動物編 §278 あざらし
(1)tukar トゥカㇻ   ⦅北海道⦆ 
 注.――樺太でもtukar⦅多来加⦆またはtukara⦅白浦、真岡⦆という語はあるが、それはゴマフアザラシの2、3歳の子獣について言う。千島では‘tukoro’と言ったらしい[→Torii,p.171: Cf.‘tkoar’――Klaproth,p.312] 
(2)atuykunkamuy アトゥイクンカムイ [<atuy(海を)kor(所有する・支配する)kamuy(神)] ⦅白浦⦆ アザラシの神名
(3)kamuy カムイ [‘神’]  ⦅白浦⦆ アザラシの総称 
 注.――この語は北海道及び千島ではクマをさすが、樺太の東海岸ではアザラシをさし、西海岸ではトドをさす。 
(4)cirayci チライチ [<ci-(われら)rayeci(どっさり殺す)-p(もの)] ⦅新問⦆ アザラシの総称
(5)iso イソ [‘えもの’]  ⦅千島――Torii, pp.56,60⦆ アザラシをさす 
 注.――この語は北海道では‘えもの’を言うが、樺太ではクマをさす。 
(6)iami、iyami イアミ、イヤミ ⦅白浦⦆ 氷上のアザラシを言う沖ことば、沖狩りに出て氷上でアザラシを見つけた時はkamuyと言わずにi(y)amiと言う。「タラタ・イアミ・アン」“tara-ta iami an!”(あそこにアザラシがいる!)などと言うのである。
(7)worumpe ウォルンペ [<wor(水)un(にいる)pe(もの)] ⦅白浦⦆ 水中のアザラシを言う沖ことば。沖狩りに出てアザラシが海面に頭を出したのを見つけた時“アザラシがいたぞ!”と言う代わりに「ウォルンペ・ヘタリ」“worumpe hetari!”(水の者が顔をあげた!)と言うのである。
(8)hetaris ヘタリㇱ [<hetari(顔を上げた)-p(もの)] ⦅白浦⦆ 海面に顔を出したアザラシをさす沖ことば
(9)sinuye シヌイェ [‘いれずみ’] ⦅松浦竹四郎「十勝日誌」⦆ 十勝と日高の国境にある霊山(ポロシリ岳?)に於いてアザラシを言う山ことば。「……此岳に上る時は海の物の名をいふを禁じ若呼時は変名して呼也と」(松浦武四郎『十勝日誌』)
(10)porop ポロㇷ゚ [<poro(大きい)-p(もの)]  ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシ(オステンアザラシ)(Erignathus barbatus nauticus Pallas)の成獣 
 注.――この地方では年齢の差に応じて次のように別々の名をつけている。
 (a)porop-amuspe 1歳
 (b)sinepa-ciyanka 2歳
 (c)tupa-ciyanka 3歳
 (d)tepa-ciyanka 4歳
 (e)porop 5歳以上
 (f)pinne-porop 雄の成獣
 (g)matne-porop 雌の成獣 
(11)poroh ポロㇹ [<porop]  ⦅白浦⦆ アゴヒゲアザラシの成獣 
 注.――年齢の差に応じて次のように言う:
 (a)iripa-amuspe 1歳
 (b)riya-amuspe 2歳
 (c)riyanga 3、4歳
 (d)poroh 成体
 (e)pine-poroh 雄の成体
 (f)mahne-poroh 雌の成体 
(12)amuspe アムㇱペ [<? am-us-pe‘爪・ついている・もの’]  ⦅多来加、白浦⦆ アゴヒゲアザラシの一歳仔⦅多来加⦆、アゴヒゲアザラシの二歳の幼獣⦅白浦⦆ 
(参照)‘amuspeg’⦅――Klaproth,p.312⦆:‘アムシペ’⦅「知床日誌⦆。尚、オロッコ語でもアゴヒゲアザラシの当歳の幼獣をamuspeと言う。 
(13)iripa-amuspe イリパアムㇱペ [<iri(<ir(ひとつづきの)-pa(年)-amuspe(アゴヒゲアザラシの幼獣)] ⦅白浦⦆ アゴヒゲアザラシの当歳仔
(14)riya-amuspe リヤアムㇱペ [<riya(越年した)amuspe(幼獣)] ⦅白浦⦆ アゴヒゲアザラシの二歳仔
(15)riyanka リヤンカ [<riya(冬を越した)-nka(ギリヤーク語<ŋa‘獣’)] ⦅新問、白浦⦆ アゴヒゲアザラシの前年春生まれた二歳仔⦅新問⦆。同上三、四歳獣⦅白浦⦆〔ギリヤークやオロッコも同じ名で呼ぶ〕
(16)ciyanka チヤンカ [<riyanka→(15)] ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシの二、三、四歳のもの
(17)sinepa-ciyanka シネパチヤンカ [<一年・仔] ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシの二歳仔
(18)tupa-ciyanka トゥパチヤンカ [<二年・仔] ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシの三歳獣
(19)tepa-ciyanka テパチヤンカ [<三年・仔] ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシの四歳獣
(20)kisina キシナ ⦅多来加⦆ アゴヒゲアザラシの成牝の子なきもの
(21)kicina キチナ [=kisina(20)]
(22)pakuy パクイ   ⦅多来加、白浦⦆ ゴマフアザラシの成体 
 注1.――西海岸のタラントマリでpahuy[’paːhuj]といったものがある。オロッコ語でもゴマフアザラシの成体を[’paːuj]と言う。
 注2.――タライカでは年齢の差に応じて次のように区別して言う:
 (a)konuspe 生後一か月までの幼獣
 (b)pompe 一歳
 (c)sinepa-ciya-tukar[‘一年・越冬した・アザラシ’]二歳
 (d)tupa-ciya-tukar[‘二年・越冬した・アザラシ’]三歳
 (e)pakuy 四歳以上
 注3.――白浦では次のように言う:
 (a)konospe 生後一か月位までの幼獣
 (b)iripa-pompe 一歳
 (c)riya-pompe 二歳
 (d)riya-tukara 三歳
 (e)pakuy 成体 
(23)pompe ポンペ [<pon(小さい)-pe(もの)] ⦅多来加・白浦⦆ ゴマフアザラシの当歳仔⦅多来加⦆;同二、三歳獣⦅白浦⦆
(24)iripa-pompe イリパポンペ [<iri(<irひとつづき)-pa(年)pompe] ⦅白浦⦆ ゴマフアザラシの当歳仔
(25)riya-pompe リヤポンペ [<‘越年した・ゴマフアザラシの仔’] ⦅白浦⦆ ゴマフアザラシの二歳仔
(26)konuspe コヌㇱペ [<kon-us-pe‘うぶ毛・ついている・もの’] ⦅多来加、新問⦆ ゴマフアザラシ及びフイリアザラシの生後一か月位までの幼獣⦅多来加⦆Cf.うぶ毛が生え変わってしまったものをponipiruh[<pon-ipiru-p 小さい・毛変わりした・もの]と言う⦅新問⦆
(27)konospe コノㇱペ [<konuspe→(26)=konuspe] ⦅白浦⦆
(28)riya-tukara リヤトゥカラ [‘越年した・アザラシ’] ⦅白浦⦆ ゴマフアザラシの三歳仔
(29)sinepa-ciya-tukar シネパチヤトゥカㇻ [‘一年・越年した・アザラシ’] ⦅多来加⦆ ゴマフアザラシの二歳仔
(30)tupaciya-tukar トゥパチヤトゥカㇻ [‘二年・越年した・アザラシ’] ⦅多来加⦆ ゴマフアザラシの三歳仔
(31)konkori コンコリ   ⦅多来加⦆ フイリアザラシの成体 
 注.――この地方では次のように区別して言う:
 (a)konkori-konuspe 当歳仔
 (b)sinepa-ciya-konkori 二歳仔
 (c)tupa-ciya-konkori 三歳仔
 (d)konkori 成体[mata-kamuy‘冬・アザラシ’とも言う] 
(32)onne-kamuy オンネカムイ [‘老大な・神’]  ⦅白浦⦆ フイリアザラシの成体 
 注1.――この地方では次のように区別して言う:
 (a)konospe 生まれたばかり(生後一か月ぐらい)の幼獣
 (b)iripa-onnekamuy 一歳
 (c)riya-onnekamuy 二歳
 (d)repa-riya-onnekamuy 三歳
 (e)onne-kamuy 成体
 注2.――多来加ではオットセイをonne-kamuyと呼ぶ。 
(33)konkori-konuspe コンコリコヌㇱペ ⦅多来加⦆ →(31),注(a)
(34)sinepa-ciya-konkori シネパチヤコンコリ ⦅多来加⦆ →(31),注(b)
(35)iripa-onnekamuy イリパオンネカムイ ⦅白浦⦆ →(32),注(b)
(36)riya-onnekamuy リヤオンネカムイ ⦅白浦⦆ →(32),注(c)
(37)repa-riya-onnekamuy レパリヤオンネカムイ ⦅白浦⦆ →(32),注(d)
(38)urikka ウリッカ   ⦅多来加⦆ クラカケアザラシ(リボンアザラシ)(Histriophoca fasciata Zimmermann)の成体 
 注.――この地方では次のように区別して言う:
 (a)urikka-konuspe 一歳
 (b)sinepa-urikka 二歳
 (c)tupa-urikka 三歳
 (d)urikka 成体[cahse又はcahse-kamuyとも]
 (e)kuto-urikka 雄の成体
 (f)matne-urikka 雌の成体 
(39)urikka-konuspe ウリッカコヌㇱペ ⦅多来加⦆ →(38),注(a)
(40)sinepa-urikka シネパウリッカ ⦅多来加⦆ →(38),注(b)
(41)tupa-urikka トゥパウリッカ ⦅多来加⦆ →(38),注(c)
(42)kuto-urikka クトウリッカ ⦅多来加⦆ →(38),注(e)
(43)matne-urikka マッネウリッカ ⦅多来加⦆ →(38),注(f)
(44)uriska ウリㇱカ [<urikka]  ⦅白浦⦆ クラカケアザラシの成体 
 注.――この地方では次のように区別して言う:
 (a)iripa-uriska 当歳
 (b)riya-uriska 二歳
 (c)repa-riya-uriska 三歳
 (d)uriska 成体 
(45)iripa-uriska イリパウリㇱカ ⦅白浦⦆ →(44),注(a)
(46)riya-uriska リヤウリㇱカ ⦅白浦⦆ →(44),注(b)
(47)repa-riya-uriska レパリヤウリㇱカ ⦅白浦⦆ →(44),注(c)
(48)numari ヌマリ [<? numa-riten‘毛・やわらかな’] ⦅真岡⦆ ゴマフアサザラシ及びフイリアザラシの幼獣=konuspe[『もしおぐさ』にタヌキとある]
(49)iripa-pon-pakuy イリパポンパクイ ⦅真岡⦆ numariの毛変わりした(ipiru)もの
(50)   以上の他に、北海道においても各種について名称を区別したらしい。古い文献には次のようなさまざまな名称が見える:
 (a)‘ヘカトロマウシ’[『知床日誌』に‘又ヘケレと云又レタレと云’とあり、pekerもretarも「白い」という語であるから、これは白色のアザラシである。現に『もしおぐさ』には‘白ふ’とあり、『えぞごせん』にも‘レタルツカリ’という語をあげ‘しらこ’と注している。ゴマフアザラシの類か?]
 (b)‘レタルツカリ’(『もしおぐさ』『えぞごせん』)<retar-tukar[‘白い・アザラシ’]→(a)
 (c)‘ヘケレ’(『しれとこにっし』)<peker-tukar[‘白い・アザラシ’]→(a)
 (d)‘ヘケッポコマ’‘子水豹’(『もしおぐさ』)
 (e)‘ホキリ’‘またヤイツカリと云’(『しれとこにっし』)‘フッキリ’(『えぞしゅうい』)‘ポキリ’(『もしおぐさ』)[『えぞごせん』に‘ヤイツカリ’‘まだら’とあり、『もしおぐさ』には‘毛白く黒ふ’とある。ゴマフアザラシを云うか?]
 (f)‘ヤイツカリ’‘まだら’(『えぞごせん』)<yay-tukar[‘ふつうの・アザラシ’]→(e)
 (g)‘ケシヨー’‘小字皮’(『もしおぐさ』)<kes-o[‘斑紋・ついている’]〔フイリアザラシ?〕
 (h)‘ニクイ’(『もしおぐさ』)
 (i)‘ルヲー’(『もしおぐさ』)‘ルヲゝ’(『しれとこにっし』)<ru-o[‘縞・ついている’]クラカケアザラシか?
 (j)‘シブイ’(『しれとこにっし』)
 (k)‘タシユンブイコロ’<tas-un-puy-kor[‘呼気・の・孔・もつ’‘噴気孔を有する’]
 (l)‘シツカリ’‘鼈甲的’(『もしおぐさ』)[『しれとこにっし』に‘其品多しといへどもシトカラ(鼈甲皮)を以て第一とし’とある。si-tukarは‘大きな・アザラシ’の意である。アザラシの仲間で最大形で、かつ皮革が最良のものと言えば、アゴヒゲアザラシであろうか?]
 (m)‘ウフイツカリ’(『しれとこにっし』) 








