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物語や歌

C0147. 雷神にさらわれた娘

あらすじ

 

  雷神は、神の国で自分にふさわしい娘を探しましたが、顔が美しい娘はたくさんいても、精神の良さが伴わないので気に入りませんでした。人間の国を見渡すと、兄に育てられた娘の美しさと精神の良さに心ひかれたので、人間の国に降りてきました。そして兄と妹の家で半年くらい一緒に暮らし、

(ここから人間の娘が語る)
 兄は私に「立派な若者なので、おまえは食事を作って世話をしなさい」と言っていました。
 ある時その人は兄の言葉の間を待つようにしていて、やがて私を妻にしたいと言い出しました。兄は「たったふたりきりの家族である妹を連れていくというのなら、何とも言いようがないのですよ」と言うと、「私の家族に会わせたら、またふたりで戻ってきてお兄さんと一緒に暮らすのですよ」と言うので、兄は「少しの間であるなら仕方がない」と言って承諾しました。

 私が天の国へ行く様子はこんなふうでした。狩り場のどこかへ連れていかれると、突然私の上で大きな音がしました。それきりわけがわからなくなり、気がつくと私は大きな木の枝から手足をぶら下げていたのです。私の下にはとても美しい娘が死んだように横たわっていました。そして突然誰かの小脇に抱えられ、6層の雲を突き抜けて飛んでいきました。どこに連れていかれるのだろうと心配で泣いていると、やがて神の国に着きました。私を運んだ人間はどこにもおらず、私はたったひとりで、ある家の庭に置いていかれました。その家は東風の模様、稲光の模様が入った神の家でした。やがて稲光とともに、私より1,2才年上に見える女性が汚れた水を捨てに家から出てきました。私を見ると「私の困った兄は、何度も何度も人間の娘をさらってきては父を困らせ、父は償いの品を出しては娘を家族の元に帰してきたというのに。またこのように人間の女性をさらってきて、放置してどこかへ行ってしまった。さあ家にお入りなさい」そう言って私を家に入れてくれました。家の中には目を向けるのもはばかられるような老夫婦が座っていました。「私たちは人間のにおいが嫌いだというのに、また人間の娘をさらってきたのか。その度に償いの品を差し出さねばならんというのに」と息子を非難しました。
 先ほどの娘が食事を作り、老夫婦と横座にいた若者に食事を出し、山盛りのお椀を持って外に出ていき、やがて帰ってきました。私にも食事を出してくれて、このように言いました。「今すぐに戻ることはできないけれど、頑張って力をつけるためにも、泣かないで食事をしなさい」。そして食事をし、かたづけを手伝おうとしても「人間のにおいを父たちが嫌うから、寝床で休んでいなさい」と言われました。それ以来その娘に世話をされて暮らしました。
 ある晩寝ていると、あの神の娘が私を起こしてこう言いました。「私の肌着を着なさい。そして扇をあげるから、それを持って明日の力試しに挑みなさい。あなたの兄があなたに与えた守り袋を懐に入れているのは知っているけれど、それだけでは家に戻ることはできないから、私が手助けをするのですよ。まず日光で照らされるから、その時は扇の東風の模様のある面を自分に向けてあおぎなさい。次に寒い雲が来たなら、扇の日光の模様のある面を自分に向けてあおぎなさい。その後外に連れ出され、炎の馬に乗せられる。でも扇の東風模様のある面を自分に向けたならば、暑くないでしょう。そして私の肌着があなたを守ります。それに乗って村の上端、下端を6往復したならば、力試しはそれで終わりです。家の中には神々が居並んでいることでしょう。そこであなたはお守り袋の口を解きなさい。そうすればあなたは家に帰れますよ」。
 何をされるのだろうと思って泣きながら夜を過ごし、翌朝食事を終えると、雷神が「さあ、人間の娘よ。おまえの力を試すのだ。おまえが勝てば家に帰ることができる。おまえが負ければ、召使いとして我々の仲間入りをするのだ」と言いました。私はお守り袋と扇を懐に入れていました。すると太陽が私に照りつけて、今にも焼け死にそうになりました。でも扇の東風模様の面を私に向けていると、不思議と暑さは感じませんでした。次に家の天井からつららが下がって来て凍え死にそうになりましたが、扇の日光が描かれた面を私のほうに向けると、不思議と寒さは感じませんでした。次に外へ連れ出され、炎の馬に乗せられて村の上端下端を6往復走らされました。でも扇の東風模様の面を私のほうに向けていたので、往復の後に家の戸口のところで平気な顔をして馬から飛び降りました。そしてお守り袋の口を解くと、中から小鳥ほどもあるようなスズメバチがたくさん飛び出してきて、家の中を飛び回りました。神々は大騒ぎをして手を振り回し、雷神は私に謝りました。「痛い痛い。人間の娘よ、息子の代わりに謝るから許しておくれ。どうか命ばかりは助けておくれ」と言いましたが、しばらくそのまま苦しめてから、お守り袋の口を締めました。するとハチはどこかへ行ってしまい、神々は私に頭を下げ、雷神の老人は「悪い息子にあなたを家まで送らせます」と言いました。
 雷神の娘が私のそばに来て「その扇と肌着はお守りとしてあなたにあげましょう。持って帰って箱の底にしまっておけば、あなたたちを守ってあげます。守られていると、家が徐々に増えて大きな村になるでしょう。私に感謝するなら、腹も立つだろうけど、私の父に供物を送ってください。そうすることで私も供物を受け取ることができ、神格を上げることができるのだよ」と言いました。雷神の老人は「人間からの抗議が届いて眠ることができずに苦しんでいた。たかが人間の娘ひとり、死んでもかまわないだろうと思って力試しをしたのだが、私のしたことが悪かったために罰を受けた。私だけではなく神々にも痛い思いをさせてしまった。何の説明もしないままだと尚さら罰せられてしまうので、これを兄に渡しなさい」と言って、刀のつばと、雷の模様が入った何かをくれました。そして私にも、雷の模様の入った女性の装飾品をくれました。そして雷神の老婦人は「何か悪いことが起きそうだったら、これらの宝物の袋の端を少し開けておきなさい。そうすれば悪いものから守られ、やがて大きな村になるだろう。悪い息子はこれからもことあるごとにあなたを奪おうとするだろうけど、私がそのようにはさせません」と言いました。そしてあの若い娘が私の手を取って別れを告げました。

 外へ出ると、また何者かに突然小脇に抱えられて飛んでいきました。雲を突き抜けて降りていくと、人間の国に着きました。大きな音がして、気がつくと私はまた木の枝から手足をぶら下げていました。下にはもう白骨になっている死体がありました。雷の兄弟が協力して骨をつなぎ合わせていましたが、見ると小指の骨が一本足りません。そこで兄のほうが木の小片で骨を作り、何か袋に入った薬を白骨に塗りつけると肉が出てきて、たった今死んだかのような姿になりました。すると突然後ろから押され、その死体の上に落ちたと思いました。そして声がすると思って目を覚ますと、私の上にはあの兄弟の顔がありました。そして何とか歩けるようになると、兄のほうが「家まで送ってあげよう。私のしたことを父たちは非難したが、人生の半ばで再びおまえを連れに来るから、私の美しい顔を覚えておきなさい」と言いましたが、私はそっぽを向いていました。
 家の近くまで来ると「ここからはひとりで行きなさい」と言って、大きな音がして兄弟は姿が見えなくなってしまいました。そして家に入って、兄と再会を喜び合いました。私は今までのことを話し、もらった宝物を兄に渡しました。そして雷兄弟の兄のほうがこれからも私を奪いに来るかも知れないと言うと、兄は神へ抗議の祈りを捧げました。しばらくすると、消えていたあの肌着が浮かんできました。「この肌着と扇、そして兄さんのお守りのおかげで帰ってくることができたのです」と言ってお守りの袋を開けると、中で大半のハチが死んでいたので、木幣を捧げて神の国に送りました。
 それからは兄とおだやかに話をしながら暮らしましたが、小指が曲がらないのは、木の小片で骨を作ったからなのだと思っていました。兄は神へ祈り「恋心というものは神でも人間でも変わりがないものだから、今後妹を狙わないというのであれば許しましょう」と言って供物を祭壇に捧げました。その供物がなくなると、神が受け取ったのだろうと思って暮らしていました。
 やがて人が集まってきて、私たちの家のあるところには村ができました。兄も私もそれぞれ結婚し、子供もたくさんできました。雷神に守られているので、それからは何の恐ろしいことにも遭わずに暮らしました。
 子供たちも大きくなったので、私たちはずいぶん早くに両親を失い、雷神にさらわれて危ない目にも遭いましたが、私が良いふるまいをしたうえに、人間の談判に神は逆らえないので、このように人間の国で天寿を全うするのですと、ある人間の女性が物語りました。

 

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