幣が届くので、神々を招いて酒宴を催すと、神々は私の夫のことを褒め、しっかり子孫を守ってやりなさいと激励してくれました。人間界でも「いつまでも滝の神が私たちを守ってくれるのだから、一番先の酒椀や木幣を捧げるのを忘れないように」と子供たちに言い聞かせました。私の夫は「おまえと会うまでは、私は単に気の荒い神であった。でもおまえに会って、その美しさに驚き、人間を助ける心を抱いたのだ。そのおかげで人間たちから敬われ、供物をたくさん受け取ることができる」とい言いました。人間界でも孫たちが仲良く訪ね合って暮らしているのを見て安心し、私はもう年を取って死んでいきます。私の悪い姉は、あれ以来行方不明になって、死んでしまったかどうかわかりません。子供たち、孫たちに決して悪い心を持たずに暮らしなさいと言い聞かせて死んでいきます、とオタスッの娘であった滝の神の妻が物語りました。

 

本文ここまで

ページの先頭へ戻る

ここからフッターメニュー