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私は父母と姉と一緒に暮していました。父は山で狩りをし、クマやシカを獲って来て何不自由なく暮していました。私は小さいときから姉と二人で母が仕事する後を追って歩き回り、大きくなってからは母の仕事を姉と一緒に手伝っていました。
ある日、父は山に行くとなかなか下りてきませんでした。私たちはとても心配し、やっと下りてきたのですが、帰ってきた父は何だか別人のような気がして恐ろしく思っていました。
父は時々山に行き、帰ってくると、何か食べたそうにし、今にも母を食べてしまいそうな様子で本当に恐ろしく思っていました。横になった後も父は起き上がって、火を焚き、鍋を掛け、何か煮て食べているようで、見ると、人間の肉のようなものを煮て食べているので、本当に驚き、母も泣いていました。
恐ろしく思っていると、私の父なのか悪神なのかが山に行った後で母は「子ども達よ、よく聞くのだよ。お前たちは逃げなさい。私は仕方がない、悪神に食べられてもいいのだけれど、お前たちがいれば、お前たちまでも食べられてしまうでしょう。どうにかして二人で逃げて生きのびなさい」と言いました。そして、食べ物や鍋などの道具を荷物にして、母は泣きながら、早く逃げるよう私たちに言いました。母を残していくことだけは出来ず、私たちは泣いていたのですが、何度も戻ろうとすると母は怒って「お前たちに生きて欲しいのだから、早く逃げなさい」と言うので、逃げて行きました。
ずっと行くと沢があったので、その沢に近くに荷物を置き、姉と一緒に木を集め、小さな仮小屋を作りました。そして、背負ってきた食べ物を煮て食べました。沢には小魚がいたので、それを獲って食料にしました。
何日かして、姉が「母さんがどうしたのか、隠れながら様子を見に行こう」と言いました。ずっと行って、私の家につま先立って近づいて、戸のすだれの隙間から、そっと中を覗きました。その悪い人間だか悪神だかは火を焚き、大きな鍋を掛け、何か煮ている様子だったのですが、大変なことに、母の骨らしきものが鍋の中に入れてあり、煮ているようでした。びっくりし、私たちは逃げ戻りました。
「母さんはかわいそうに今はもう悪神に食べられてしまったということなのか」と思い、姉と一緒に泣きました。時が経ち、日が暮れてから、また姉と一緒に様子を見に行きました。窓から覗くと、その悪神は母も食べてしまい、何もないので、炉ぶちの後ろで横になって、背中を暖め、今にも死にそうになっている様子でした。それを見て、また、逃げ戻りました。
恐ろしいのでそこにはもう行かずに、小魚を獲り、時には浜で白昆布を集め、それを食べて暮していました。あるとき、また白昆布を集めに下りて行くと、どうしたことか、大きななめし皮の舟があり、それを見て、恐ろしくなって姉と一緒に逃げて家にいると、人間の声がしました。様子を見に行くと、二人の若者がやってきていて、「あなたたちはどこから来て、こんなふうに暮しているのですか」と聞かれたので、姉はこれまでの事情を話しました。すると、その若者達は「かわいそうに」と言い、背負っていた食べ物で一緒に食事をしました。「どこにあなた達の家はあるのですか。連れて行ってください」と言うので、二人の若者と一緒に古い家に行って見ると、その悪い人間だか、おじいさんだかは罰が当たって、炉ぶちの後ろの土が割れ、そこに入って死んでいるようでした。
家に戻り、その若者達は帰りもせず、私たちのところにいました。そしてまた昔の家に一緒に行くと、若者達は「この家を燃やすよ。片付けるよ」と言いました。母にもいいお墓をつくり、その後で家の中の使えるものを出し、家を燃やしてしまいました。
また、戻り、それでも若者達は帰りもせず、小さな家で私たちと一緒に暮らしていると、「こうやっているのも良くないので、村に下りて、家を作って、そこで暮せばいいよ」と言って私たちを連れて行き、大きな家を作り、そこで暮らし、年長の人のほうは姉と結婚し、若い人は私と一緒になりました。
それぞれの家庭を持ち、暮していたのですが、あるとき、夢の中で母が話しました。「やっとわかったのですが、悪神は私たちの父さんが狩りをしに山に行ったときに殺して食べてしまい、その後で父さんに化けて下りてきたのです。私たちのところにいて、私を食べたら、その後でお前たちでも食べようと思って下りてきていたのをカムイ達に見られたので、お前たちを私が逃がした後で、私は食べられてしまったけれども、カムイたちが見守ってくれたおかげで、お前たちは生きのびたのです。どこかからりっぱな若者がやって来て、お前たちを手伝い、私の子孫が続いていくようにしてくれ、私は本当に感謝しています。山にいって何か分からないものがやってきたら恐ろしいのだよ」ということを母は私に夢で見せました。
私たちはそれぞれに家を持ち、周りにも家が立ち、私にも姉にも子どもがたくさん出来ました。「父が山に行き、人が下りて来たけれどもその行動を私は見て恐ろしかった」ということを語りながら暮して、年をとったのでこのように話しました。
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