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物語や歌

C102. ニコㇿマメを授けた女神

あらすじ


 私の父は立派な村長で、村人を大切に守りながら暮らしていました。私はそのひとり息子であり、村人は父と母を尊敬していたので、作物などを代わる代わる持ってきてくれていました。私はすくすくと成長し、ひとりで遊べるくらいになると、父は「男は小さい時から山に慣れておくものだ」といって、私を山猟に連れていきました。そしてクマの習性や仕掛け弓を仕掛ける方法を教えてくれました。私はさらに成長し、ひとりで山猟にいって獲物をとってくることができるようになり、獲物は村の隅から隅まで配って歩き、年を取ったりして動けなくなった村人たちの面倒を見ていました。そこで村人は私を父と同じように尊敬してくれるようになりました。父も母も年老いてからは、私がひとりで山猟にいく間々に、家の仕事をして暮らしていました。

 山猟にいく途中で噂に聞いたところによると、イアㇻモイサㇺの村々では、村の上端から順々に村を訪ねて、男の人がふたりも3人もくっついたような大きな女が、村長の家に泊まり歩いているというのです。そしていいがかりをつけて相手を言い負かし、償いの宝物をまきあげて去っていくのだそうです。その女がもう私たちの村の近くまで来ていると聞きました。それを聞いて村人たちは恐がっていましたが「何を恐れることがあるというのだ。父も私も正しい行いをして暮らしてきた。何者がやってきても恐れるものではないのだよ」と私は言って諭しました。そのうちに今日、もうその女が私の家にやってくるだろうという噂が流れました。父は「誰がやってきたとしても家で休んでもらいなさい。息子よ、家をきれいに掃除して、客座をしつらえてお待ちしなさい」と言いました。そこで私は言いつけ通りに家の外、中をきれいに掃除をし、母が作ったきれいな編み模様の入ったお客さん用の敷物を敷いて客座を作りました。そして議論が長びいたときのために、土間や玄関兼物置にまきをたくさん運び込み、たくさん火をたいて議論を乗り切ろうと思っていました。

 夕方村人たちが走ってきて「例のでかい女がやってきましたよ。村長の家に向かっています。どうぞこの村を守ってください」と言いました。食事の準備をしていると、その女が家にやってきました。噂通り、男の人がふたりも3人もくっついたような大きな体をして、大きな荷物を傍らに置くと、私のほうを見てにっこりと笑いました。議論をふっかけられたらどうしようと思いつつ、家に招き入れると、その女はあまりにも大きく戸口につっかえて、土間に転がり込むようにして入ってきて、客座に座りました。父と母は新しい着物を着て座っており、その女性に向かって拝礼の所作をくりかえして来意を問いました。するとその女性は「今まで色々な村長の家を訪ね歩いてきましたが、ここで初めて立派な人たちに会うことができました。今夜はここに泊めていただき、互いに語り合いましょう」といったところ、父は承諾の咳払いをしました。食事をしてからお互いに話をしましたが、その女性の話は神の話ばかりで、この人は人間ではない、神様なのだということがわかりました。そして「今まで訪ねた村長の家では『女のくせに生意気だ』みたいなことをいわれて腹が立ったので議論をふっかけ、言い負かして償いの品をまきあげていましたが、ここの人たちとは心おだやかに話ができてとても楽しみました。何ヶ月も村を渡り歩いていたので疲れてしまったので、今日はもう休ませてください」と言うので寝床を作り、そこで休んでもらうことにしました。そして私たちも、まさか眠るとは思わなかったのにぐっすり眠って夢を見ました。例の女性が夢に現れて笑いながら「私は、天の国から豆という作物の種を背負って降りてきた神なのです。どこの村に行っても、心がけの悪い人間ばかりなので腹を立て、宝物をまきあげていたのですが、心の美しい人の住むこの村には豆の種を授けましょう。宝物もあげましょう。村人たちに種を分配し、育ててください。そして作物の神である私に祈ってくれたならば、いつまでもあなたたちに実りを与えて、飢えることがないように守ってあげます。村人みんなで種を育てて、決して小さい粒でも捨てずに収穫して食べるようにしなさい」と言いました。驚いて飛び起きると朝になっており、あの女性が寝ていたところにはその姿はなく、ただ今までに見たこともなかった赤い豆、黒い豆、白い豆の種、そして宝物が山になって積んでありました。父と私は火の神様に何度も拝礼し、感謝しました。そして村人たちを呼び集め、わけを話して種を分配しました。酒をつくって神に感謝の儀式をし、宝物を受け取りました。

 そのうちに村人たちがどこからか若い女性を連れてきたので結婚しました。私が山猟に行っている間、妻は両親の面倒をよく見てくれるのでとても助かりました。豆の種を植えて、横に木の棒を立てておくと、豆のツルは木にからみついて、クリのいががつくかのようにたわわに豆の実がなるので感心しました。父や母が元気なときは、村人たちが煮物や何かを作ると持ってきてくれていました。やがて父と母が老衰で亡くなると、村人たちは私を村長と呼び、父たち以上に敬ってくれました。子どもができると、畑の作物は大切に育てるように、決して粗末にすることのないように教えました。そして悪い心を持たず、村人たちを守って暮らしなさいと言って私も死んでいきますと、ある村の立派な村長が物語りました。

 

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