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<その1>
育ての母が私を育てていました。母はとても私を可愛がり、下働きの女性が食事を作ってくれていました。私が走り回るくらいに大きくなると、母は金の寝台に上等な着物を私に着せて寝かせ、母はその寝台の下で私を守って寝ていました。私はもう着物のすそを引っ張って、はだけるのを隠すくらいに大きくなりました。すると母はこのように言いました。「男は男の仕事をするものです」。そう言って彫り物用の曲がった小刀を私にくれたので、私は毎日刀のさやの表面の模様を彫っていました。下働きの人が食事を作り、母が薄手作りのお椀とお膳を重ねて出してくれるので、それを食べて私は一人前の男になりました。
ある日石狩から私を酒宴に招待する人がやって来ました。その人は外にいて、育ての母は私にこう言いました。「私が育てた神よ、よく聞いてください。私は人間ではないのです。天の国のオオカミの神のひとり娘が私なのです。あなたの父、シヌタプカの神が自炊して暮らしているのを気の毒に思い、父母の言うことを聞かずに私は天からシヌタプカに降りて来て、あなたの父のお世話をして暮らしていました。そのうちにあなたが生まれ、旦那さんはなぜかあなたに「淫乱の耳輪」という名前をつけて可愛がっていました。そのうちに石狩の女が酒宴に招待して来て、出かけて行ったあなたの父を誘惑し、それ以来あなたの父は私に遠慮をして帰って来ないのです。石狩の女はあなたを殺そうとして招待に来ているのですが、あなたの背後には私が憑いて守っているので、何も恐ろしいことはないのですよ。父神は戦いに行くつもりで鉢や酒椀を自分で持っています。そのような人があなたの父なのです。そしてトゥペサンの村の人間をあなたが全部殺してしまっては親族がいなくなってしまいます。弟がふたりいるので、その子たちは殺さないでおきなさい。あなたは天の国の祖父母からも守られているので、何も恐れるものはないのですよ」。
そして私は酒宴に招かれて石狩にやって来ました。「ポイヤウンペが来たならばやっつけてやる」という声を聞いて家に入って行くと、何かの神が私をにらみつけました。私が「聞こえないからもう一度言ってみろ」と言うと、大きな窓の下には鉢や酒椀を持った神の勇者がいました。初めて父に会うと思って感慨がありましたが、神の母に言われたことがあるので石狩の女と戦うことにしました。石狩の女は仲間の後ろで「早くポイヤウンペを斬りなさい、そうしたらシヌタプカにある宝が手に入るのだよ」と言いました。私は足でいろりの火の燃えさしを蹴散らしました。城が燃えて行き、天窓の金の板が父の上に落ちましたが、父は霞のようになって天窓から外に出て、見えなくなってしまいました。
それから戦いが始まり、城が崩れ落ちる前に外に飛び出すと、私を殺そうとする大勢の者たちが槍を持ち、太刀を持ってかかって来ました。そして石狩の女は斬ってしまいました。そのうちに天から白い上等な着物を着た男や女が神の鎧を身に着けて私に加勢しに来てくれました。そしてその石狩の村を一掃してしまうと、ふたりの男の子、美しい子たちが「神の兄さん」と言って私に飛びついて来ました。母から聞いていた私の弟だと思ったので、石狩の女とその子たちを連れてシヌタプカに帰り、それからは何の苦労もなくその子たちを育てました。酒を作ると、天のオオカミ神の祖父母に祈りました。シヌタプカではどんな悪い神が来ても恐れずに、シヌタプカの城を守って戦いました。石狩には村も何もなくなり、小さい石狩の女の一族だけを私の親族にしていますと、ポイヤウンペが物語りました。
<その2>
ポイヤウンペがひとりで暮らしていました。そこにオオカミ神の娘が世話をしに行くと父や母に言っても全く聞いてくれませんでした。そして勝手にシヌタプカの城に降りて行き、ポイヤウンペの世話をして暮らしていました。そのうちに男の子が生まれ「神の耳輪」という名前をつけて可愛がって暮らしていました。そのうちに石狩の女が神の勇者を酒宴に招待し、出かけて行くと誘惑してしまいました。神の勇者は妻に遠慮をしてシヌタプカには帰って来ませんでしたが、妻は夫の背後に憑いて守っていました。そのうちに石狩の女には2回子供が生まれましたが、その子たちも守っていました。石狩の女はシヌタプカにも息子がいることが心配になり、その子を殺そうとして酒を作り、酒宴に招待しました。招待する人がシヌタプカの城に来ると、神の妻は承諾し、今までのことを息子に話して聞かせました。そして「戦いになっても、あなたの弟たちを殺してはあなたの親族がいなくなってしまうので、戦いが終わったら弟たち、そして小さい石狩の女を連れて帰り、シヌタプカの城を守ってください。そして酒を作ったならば、天の国のオオカミ神に祈ってください。そうすればあなたを守り、どんな悪者がやって来ても恐れることはないのです」と言いました。そして金の鎧を出してくれました。
石狩の村に来ると大きな家があり、「シヌタプカから若い男が来たならば斬ってしまえ」という声がしたので、私が家に入って行くと、そのように言っていた者たちは私を睨みつけました。「もう一度言ってみろ」と言うと驚いていました。窓の下には鉢と酒椀を持った神のような人がいました。この人が父で、今まで会うこともできずにいたと思うと感慨深いものがありました。足で火を蹴散らしたところ、石狩の女は仲間の背後で「たったひとりなのだ。早く斬ってしまえ。そうすればシヌタプカの宝が手に入り、長者になれるのだ」そう言っているうちに城が燃えて、天窓から金の板が父の上に落ちました。父が天窓から外に出たので煙とともに私も外に出ると、大勢の人間が槍や刀を持って襲いかかって来ました。そして天から白い上等な着物を着た男や女が降りて来て、私に加勢してくれました。みんな斬ってしまい、石狩の村を燃やしてしまいました。すると美しい男の子がふたり「神の兄さん」と言って飛びついて来ました。白い上等の着物を着た人たちは天に帰り、私は加勢してくれた若い娘と弟たちを連れてシヌタプカに帰り、弟たちを育てて暮らし、大きくなったら別の城に住まわせました。
酒を作ったらオオカミの神に祈り、石狩の若い女はよく私に尽くして暮らしました。どんな悪者が来ても、恐れることはありませんでした。
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