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物語や歌

C0179. あの世の入り口

あらすじ


 石狩川の中流の大きな村で、1人息子である私は両親に大事に育てられた。父は猟の名人だったが、成長した私は父以上に獲物をとるようになった。息子は1人でも、自分は子沢山のものよりも幸せだと父は言っていた。河口には別の村があり、父はそこの首領と交際していた。河口の首領に縁故の証としてお願いされたので、父はたくさんの宝物を貸していた。私は父に「このままでは先祖に申し訳ないから、先祖伝来の宝物だけでも返してもらってこい」と言われていたが、何となく行きそびれていた。
 あるとき急に思い立って行くと、河口の首領は3年前に亡くなっており、独身の息子が2人残されていた。彼らは「宝物の話は知らない。だが、父の墓を掘り返して服の切れ端を持ってくれば信じてやる」と言う。3年前の墓では全て腐っているだろう、と思ったが、先祖の宝物のことなので仕方なく翌日出かけた。
 すると、なぜか川上に行きたくなって走り出した。さらに川上にある高い岩山の洞穴に入りたくなった。そして難所も苦もなく乗りこえて入って行ってしまった。狭い穴をはって進むと何か小鳥のようなものにつつかれたが、そのまま進んだ。やがて穴は広くなり、反対側に出た。
 川があり美しい景色が見えた。大きな村があり、手前に草ぶきの小さな小屋があった。近づくと「私が呼んだのだから入れ」と声がする。中に入ると、火のそばに老人がいて「自分は死者だが、頼みがあってお前を呼んだのだ。生者が死者と会話をしてはならないから、お前は口を利くな。私は3年前に死んだが、息子たちが供養してくれず食べ物が送られてこないので、あの村に入れない。先に亡くなった妻は私が供養していたのであの村にいる。私も死んですぐは妻があの村から食べ物を分けてもらっていたが、いつまで待っても息子たちからは何も送ってこない。だからもう分けてもらえなくなった。私はこのまま飢えて再び死ぬだろうが、その前に息子たちを化物に変えてやろうと思う。この魚を父からの贈り物だと言って息子たちに渡してくれ。これを食べると彼らは化物に変身するだろう。そうしたら惜しい宝物を持って行って、あとは家ごと焼いてくれ。時々我々を供養してくれれば見守ってやろう」と言って干魚を1本くれた。
 私はそのまま帰りかけたが、後継ぎが絶えるとかえって老人が不憫だと思い直し、魚を捨ててから河口の村ヘ戻った。そして兄弟のところへ行き、「私はあの世でお前たちの父親に会ったぞ。お前たちが供養しないのでひどい暮らしをしている。私はお前たちを化物に変える魚を預けられたが、その魚は捨てた。もしもお前たちが心を入れ替えないのであれば私が罰してやる」と言って叱りつけた。声を聞きつけて集まってきた村人も口々に「だからちゃんと供養をせよと言ったのに聞かなかった。情けをかけず、化物にしてしまえばよかったのに」という。皆で兄弟に説教をし、村人も手伝って立派な先祖供養をさせた。
 するとその晩、あの老人が夢に現れ「これで私もあの村に入れる。生者を死者のところへ来させたのはよくなかった。その埋め合わせに、借りたものに加えて立派な宝物を渡そう。時々供養してくれればお前を見守ってやろう」と言った。目覚めると件の兄弟たちも夢で怒られたと言う。帰りは皆に船で送ってもらって中流の村に戻った。すると私の両親も驚き、「そんな親不孝ものは助けずともよいのに」と言って兄弟を叱りつけた。そしてもう河口の村では結婚相手が見つからないかもしれないので、自分の村から女性を2人選んで送って結婚させてやった。私は河口の村で気に入った女性と結婚した。それ以来2つの村の間で交流が盛んになった。
 私に子どもが生まれて大きくなるまで両親は長生きして亡くなった。私は年をとってからも出来るだけ自分で河口の村を訪れていたが、やがて歩けなくなると、子どもたちが両村を行き来して様子を知らせてくれた。私は子どもや孫たちに大事にされて余生をすごした。親不孝したり、供養を怠ったりしてはならない、自分はあの世まで行ってそれを確かめたのだ、と話して亡くなった。

 

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