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私の姉が私を育てていた。姉は山猟に出るときにネズミの穴も犬の穴もすべて塞いで「私の育てる神よ、けっして外へ出ては行けませんよ」と言いおいていった。私は家の中で一人で小さい弓と矢とを持ち、太い柱や細い柱を的に射て毎日遊んでいた。
私が姉に「私も山猟に行きたい」というと姉は怒って「姉さん一人でもあなたを養うことはできます。まだあなたは小さいのです。外には盗人鳥や盗人犬がいて恐ろしいのですよ。早くあなたが大きくなったらいっしょに山猟に行きましょう。」と言っていた。
私はいろりの中にも入り自分に灰をなすりつけたりして遊んでいた。姉は魚を捕る時期になると魚を捕ったりして私を養っていた。
だんだん私も大きな男の子になったけれど、姉は私の希望に耳を貸すようすもない。外出するときにはネズミの穴も犬の穴も塞いで「外には盗人鳥や盗人犬がいるのですよ。」と言っていた。宝壇には祖父の鎧があって、まるで生きている人のようだった。
あるとき姉は出かけたきり二日も三日も帰ってこなかった。私は姉を呼んで泣いたりしていたが、やがて「姉さんを自分で捜したらいい」と考えつき、鎧と笠と太刀と槍とを身に着けて、神に「私は姉を捜したいのです」と祈ると憑き神様がやってくる音がした。そこで、姉が塞いでいた戸口をバラバラにして初めて家の外に出た。川上を見ると遠くて高くそびえ、河口は盛り上がって見える。何とまあ美しい村なのか。
川上を見ると姉が山猟にいく道が見えたので、私は風に乗って低い木は木の上を通り高い木は木の横を通って行った。するとシカが走り回っているのが見えたけれど、手近のシカは土臭く草臭いと昔聞いたことがあるので、さらに山奥に行った。
すると大きな林があって、大きな牡鹿が角を遠くへ近くへ振りながら草を食べている。そこへこっそり近づいて行って私が矢を射るとあたって倒れた。まだ生きて私を睨みつけているようなので、棒で何度叩いても私を睨んでいるので、私は腹を立てながら4本の足を裂こうとした。
しかし何だか誰かが林の中にいるようなので、皮を剥ぎながらあたりを見ていると、どこからか6人の人間がやってきて「私たちが追っていたシカをあなたは殺したのだから、私たちに渡してくれ」と言った。けれども私は無視して皮はぎを続けていた。それでも彼らは私の前に回って礼拝を繰り返す。私はやがて皮はぎを終えて荷造りすると、腹の中に入っていた糞を食べろといってばらまいた。
するとその男たちは「山猟に来た女を殺したとき『私の弟は立派な勇者なのだ、彼が来たらお前たちはみな殺される』と言っていたが、この男がそうではないか」と言って太刀を抜いて向かって来た。そこで私は荷物を棒がわりにして奴らと戦い、ついで荷物を投げ捨てて、りっぱなヤチダモがあったのでその枝を折って棒がわりにして戦い、ついで太刀を抜いて戦った。
そのうち見ると、6人の男を連れて来たのは私と同じ年ごろで、姿もそっくりであり、「なるほど噂に高いシンヌタㇷ゚カの神の勇者だ。私の父はシンヌタㇷ゚カからアトゥイヤに交易に来て、アトゥイヤの村がいい村なので、シンヌタㇷ゚カに娘と息子を残してアトゥイヤに留まったのだ。そしてそこで生まれた子供が私なのだ。父は『シンヌタㇷ゚カにいる娘と息子は評判が高いのだから、お前が行ってお前の兄さんたちを殺したらお前の評判が高くなる』と悪いことを言っていたが、たしかに勇敢だ」という。
私はそれを聞いて、父がいたことにもその話の中身にも驚き、怒ってその男たちを追い回した。最後に私と似た男だけが残り「なるほど勇敢だ」と言っている。そのうち一瞬でどこかへいってしまい、探しても見つからなくなった。そこで私は「姉さんはどこへ行った」と思って山を探しまわると、虫の息になっているのがみつかった。そこで私は太刀で二回三回と切りつけると、息を吹き返して家に帰って行くようすなので私は安心した。
そこで私はアトゥイヤの村はどこだろうと思い、海のそばに行って太刀をかざして神々にお願いした。すると海の上に白い広い道が伸びたので、私がその上を歩いて海を渡っていくとアトゥイヤの村に着いた。大きな村の真ん中に大きな館があり、そこから火の光が漏れている。私はそこへ忍び寄って窓のすだれの隙間から中をのぞいた。
家の中にはさっき取り逃がした男が上座に座っていて、「父さんはよい心がけを持って自分の息子であるシンヌタㇷ゚カの勇者を殺そうとするのですか。言われたとおり6人の男を連れて行ってみると、本当に立派な勇者でみんな殺されてしまいました。もう彼はここへやってくるでしょう。覚悟してください。彼の勇敢ぶりには恐れ入りました。」と泣きながら父親を怒っている。下座にはたいそう美しい若い娘が座っている。
私はそれを聞いて「どうして父さんは私を殺そうとするのか」とひどく腹を立てた。そこでいったん遠くへ戻り、そこから初めて来たふりをして、もう一度家に近づき、家の中に入って行った。私は「父さんはどうして人間の国に残した私たちを殺そうとするのか、私たちが悪いなら私はあなたに切られるでしょう、あなたが悪いならあなたは私に切られるでしょう」といいながら父を太刀で追いかけた。
やがて屋根の煙出しの穴から私が外に出ると、おおぜいの敵が集まって来ている。その敵を斬りながら、いったんは父も斬ろうと思ったけれど「どんなに悪いやつでも父さんなのに」と考えて斬るのをやめ、弟も斬らずにその村をめちゃくちゃにして自分の家に戻って来た。
「これからはこういう悪い心がけを持ったら父さんであっても斬り殺すぞ」と言って私は村に戻って来た。無事に帰ってこられたのは神様が私を守ってくださったからなのだ。
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