動物編 §277 くま ヒグマ アカグマ
北海道にはヒグマ(Ursus arctos yesoensis Lydekker)が住み、カラフトにはアカグマ(Ursus arctoscollaris Cuvier)が住む
(1)kamuy カムイ [もと‘神’の義] ⦅北海道、千島⦆
注.――北海道では「カムイ」(神)とだけいってクマをさす。「キムンカムイ」(山の神)[→(6)]のつもりだ。千島でもそうだったらしい(→‘kamui’[Klaproth S.304];‘kim‘kami’[Torii,p.150])。樺太ではクマを「イソ」と言うが、これは千島ではアザラシをいい、北海道で「えもの」一般をいう語である[→(45)]。樺太でただ「カムイ」といえば、東海岸ではアザラシをさし[→§278(3)]、西海岸ではトドをさす[→§280(2)]。Cf.also:「カムイ・ハル」‘クマの肉’、「カムイ・チコイキプ」‘クマなるケダモノ’[→(2)]、「エン・カムイ」‘あらグマ’[→(18)]、「シケ・カムイ」‘太った大きなクマ’[→(19)]、「オトットウシ・カムイ」‘乳房のついた・神(めグマ)’「スヨ・カムイ」‘穴に入っている・クマ’
(2)kamuycikoykip カムイチコイキプ [<kamuy(神、クマ)cikoykip(えもの、けもの):<ci(われらが)koyki(とる)-p(もの)] ⦅北海道⦆ 【雅】
注.――叙事詩の中で“kamuy-cikoykip yuk-cikoykip”「クマなるケダモノ・シカなるケダモノ」のように対句にして用いることが多い。このyuk-cikoykipのyukは、いま、単独では、もっぱらシカの意に用いられるが、古くはもっと意味がひろく、ケダモノの中でも狩りの対象としてまたその肉が食料として特に重要であったクマ・シカ・エゾタヌキ等のどれをもさす名称であったらしい。語源はたぶんyuk<i-uk「もの・とる」「とり・もの」「え・もの」の義で、クマを「チラマンテプ」[ci-ramante-p(われらが・狩りとる・もの)][→(20)]といい、キツネを「チロンヌプ」[<ci-ronnu-p(われらが・どっさり殺す・もの)][→§270(1),注1]といい、ケダモノを「チコイキプ」[<ci-koyki-p(われらが・ころすもの)]というのと同じく、狩人の立場から名づけたものである。もともと「えもの」の意味だったからこそ、それがクマにもシカにもエゾタヌキにも適用されたのである。Cf.「モユク」[<mo-yuk(小さな・えもの)]‘エゾタヌキ’[→§271]、「シユク」[<si-yuk 大きな(ほんとの)・えもの]‘雄グマ’[→(22)]、「ホクユク」[<hoku-yuk(おとこ(おっと)・えもの]‘雄グマ’[→(24)]、「ノユク」[<no-yuk(よい・えもの)]‘おとなしいクマ’[→(36)]、「ウェイユク」[weyyuk<wen-yuk(わるい・クマ)]‘あらグマ’[→(37)]、「ユクサパオニ」[<yuk-sapa-o-ni(クマ・頭・のる・木]など。
(3)kamuy-caca カムイチャチャ [<kamuy(神)caca(じじい)] ⦅屈斜路、広尾⦆
注.――説話の中ではクマをじじいとしてあらわすことが多い。Cf.「カムイ・エカシ」[神・じじい][→(4)]、「キムン・エカシ」[山の・じじい][→(5)]
(4)kamuy-ekasi カムイエカシ [<kamuy(神)ekasi(じじい)] ⦅余市⦆ Cf.(3)注
(5)kimum-ekasi キムンエカシ [(山のじじい)<kim(山)un(にいる)ekasi(じじい)] 説話の中でクマを言う⦅幌別⦆Cf.(3),注。Cf.also,,M.Chiri,AMS., p.109,注(1)
(6)kimun-kamuy キムンカムイ [‘山の神’;<kim(山)un(にいる)kamuy(神)] ⦅北海道、多蘭泊⦆ クマを神としてあがめる名
注1.――この語は、a)一般にクマをさす;b)クマのうち、特にnoyuk‘おとなしいクマ’をさす。
注2.――樺太では、広く‘山のけだもの’をさすことがある(Yamabe, Ainu Monogatari, p.67)。
(7)‘kim kamui’ キムカムイ ⦅K.⦆ Cf(1),注;(12),注2
(8)kimumpe キムンペ [<kim(山)un(にいる)-pe(もの)] ⦅北海道、樺太⦆
注.――この語は、a)山のけだものをさす、b)クマをさす(Kindaichi,YNK,, p.431; Pilsudski,p.167)。
(9)metotus-kamuy メトトゥシカムイ [‘山の奥にいる神’<metot(奥山)us(におられる)kamuy(神)] ⦅北海道⦆
注.――北海道の南部地方胆振や日高では、この語はarchaicでliturgicalで、主として祈りのことばに用いられる。
(10)metos-kamuy メトシカムイ [<metot-us-kamuy] ⦅美幌⦆
(11)metot-kamuy メトッカムイ ⦅春採⦆
(12)nupuri-kor-kamuy ヌプリコロカムイ [‘山を支配する神’;<nupuri(山)kor(もつ)kamuy(神)] ⦅北海道⦆
注1.――クマ神のかしらを言い、主として説話に用いられる。
注2.――かんたんにnupuri-kamuyとも言う(美幌)。こういう合成語の神名には、たいていsyntacticなものとasyntacticなものとがあり、前者は改まった言い方で、後のはぞんざいな言い方である。
(syntactic) (asyntactic)
kim-un-kamuy kim-kamuy
metot-us-kamuy metot-kamuy
nupuri-kor-kamuy nupuri-kamuy
注3.――アイヌは、クマを、その性質に関して2種類に分ける。黒っぽい毛色のものは、おとなしいよい性質のクマで、それを「ノユク」[よい・クマ][→(36)]とよび、また「キムンカムイ」[山・にいる・神][→(6)]とよぶ。これらは山のまん中に住むと考え、そのかしらを「ヌプリ・ノシキ・ウン・カムイ」[山・のまん中・にいる・神][→(14)]、「ヌプリ・ノシキ・ウン・クル」[山・のまん中・にいる・神][→(15)]、「ヌプリ・コル・カムイ」[山を・もつ・神]、「ヌプリ・コル・クル」[山を・もつ・神]、あるいはkamuy-netopa[神の・胴体]とよぶ。また毛色の変わった、腰から上が褐色で腹から下が灰色というようなのは、性の悪い、人に害をするクマで、「ウェイユク」[悪いクマ][→(37)]とよばれ、その住居は山のしもてにあると考えられて「ヌプリケスンカムイ」[山・のしもて・にいる・神][→(16)]または「ヌプリケスンクル」[山の・しもて・にいる・神]とよばれる。
(13)nupuri-kamuy ヌプリカムイ →(12),注2.
(14)nupuri-noski-un-kamuy ヌプリノシキウンカムイ [<nupuri(山)noski(まん中)un(にいる)kamuy(神)] ⦅北海道⦆ →(12),注3.
(15)nupuri-noski-un-kur ヌプリノシキウンクル →(12),注3.
(16)nupuri-kes-un-kamuy ヌプリケスンカムイ [<nupuri(山)kes(しもて)un(にいる)kamuy(神)] ⦅北海道⦆ ‘あらぐま’(方言‘ひぐま’)の神名→(12),注3.
(17)nupuri-kes-un-kur ヌプリケスンクル →(12),注3.
(18)wen-kamuy ウェンカムイ [<wen(悪い)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ ‘あらぐま’‘人くいグマ’
注1.――wen-kamuy=weyyuk[→(37)]=nupuri-kesun-kamuy[→(12), 注3]
注2.――足寄では、初雪が来ても穴に入らずにうろついているクマ。
(19)sike-kamuy シケカムイ [<sike(荷物を背負う)kamuy(神)] ⦅屈斜路⦆ 太ったクマ
注.――アイヌの信仰によれば、クマの肉体はクマの神のおくりもの――クマの神が人間を訪れる際のみやげなのである。そこで、ふとった大きなクマは、アイヌの目には、みやげの荷物をどっさり背負った神様として映じるのだ。
(20)ciramantep チラマンテプ [<ci-(われら)ramante(狩りとる)-p(もの)] ⦅北海道、千島――Torii,p.150⦆
注.――この語はa)えもの、b)けだもの、c)クマ、の3つの意をもつ。
(21)yuk-cikoykip ユクチコイキプ [→(2)注] ⦅北海道⦆ 【雅】
(22)siyuk シユク [<si-(ほんとの、大きな)yuk(えもの)] ⦅北海道⦆ 雄クマ(成獣)
注.――この語は、もと、a)‘エゾタヌキ’や‘シカ’に対して、‘クマ’をさしたらしい――すなわち、yuk<i-uk(えもの)>シカ、moyuk<mo-yuk(ちいさい・えもの)>エゾタヌキ、siyuk<si-yuk(大きい・えもの)>クマ、b)クマの王、すなわち「ヌプリ・コル・カムイ」[→(12),注3]をさす、c)北海道各地で雄グマ(成獣)をさす、d)幌別では5歳以上の成獣の雄グマをさす、たとえば
heper 1歳
riyap 2歳
cisurap 3歳
aska-kucan 4歳雄
kucan 4歳以上の雌
siyuk 5歳以上の雄
(24)hokuyuk ホクユク [<hoku(おとこ)yuk(えもの)] ⦅天塩⦆ 雄グマ
注1.――バチラーは、使用地を示さずに、これを、noyukの反対で人食いグマだとしている(Batchelor, Dictionary, p.164)。
注2.――樺太の説話の中で雄グマをukuyuhという[→(56)]。
(25)oku-yuk オクユク [<oku(男)yuk(クマ)] ⦅美幌⦆
注.――並はずれて胴も手足も長いクマ。普通のクマよりも気が荒い。cas-pinnep(走る・雄)とも言う。
(26)heper ヘペレ ⦅胆振、日高⦆ 子グマ、一歳の子グマ
(27)eper エペレ ⦅石狩、北見、釧路⦆ 子グマ、一歳の子グマ
Cf. ureska-eper 飼っている子グマ⦅美幌⦆
(28)pewrep ペウレプ [<pewre(かわい・おさない)-p(もの)] ⦅名寄、芽室、多来加⦆ 子グマ、一歳の子グマ
注.――eper、heperが日常語として用いられる土地では、pewrepはarchaicである。地名にも見出される:Pewrep-us-kot[子グマ・いる・谷]⦅後志――Nagata, p.138⦆; Pewrep-yan-tomari[子グマが・海から上がった・泊]⦅北見(宗谷郡)Ibid p.422⦆;Pewrep-san-tomari[子グマが・山から下った・泊]⦅Ibid., p.422⦆。
(29)riyap リヤプ [<riya(冬を越す)-p(もの)、‘冬を越したもの’] ⦅北海道⦆ 二歳の子グマ
注.――二歳の子グマをつれている母グマをriyap-kor-pe[二歳の子グマを・もっている・もの]と言う。これはpo-ka-keweして――子をかばって――気があらくなっているからとて、アイヌは特別に警戒する。
(30)siriyap シリヤプ [si-(ほんとうの、大きな)riyap(↑)] ⦅天塩⦆ 三歳グマ
(31)cisurap チスラプ [‘親から離れたもの’<sura(はなす)、ci-sura(はなれた)、-p(もの)] ⦅幌別、穂別、美幌⦆ 親から離れた若いクマ
注1.――幌別では3歳のクマをさす。たとえば次のように
heper 当歳
riyap 2歳
cisurap 3歳
注2.――美幌では2歳グマをさす
eper 当歳
cisurap 2歳
tu-pa-cisurap 3歳
re-pa-cisurap 4歳
yaymat-kamuy 5歳
(32)kucan クチャン ⦅北海道、樺太⦆ 雌グマ(成獣):4、5歳以上の雌熊
(33)aska-kucan アシカクチャン ⦅幌別⦆ 四歳の雄グマ
(34)riyap-kor-pe リヤプコロペ [→(29)注]
(35)owewe オウェウェ [<o-we-we、<we-we、<we(クマのほえ声)] ⦅美幌、近文⦆ 昔話の中でクマを言う
注.――owewe(howeweとも)は、クマの泣き声から、クマを意味する小児語になった。
(36)noyuk ノユク [<no(よい)yuk(えもの)] ⦅北海道⦆ おとなしいよいクマ
(37)weyyuk ウェイユク [<wen(悪い)yuk(けだもの)] ⦅北海道⦆ ‘あらグマ’
注.――十勝国足寄ではtoyeranranupと称する性悪の鹿をさすこともある。
(38)sirkirappe シリキラッペ [sir(何となく)kirap(脂気がなくやせている)pe(もの)] ⦅幌別⦆ 年とった大きなクマ
注.――poro sirkirappe su-puta hene a-sir-kamure apkor kane apkas ruwehe an〔大きなシリキラッペが鍋のふたでも地面におしつけたように歩いたあとがある〕などという。
(39)epenkuwaus(-kamuy) エペンクワウシ [‘前の方に杖をついているクマ’;<e(そこ)pen(かみ・上方・上体)kuwa(杖)us(ついている)kamuy(神)] ⦅幌別、穂別、美幌⦆ 前足の長いクマ
(40)epankuwaus(-kamuy) エパンクワウシ [‘尻の方に杖をついているクマ’;<e(そこ)pan(しも・下方・下体)kuwa(杖)us(ついている)kamuy(神)] ⦅幌別、穂別、美幌⦆ 後足の長いクマ
注1.――山本多助著「阿寒の伝説」によれば、阿寒地方のクマには四通りあるという;
a)‘エペンカウシ’――前足の長いクマ。(epenkaus<e-pen-kuwa-us-kamuy)「頭の方に杖をついている神さま」)
b)‘オパンカウシ’――後足の長いクマ。(opankaus<o-pan-kuwa-us-kamuy「尻の方に杖をついている神さま」)
c)‘モユッネ’――ムジナに似たクマ。(moyukne<moyuk-ne-kamuy「ムジナ・状の・神さま」)
d)‘シツヤシピンネ’――走るに早い雄グマ。(sitsaspinne<si-cas-pinne-kamuy「非常に・走る・雄の・神さま」)
注2.――吉田仁麿著「釧路市の先住民族遺跡」(改訂版、昭和10年)p.35によれば、釧路地方には四通りのクマが住んでいたという;
a)‘キムンカムイ’――前足と後足とが同じ長さで頭を下げたクマ;これはアイヌを殺さない。
b)‘イペンカムイ’――前足長く首を下げたクマ;これを射そんじた時は山の上の方へ逃げるといい。(<e-pen-kuwa-us-kamuy)。
c)‘イパンカムイ’――前足短く首を下げたクマ;射そんじて追っかけられたら山の下の方へ逃げるといい。(<e-pan-kuwa-us-kamuy)。
d)‘シツヤスピンネップ’――前足と後足とが同じ長さで頭を上げたクマ;これはアイヌを殺すから注意しなければならない。(si-cas-pinnep「非常に・走る・雄グマ」)
(41)arasarus アラサルシ ⦅穂別、幌別⦆ クマのばけもの
(42)cicikew チチケウ ⦅穂別、幌別⦆ 馬の尾のように長い尾をもつという。体が小さく、足が大きく、木の上に登ってもキネズミのように体の自由がきくばけものグマ
(43)otottous-kamuy オトットウシカムイ [<o-totto-us-kamuy(ちぶさのついている神)] ⦅幌別⦆ 雌グマ
(44)suyo-kamuy スヨカムイ [<suy-o-kamuy(穴・にいる・神)] ⦅幌別⦆ 穴ごもりをしているクマ
(45)iso イソ [‘えもの’] ⦅樺太⦆ クマの一般称
注1.――この語はもと「えもの」の義であるが、樺太ではクマをさし、千島ではアザラシをさす。
注2.――樺太の白浦で5歳以上のクマをさす。すなわち:
pewreh[<pewre-p かわい・もの]一歳
riyah [<riya-p 冬を越した・もの]二歳
tupa-riyah[tu-pa-riya-p 二・季節・冬を越した・もの]三歳
repa-riyah[re-pa-riya-p 三・季節・冬を越した・もの]四歳
iso 五歳以上
kucan 五歳以上(めす)
pinne-iso, pine-iso 五歳以上(おす)
注3.――樺太の多来加で成長の段階に応じて次のように言う:
pewrep 一歳
pon-iso 一歳
cap, ciyap 二歳
irpa-cap, irpa-ciyap 二歳
tupa-cap, tupa-ciyap 三歳
tepa-cap, tepa-ciyap 四歳
inepa-cap, inepa-ciyap 五歳
asisne-pa-cap, asiknepa-ciyap 六歳
kucan 五六歳以上(めす)
pinne-iso 同上(おす)
(46)pon-iso ポンイソ [pon(小さい)iso(クマ)] →(45),注3
(47)pinne-iso ピンネイソ [pinne(おすの)iso(クマ)] →(45),注2-3
(48)pewrep ペウレプ [<pewre(かわい)-p(もの)] →(45),注2-3
(49)pewreh ペウレヘ [<pewre-p] →(45),注2
(50)riyah リヤハ [<riya(越冬する)-p(もの)] →(45),注2
(51)ciyap チヤプ [<riya-p] →(45),注3
(52)cap チャプ [<ciyap] →(45),注3
(53)kucan クチャン →(45),注2-3
(54)sara-kamuy サラカムイ ⦅白浦⦆ 叙事詩hawkiの中でクマを言う
(55)esirasirahku エシラシラハク ⦅相浜⦆ 昔話(tu-itah)の中で‘大きなクマ’を言う
(56)ukuyuh ウクユフ [<hoku-yuk] ⦅相浜、白浦⦆ 説話の中で雄グマを言う
(57)yuh ユフ [<yuk] ⦅樺太⦆ 説話の中でクマをさす【→Pilsudski, pp.162,212】
(58)si(y)ahka シアハカ [<si-apka→§289(4)] ⦅樺太⦆ 説話の中で雄グマをさす【→Pilsudski, p.189】
(59)sikuma-noski-un-kamuy シクマノシキカムイ [<sikuma(山)noski(のまん中)un(にいる)kamuy(神)] ⦅白浦⦆ 叙事詩(hawki)の中でクマを言う。
Cf.‘sekuma-noskun-kamuy’(Pilsudski, p.231)
(60)sikuma-pa-us-kamuy シクマパウシカムイ [<sikuma(山)pa(のかみて)un(にいらっしゃる)kamuy(神)] ⦅白浦⦆ 叙事詩(hawki)の中でクマを言う。
Cf.‘sekuma-pa-us-kamuy’(Pilsudski, pp.192-3; Kindaichi, KKI, p.146)
(61)apkas-kamuy アプカシカムイ [<apkas(歩く)kamuy(神)] ⦅足寄、美幌⦆ 冬が来ても穴に入らずに山野をうろついているクマ。
(62)siarasarus シアラサルシ ⦅穂別⦆ 馬の尾のように長い尾をもつばけものグマ
(63)ca-se-weyyuk チャセウェイユク [<ca(柴)se(負う)wen(悪い)yuk(クマ)] ⦅穂別⦆ 柴を背負ったような格好の荒グマ
(64)cas-pinnep チャシピンネプ [<cas(走る)pinnep(雄)] ⦅美幌⦆ 胴や手足の長い性悪のクマ
(65)ciseorosampe チセオロサンペ [<cise(家)or(中)o(から)san(出た)-pe(もの)] ⦅美幌⦆ 穴から出たばかりの子グマ
(66)hureh フレヘ [<hure(赤い)-p(もの)] ⦅新問⦆ クマの子(=pon-iso)
(67)imut-kamuy イムッカムイ [<i(それを〔玉飾りをさす〕mut(首からさげている)kamuy(神)] ⦅幌別、白老⦆ 月の輪のついているクマ
(68)iwor-kor-kamuy イウォロコロカムイ [<iwor(山奥を)kor(所有する)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ 【雅】
(69)iwor-ekasi イウォロエカシ [<ekasi(翁)、‘山の翁’] ⦅美幌⦆ 【雅】
(70)kenasi-orun-kamuy ケナシオルンカムイ [<kenasi(川岸の原)or(の中)un(に出て来た)kamuy(神)] ⦅屈斜路⦆ 川岸の木原に出て来たクマ
(71)apkas-kucan アプカシクチャン [<apkas(歩く)kucan(雌グマ)] ⦅美幌⦆ 他のクマがすでに穴ごもりしたのにまだ山野をうろついている雌グマ
(72)kucan-turep クチャントゥレプ [<kucan(雌グマを)tura(連れている)-p(もの)] ⦅美幌⦆ 雌グマを連れている雄グマ
(73)matakarip マタカリプ [<mata(冬)kari(うろつく)-p(もの)] ⦅沙流⦆ 冬になっても穴に入らずにうろついているクマ
(74)moyukne モユクネ [moyuk-ne-kamuyの下略;<moyuk(ムジナ)ne(のような)kamuy(神)] ⦅釧路⦆ ムジナに似たクマ
(75)onne-kamuy オンネカムイ [<onne(老いている)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ 親グマ(pon-kamuy〔子グマ〕に対して言う)
(76)paykar-kamuy パイカラカムイ [<paykar(春)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ 春先にとったクマ
(77)porop-netopa ポロプネトパ [<poro(大きい)-p(もの)netopa(体);‘大きいものの体’] ⦅美幌⦆ その片足だけでも背負いきれぬほどの大きなクマ
(78)poro-siahka ポロシアハカ [<poro(大きな)siahka(大雄熊)] ⦅多蘭泊⦆ クマの王
(79)pusinnep プシンネプ [<pu(庫)sinne(のような)-p(もの)] ⦅美幌⦆ 庫が立ってでもいるように丸くなっているおとなしいクマ
(80)rekutumpe-kor-kamuy レクトゥンペコロカムイ [<rekutumpe(首輪)kor(もつ)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ 月の輪をもっているクマ
(81)suy-orun-kamuy スイオルンカムイ [<suy(穴)or(中)un(にいる)kamuy(神)] ⦅屈斜路⦆ 穴ごもりしているクマ
(82)u-tura-kamuy ウトゥラカムイ [<u-(おたがい)tura(連れる)kamuy(神)] ⦅美幌⦆ 二匹連れのクマ(いつも雄と雌とが連れ立っている)
(83)yaymat-kamuy ヤイマッカムイ ⦅美幌⦆ 5歳のクマ