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私はウパッシという名の男です。いろいろな村に出向いていき、嘘の談判、盗みの談判をして村を荒し回り、人々を困らせていました。噂に聞くと、石狩川の上流にひとりの長者がいるといいます。その人が死んでふたりの息子が残されたと聞き、行って談判をするのにはいいだろうと思っていました。
ある日準備をして、舟に乗って出かけていき、石狩川をさかのぼって行ったところ、途中でとてもきれいな女性が川で洗濯をしていました。私を見ると「またウパッシがどこかへ行って嘘の談判、盗みの談判をしに行くようだ」と言いました。名前を呼ばれたことに腹を立てつつ川をさかのぼって行き、魚を2、3匹とって舟に積んで、噂の長者の立派な家に到着し、咳払いをすると、きれいな女性が出てきて家に招き入れてくれました。家の中は宝物がピカピカと輝いている立派な家でした。やがて外から帰ってきた男2人に対して女性が話をし、私が来ていることを告げると、外仕事の服装のまま家に入ってきて、敷居の上に立って私をにらみつけ、右座にドシンと座りました。挨拶をしてもぞんざいに返礼をされ、やがて料理が出てきたので、私の着物から糸くずを取り、椀の中に入れて「ごみが入っていた。どこの風習だ」と言いました。それでも聞こえないふりをしているので、もっとごみを入れて騒ぐと、男たちは立ち上がって私の髪の毛をつかみ、外へひきずり出した。「このウパッシめ。おまえが嘘の談判、盗みの談判をして人を困らせているのを知らないとでも思ったか」そう言って私を殴りつけました。兄弟で交代で私を殴り、殺されると思ったので、はって逃げて水場に行き、舟に乗って川を下っていきました。
来る時に名前を呼んだ女性のいた水くみ場に舟をあげて丘を登っていくと、一軒の立派な家がありました。その家に入っていくと、右座側の窓の下に男性が座っていました。あいさつをしても返礼もしません。そこで「女に名前を呼ばれたことに腹を立てたので、なんくせをつけに来たのだ」と言うと、その男性は立ち上がり「ウパッシ、悪い奴め。おまえの素性がわからないとでも思ったか。私はキナチャウカムイで、ものごとを見通すことのできる神なのだ。石狩川の上流の若い兄弟のことも守っていた。そこにおまえが行ってなんくせをつけたことを知らないとでも思ったのか」そう言ってまた殴られ、水くみ場にひきずられていって舟の舳先にしばりつけられました。そのまま舟を川に出されたので、おぼれそうになりながら村にたどりつきました。大声で助けを求めると、村人たちが来て「どうせまた嘘の談判、盗みの談判をしに行って罰が当たり、しばられて帰ってきたのだな」と言って縄を解いてくれました。私の家にはいずって行っても、村人たちに交代で殴られ、妻は「これからはひとりでお暮らしなさい」と言って荷物をまとめて出ていってしまいました。食べる物もなく、村人たちがなんくせをつけて私の家の宝物を持っていってしまうので、家の中は空っぽになってしまいました。そこでわずかに残った行器を壊して火にくべていましたが、死ぬこともできず、村人に殴られながら暮らしていました。そのうちに地面が裂けてそこに落ちていきました。
これからの人たちは嘘の談判、盗みの談判をしてはいけないと、ウパッシが物語りました。
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