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姉が私(男の子)を育てていました。姉は目がひたいにあり、口の端は目の下にある変わった姿をしていました。姉は朝暗いうちに食事を作ると私に食べさせ、外に出かけてしまいました。私が住む家は石でできていて、戸も窓もどこにあるのかわからないような家でした。私はひとりで走り回って遊んでいましたが、最近は外で神々が戦う音がごうごうと鳴り響いているのでぞっとしました。斬られた神が逃げていく音がするので、かわいそうにと思いながら暮らしていました。夕方になると、姉は片方の手に人間の手足を持ち、もう片方の手にクジラ肉を持って帰ってきて、クジラと人間は別に煮て、クジラは私が食べ、人間のほうは姉が食べていました。どうして姉は人間を食べているのだろうと思いながら暮らしていました。
私が一人前の男に成長したある日、姉は神の鎧を小脇に抱えて帰ってきて、宝壇の上に置きました。そしてその翌朝から、戦いの音はしなくなりました。そして姉はこう言いました。「私が育てた神よ、早く起きてください。食事が終わったら、神の話、先祖の話をしてあげましょう」。何を話すのかと思いながら起きて食事を済ませました。姉はいろりの炭を動かしながらこのような話をしました。
「私は岩の女、悪い女で、神の国で夫になる人間を探したけれど気に入った者がいませんでした。そこで人間界を見渡すと、シンヌタㇷ゚カの神の勇者が、神と会話もできる人だと知りました。その息子であるあなたには兄や姉がいて、あなたは生まれたばかりでしたが、とても美しい子で、私にふさわしいと思ったのです。あなたは家族にかわいがられていましたが、ある時私が悪い心を吹き込みました。するとあなたは泣き叫んで、お母さんの乳房を爪で引き裂いて、他の家族があやしても傷つけてしまいました。そしてあなたの家族はあやし疲れていたので私が眠らせました。
そしてあなたをさらってきて、岩の家で育てていたのですが、あなたの父にそのことがばれてしまったのです。私はこの家に来るための橋を作り、その橋の上であなたの父と戦い続けました。加勢に来た神々を倒し、昨日はとうとうあなたの父も倒しました。そこにある鎧はあなたの父の着ていた物なのですよ。あなたの母はあなたに裂かれた傷が原因で死んでしまい、兄や姉にはあなたの居所を知られていません。もう恐れるものはないのです。晴れて夫婦になりましょう」。そこで私は「私を立派に育ててくれた姉さんに従わないわけはありません」と言いました。すると姉は着ている物を着替え、立派な装束に身を包むと、とても美しい女なのでした。でも私は心の中では家族がかわいそうでなりませんでした。そこで私は「夫婦になるのだから酒を用意し、儀式をしてから晴れて夫婦になりましょう」と言うと、姉は酒を出してきました。そこで私は儀式をしながら「火の神様、海の神様、この悪党を罰してやりますので、お力をお貸しください」と祈りました。そして飲みさしは姉に飲ませました。すると姉は「夫婦になったので、昼間から抱き合って寝ましょう」と言うので私は「先に寝床を敷いて寝ていてください」と言いました。姉が寝所に行ってから私は父の鎧を身につけ、寝所の戸を開け放ったところ、姉は大の字になって寝ていました。そして私は姉の片方の足を持ち、片方の足を踏みつけて、体を半分に裂いてしまいました。そして太刀を抜いて切り刻み、家を燃やし、家ごと橋ごと地下の湿地の国へ踏み落としてしまいました。
私の憑き神に「私の家に運んでください」と頼むと、私はどこかへ飛んでいきました。「私の家に着いたなら、兄や姉の手で私を成敗してもらおう。そうすれば父と母にあの世で会えるのだ」と思い、泣きながら飛んでいきました。大きな城に降り立ち、中に入ると、兄と姉がいろりのそばで泣いていて、私のほうを見ました。私は「兄さん姉さん、悪い女のせいとは言いながら、私は母をこの手で殺してしまったのです。どうか私を成敗してください」と言いました。すると兄と姉は私を抱きしめて、兄は「そんなことを言うな。おまえは生きて戻ってきたのだから」と言って私をなだめました。兄の言うことにはさからえないので、私は父の鎧を宝壇の上に置き、姉は私に新しい着物を出してくれたので、それを着ました。
それから姉は酒をつくり、私は兄と狩り場を歩いて、帰ってきて木幣を作りました。泣きながら祈りの儀式をし、神々と楽しく話をして一夜が明けました。それからしばらくすると、兄と私のところに若い娘がそれぞれ来たので結婚し、姉も結婚し、ひとつの家で皆幸せに暮らしました。
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