動物編 §289 シカ
(1)yuk ユク [→§277(2)注] ⦅北海道⦆
注1.――この語は、いま、もっぱらシカの意に用いられるが、もとはもっと意味がひろく、狩のえものの中でその肉が食料として重要であったクマ・シカ・エゾタヌキ等のどれをもさす名称であった[→§277(2)注]。
注2.――千島でシカをyukと呼んだらしい(→Torii,p.150)
注3.――yukは総称だが、年齢や性別に応じた特別の名称もある。たとえば足寄では次のように言う;
poy-yuk 1歳
riya-poy-yuk 2歳の雌
riyaw 2歳の雄
tu-pa-riya-yuk 3歳
pinneraw 3歳の雄
momampe 3歳以上の雌
re-pa-pon-apka 4歳の雄
apka 5歳以上の雄
また美幌では次のように言う:
poy-yuk 1歳
riyaw 2歳
rehawnep 3歳の雄
apka 4歳の雄
si-apka 5歳以上の雄
momampe 3歳以上の雌
(2)yuk-cikoykip ユクチコイキプ [→§277(2)注] ⦅北海道⦆ 【雅】
(3)apka アプカ ⦅北海道⦆ 成体の雄
(4)si(y)apka シアプカ [si-は‘大なる’の意] ⦅北海道⦆ 老大なる雄鹿
(5)momampe モマンペ ⦅北海道⦆ 成体の雌
(6)poyyuk ポイユク [<pon(小さい)yuk(シカ)] ⦅北海道⦆ シカの子
注.――nokan-yukとも言う《幌別》
(7)ponnumakirawkorpe ポンヌマキラウコロペ [<pon(小さい)numa(毛)kiraw(つの)kor(もつ)-pe(もの)] ⦅屈斜路⦆ つのの生えかけた2歳の雄
(8)sukenetkorpe スケネッコロペ [<suke-nit(鍋をつるすかぎ)kor(もつ)-pe(もの)] ⦅屈斜路⦆ 3歳の雄(つのが二又になっていて鍋をつるすかぎみたいになっているからこの名がある)
(9)pinneraw ピンネラウ [<pinne(雄の)re-aw(3つ・又)] ⦅北海道⦆ 若い雄鹿
(10)riyaw リヤウ [<riya-p(越年した・もの)] ⦅足寄⦆ 2歳の雄
(11)rehawnep レハウネプ [<re-aw-ne-p(3つ・また・になっている・もの)] ⦅美幌⦆ 3歳の雄鹿(=pinneraw)
(12)toyeranranup トイェランラヌプ ⦅足寄、美幌⦆ シカの一種(つのが大きく、その先端がへら状になっていて、気が荒く、犬をも殺す)
(13)maturmip マトゥルミプ [<mat-ur-mi-p(女・衣・着ている・もの)] ⦅美幌⦆ 雄でありながら皮に雌鹿のそれのような模様のついているシカ
(14)okurmip オクルミプ [<oku-ur-mi-p(男・衣・着てる・もの)] ⦅美幌⦆ 雌鹿でありながらその皮に雄鹿のそれのような模様のついているもの。
補注――千島ではロシア語をとって‘oren’ともよんだらしい(Torii,p.150)