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私は旦那さんと暮らすひとりの女性でした。旦那さんは狩りでクマやシカをとって来て、私も働き者なので何不自由ない暮らしをしていました。でもただひとつ子供がないことだけを寂しく思っていました。村人たちが子供を連れているのを見るたびに子供が欲しくなり、旦那さんに「妾をもらってください」と言っても、聞こえないふりをしていました。
ある時旦那さんは山へ行って2日も3日も帰って来ませんでした。妾でも探しているのかと思っていると、本当にきれいな若い娘を連れて来たので、とても喜んで別邸を建て、助け合って暮らしていました。そのうちにとてもかわいらしい男の子が生まれたので、可愛がって暮らしました。
息子が大きくなり、妾さんがオオウバユリ掘りに連れて行くと言うので、一緒に行きました。舟で川をさかのぼって行き、旦那さんの狩小屋につきました。私は家の中の草を先に刈って妾さんと息子を入れ、外の草刈りをして掃除をしていました。狩小屋の近くの小さいの山のすそ野に、クマが穴の中にいるのを見ました。でも見ないふりをしてオオイタドリの葉を刈って、狩小屋の前まで敷きつめておきました。そして妾さんには何も言わずに食事をしました。
ふたりを寝かせ、私は槍を持って寝ずにいました。夜が明ける頃に、何かがオオイタドリの葉を踏んで近づいて来る音が聞こえました。家の戸口の前に来たので、槍で思い切り突いたところ、槍が当たったらしくそこで倒れて転げ回って暴れ、やがて死んでしまったのがわかりました。そのクマを踏みつけて悪口をさんざんに言い、それから眠りにつきました。
妾さんは起きて驚き、食事をするとオオウバユリ掘りをせずに家に帰り、旦那さんに話しました。そして旦那さんも一緒に狩小屋まで来て、その様子を見ると驚きあきれ、「このクマは偉い神ではない。女の度胸を試したのだろう」と言ってそのむくろを刻んで、頭は折れた木の上に置いて、送りの儀式もせずに「湿地の国に蹴落としてやる」と言って帰って来ました。
それからはあまり遠くの山に行くのは恐ろしいので、近くの山に行ってオオウバユリ掘りなどをしながら暮らしました。それから妾さんには次々に子供ができ、子供たちの成長を見て何不自由ない暮らしをし、もう死んで行くので、昔恐ろしい目にあったことを子供たちに話して死んで行きますと、ひとりの女性が物語りました。
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