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私には両親がいて、小さな村に住んでいました。私は一人娘でした。母は山に山仕事に行くときは私を連れていってくれて、山菜のとり方やまきのとり方を教えてくれました。「おまえは一人娘なので、父親が年老いたらおまえが養ってあげるのですよ」と母は言いました。
やがて私は成長すると、ひとりで家の仕事をするようになりました。 そんな秋のある日、私は冬に備えて山にまき取りにでかけました。うちのすぐ近くに小川が流れていて、その小川まで降りてきてあたりを見渡すと、一人の年老いた老人が杖をつきながら、やっとこさ川沿いに下ってくるのが見えました。それを見て私は急いで老人のところに駆け寄り、「ご老人、もうすぐ日が暮れ寒くなるというのに、一体どちらに行くのですか」と聞いたところ、老人は「この川の河口部に私の知り合いがいて、若い頃はお互い行き来したものだが、ここ何年か音信が途絶え今はどうしているのだかわからない。死ぬ前に是非訪ねて旧交を温めたいと思っているのだ。あなたのような若い娘が声をかけてくれて嬉しい。どうもありがとう。」と言いました。そこで私は「もう日が暮れるので、家に泊まりませんか」と聞いてみました。すると老人は大変喜んで、家に来ることになりました。
家につくと父も母も老人を歓迎しました。食事は柔らかそうなものを出してもてなしました。翌日老人は家を出て河口部に向かいましたが、日が暮れる頃にまた私の家のほうに戻ってきました。聞くと友人はもう死んでしまっていて、若い人たちばかりだったので泊まらずに戻ってきたということでした。もう一晩家に泊まってもらうと、老人は何かを言いたそうにしていたあげく、こう言いました。「妻に先立たれて寂しく暮らしているのですが、妻のために交易に行ってもらってきた女性の装飾品が家にあるのです。今回のお礼として娘さんに差し上げたいので、娘さんをお借りできませんか」。両親が承諾したので、私は翌日、老人と一緒に出かけていきました。すると老人の家は山の上にあるというのです。苦労してふたりで山を登り、その家につきました。家の中にはもやが立ちこめていましたが、それが晴れると、全てが金でできた立派な家であることに驚きました。老人が出してくれた食材で料理をし、一緒に食べていると「これからここで一緒に暮らしませんか」というのです。しかし老人とふたりきり、そして両親のことを思うとそれはできないと思い、黙って眠りにつきました。翌朝目覚めると、老人の寝所から立派な若者が出てきたので驚きました。その人が言うには「私は人間ではない、ワシ神なのです。ある時親のワシ神が、『人間から祭られたいので、人間界に行って心の美しい娘を嫁にしなさい』というので、老人に姿を変えて人間界にやってきました。そして老人なのに嫌がらず世話をしてくれるあなたこそが私にふさわしいと思ったのです」というので本当に驚きましたが、結婚を承諾しました。晴れて夫婦となってから私は先に山を下りて、両親には何も言わずに元通りに暮らしていました。「2,3日したら家ごとあなたの家の隣に行くので」と夫が言っていた通り、ある夜に外の祭壇で音がして、立派な家が隣に下りてきました。両親が驚いて訪ねていくと、夫がそこにいて、これまでのいきさつを話し、皆でここに住みましょうと言ってくれました。両親は驚くやら喜ぶやら。しかし同居は固辞し、今まで通りの家に住み、世話は私たち夫婦がすることになりました。
私は金の家で夫と暮らし、村人にも慕われました。子どもが次々にでき、私の父は天のワシ神への祈りを欠かしませんでした。イナウは人間から神への捧げ物であり、夫は神であるためイナウを捧げることができません。父が亡くなってからは、息子が祈りの儀式をしました。やがて私たちは共に年をとったのですが、私は人間に嫁いだのではなく、ワシ神に嫁いだのですよ、皆仲良く暮らしなさいと言いながら年を取っていきました。
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