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物語や歌

C163. マツモムシに救われたイクレスイェ

あらすじ


 私はイクレスイェで、とても足が速いけれども臆病者である。けれど容姿は良いので相応の美しい女性と結婚して、幸せに暮らしていたが、子供ができなくて、妻は「妾をとって子供をつくり、私はその子をかわいがります」と言うが、妻を困らせるのも気の毒に思い、そのことは聞かないふりをしていた。その一方で狩りに一生懸命精を出したこともあり、置いておくところもないほど沢山獲れたので、貧しい人たちなどへおすそ分けをした。そのことで人々は私を大変親しみを込めて「イクレスイェ様」と呼ぶようになった。
 そうして、またある日も山へ行った。いつものように、他の人が持ち上げることも出来ないほど重い立派な山杖を持って山へ行った。そして川に沿って行くと、いつも狩りをしている草むらがあり、そこで狩りをしようと思って歩いて行った。するとどこからかお金が鳴る音にそっくりな音がして、私はそれに耳を澄ましたが、
 何の音で、どういうわけで聞こえてきたのかわからないが、無事に猟ができたらと思い、その草むらへ向かって行った。そこにはナラの木があり、それは私が行きと帰りにたまに供物を捧げて、お祈りをしている枝振りもよく大層立派なナラの木である。
 その木の根元に行って見てみると、どこから付いて来たのか本当に大きくて真っ赤なヘビがいた。ヘビはお尻のどこかを鳴らしたのか、先ほど聞いていた音にそっくりな音を出し、大きな口を開いて私を頭から飲み込もうとしている。なので、私は自分の頭の方へ向かって持っていた杖をバンバンと叩きつけた。けれども効いた様子もなく、ナラの木の側であるので、「ナラの木の神様、助けてください。どうにも負かされそうです。他の神様へ伝言するなりして、助けてください。ここで死に絶えたら、屍の匂いのせいで神々が顔を背け、今後話を聞いてもくれないことでしょう。さあ早く助けてください」と祈った。私も負けじとその杖で叩きつけたり、飛び跳ねたりして抵抗し、大層疲れてしまった。一方で、ナラの木の枝も揺ら揺らしていたが、折れてヘビの上に落ちでもしないと、と思っていたが折れないで揺れている。
 そして、すっと遠くの方からやってくるものがあり、それを私は小鳥の群と思って見ていたが、ヘビの上に止まったのを見ると、なんとハチの大群であった。しかしそのハチはヘビを覆うように止まっているけれども刺さす様子もない。逆にヘビはさらに脅しの音を出すなどして、力を振り絞った。私は息をすることも苦しいかったけれども、ヘビが落ちてきたらすっかり飲み込まれてしまうと思って、あごを突き出して、杖で抵抗していた。
 すると弱々しそうな男が赤い着物を着て、赤くて小さい弓矢を携えて、私のところへまっしぐらに飛んできて、その弓矢でヘビを射掛けると、ヘビは抜け落ちていった。私はほっとして、立っているもの出来ないので、ナラの木の根元に寝転んで一息ついた。
 すると、熟年の女性の神様が私の側にいて、次のように言った。「お前があの極悪の神に打ち負かされそうだったので、猟場に住んでいるすべての神に知らせたが、「あいつにかなうものはいるか」と言われたが、「ハチの神なら」と言うので、ハチの神に頼むとやってきたはいいが、ヘビに効く様子もない。
 びっくりしているときに見ると、小原の上手に丸くて、きれいな小さな湖があり、その湖には天界から使命を持って、この小原を守護するように使わされたケトゥペ(マツモムシ)の神がいたのに気がついたので、知らせに行くと、すぐに助けに来てくれ、そのおかげで極悪の神を打ち負かすことが出来たのだ。ケトゥペ(マツモムシ)の神の武器でやっつけられたものは、生き返ることもできないから、心配するなよ。今お前は疲れているだろうが、這ってでも近くにある湖へ行って、お礼を言いなさい。そして明日ちゃんとお礼をしにやってくることを言ったならば、チホロカケプ(木幣の一種)を一つ作って、湖の入り口に立てなさい。そしたらどうにか今晩中に家に戻ることができるでしょう。さあ起き上がり、私が極悪の神が地下の世界へ、湿った世界へ追放されていく様子を見るがいいでしょう」と言っているように思えた。
 なので、目を開けて頭を起すと、ヘビが泡の塊となっていた。私は何とか座り、それが土の中へ沈んでなくなったので、それが追放されていく様子だと思った。それから杖をついて、丸くてきれいな小さい湖へ行った。何度も拝礼をして、「このような事態になるとは思ってもいなかったので、何も持っていなくて、すぐにお礼ができません。今晩は家に戻って休み、明日イナウ(木幣)を持ってお礼をしにやってきます。」と言った。そしてチホロカケプ(木幣の一種)を立てた。
 どうにかして暗くなる頃に家に戻り、妻は私を見て、「あらまあ、どういうことですか。そんなに疲れた顔をして戻ってきたことなんてないのに」と驚いたが黙ったいた。それから妻が食べ物を用意したので、食べていると、落着いて話せそうになったので、妻に話をした。
 「お前だけが聞いているから言うのではない。私の前で神様たちが悪かったと思ってもらえたらと思い、話をするのだ」と言ってどういうことであったか話をした。妻は泣きながら危ないことだったと言って、「明日にでもお礼を言わないといけないですね」と言うと、団子やらいろいろと荷造りを始めた。私は炉の側で食事をしていたが、眠ってしまったようで、あの弱々しく赤い着物を着た男が私の側に現れて、次のように言った。
 「私の庭の近くで、お前がこんなことになるとはうっかりしていた。ナラの木の女の神様が知らせを持ってきてくれたおかげで、なんとか間に合った。私の武器で斬られたものは生き返ることが出来ないから、これから恐れることはない。私は明日役目を終えて、神の世界へ行く。立派な神となって神の世界へ行きたいので、少しでいいから良いイナウを持ってきてくれ。そしたらさらに立派な神となって神の世界へ行くことができる。」という夢を見て目が覚めた。
 そんな夢を見たと妻に告げると、「おかげで無事な姿が見られる。あなたがいなくなったら、今後どうして暮らしたものかわからない。だから小さなイナウだけでお返しをするものですか」と言って支度をしている。そして私は寝床で横になった。夜明け頃に妻は起きて食事の支度をしたので、食事を済まし、すぐに行けるように妻が用意をしていたので、二人で猟場に行った。
 湖の側に幣場を作り、団子やお肉、タバコ、お酒などのいろいろな捧げ物を山積にして、何度もお礼を言って、次にナラの木の女の神様のところへ行って、イナウをお供えして感謝の言葉を言い、木の根元に捧げ物を山積にした。それから猟をするにも気が進まなかったので、さっさと家に帰って休んだ。夕方に横になっていると夢を見て、ケトゥペの神様がいた。
 「まあどんだけ私に感謝の気持ちを持っていて、これほどお礼をくれたのだか。これで私は大層の山積の荷物を持って神のところへ行き、神様へ一つずつお分けでき、思っていた以上に本当に重い立派な神様になれる。これからはお前が仕事をしている傍らへしっかり目をやり、お前を守ろう。お前たちに子供がなかったのは、二人に子供を授かる魂がなかったからだ。私も哀れに思うから、子供の魂を作る神様のところへ行って、兄弟の子供を授かる魂をもらって来よう。もうお前たちはいい年であるが、女の子と男の子の兄弟の子供を授かるぞ。子供たちは神からの授かった子供だから、日一日と成長するであろう。女の子が作るものでお前たちの生活は裕福になり、面倒を見てもらえるであろう。私を忘れないで祭ってくれたならば、お前の子孫の世代までも見守ってやろう。私が殺した極悪の神は、沖の世界でどんな勇猛な神も逆らえなくて、こちらの陸の世界へ私が追い出したものだ。お前は沖の世界からやってきたものに対して運が悪い。なのでそこへ向かって行って奴に出くわして、危ういところであったが、私がお前を助けに行ったから生きていられるのだ。といってもこれほどまでにお礼をくれるとは、なんとありがたいことであろう。これから私は神の世界へいくので、「神の世界のケトゥペの神、神のお爺さん、お祭りしますよ」と言いながら私を祭ってくれたらば、子孫までも見守っていくぞ。これからすぐ子供を授かるぞ。覚えておいて忘れるなよ」という夢をみた。
 目が覚めて、横になりながら拝礼をしたようだがすぐに眠ってしまったようで、傍らにナラの木の神様がいて、「ケトゥペの神は大層喜んだようで、『まさか助けにいって、これほどまでにお礼の品をもらうとは思わなかったのに、山積みの荷物を背負って、神の世界へ行くことができる』と私にも何度も礼を言いました。
 猟場の神様に知らせたときには、神々の反応はいろいろであったが、これからは私だけではなく、『猟場に住んでいる神様皆にお送りします』と言って、先祖供養をしたならば、それで私は受け取ることができるし、猟場の神様たちも受け取ることが出来る。そうやって私を祭ってくれたらば、年老いて神の世界へ行っても、お前たちを守りづづけよう。」と、ナラの木の神様の夢を見て目が覚め、何度も拝礼をして神様へ感謝の言葉を言った。
 そして、二日、三日と休んで山仕事にいくと妻に言うと、「あんなに精を出して働き、あんな目に遭って、どうしてまた山へ行きたいのか」と私を叱りつけた。今度は近くの場所で山仕事をしながら生活していると、夢で言われたように、人生の半ばに近づいた頃に子供を授かり、恥ずかしいと思いながらだけれどもそれを喜んだ。そして生まれた子供は一日一日と大きく成長するようで、喜んでいると、続けてかわいい女の子を授かった。それで私はなおのこと山仕事に精を出し、赤ん坊ができる前に恐ろしい目に会ったのに、今はごく普通で、あのような目に会うこともなく仕事に精を出した。
 そして棚を作って、その上に肉の良いもの、イナウの良いもの、いろいろなお酒であっても、「神の世界にいるケトゥペの神様、お爺さんの神様、お送りしますよ」と言いながら上げて置いて、なくなった時はケトゥペの神様が取って食べたと思った。子供たちは一日一日と大きく成長するようで、息子は狩りに出ても猟運があり、娘も妻が作るものを上手に作って、いろいろなことにせっせと働き、私は裕福になって暮らしている。
 そうして恐ろしい目に会うこともなく幸せな日々を送っていると私も初老の頃になり、子供たちに世話をしてもらうと思わせるよりも山仕事に行こうと思っていると、息子は「一人でも何とかお父さんたちを養えるよ。」と言って、一人で山仕事に行った。それで心配に思うところもあったが、息子はちゃんとやってくれ、私は何に不自由なく、素晴らしい日々を送った。
 猟場で恐ろしい目に会って、ナラの木の女の神様から知らせを受けたケトゥペの神様が私を助けてくれたので、今こうして神の世界にいるケトゥペの神様とナラの木の神様、そして猟場の神様を祭っている。他の神様たちをお祭りしたからといっても、助けに来てくれるか分からないので、たくさんお祭りしないでも、この三つの神様をお祭りするのを忘れないでいたら、私がいなくなったあとも子孫が繁栄するであろう。今、ケトゥペの神様のおかげで授かった子供たちが私の面倒を見てくれているのを感じながら、恐ろしい目にあったことを話すのだ。猟場ではいろいろと多くの悪い神に苦労しい思いをさせられたものである。注意して互いに争うこともなく大変仲良く暮すのだと何度も言いながら、孫が見られるほど年をとり、この世を去ったと言う話です。

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