植物編 §079 ヤチダモ Fraxinus mandshurica Rupr.
(1)pin-ni ピンニ [pir(傷)ni(木)] 茎 ⦅北海道、樺太⦆
注1.――語源ははっきりしないが、この木の皮は後に説くように入れ墨の際傷を洗う薬液をつくるのに用いられているので、あるいはpin-niはpir-ni「傷・木」だったかもしれない。またこの木は割れやすいので、割って薪や器具器材をつくるのに盛んに用いられるところを見ると、あるいはpinni<pen-ni<per-ni「割れ・木」だったかもしれない。そのほかに、この木は世界で二番目に作られ、森の中では一番背が高いので、ピンニすなわち男の木と呼ばれたとする説もある(コタン生物記)。「ヤチダモをpinni(男性の木)と言っているが、これは真っすぐに喬木に成長するからである」とも説かれている(宮部金吾「アイヌ植物名に就いて」)。しかしながら、ピンニはそのままでは男の木の意味にはならない。男の木ならピンネニpinne-niでなければならぬ。
(2)pinni-yar ピンニヤル [ヤチダモの裂片] ヤチダモからはぎ取った樹皮 ⦅美幌⦆
(3)yaci-tunni ヤチトゥンニ [湿地の・カシワ] 茎(湿地に生えている小さいやせたヤチダモ) ⦅真岡⦆
(参考)この木の割材で子グマを飼う檻(eper-set)や高倉(pu)や川を上るサケを取る梁(やな tes)をつくる。またそれを薪にもする(美幌、屈斜路)。また舟や櫂をつくる(名寄、樺太)。この皮を入れ墨をする際傷口を洗う薬液をつくるに用いる(→p.48)。底豆の治療にはこの木を焼いて灰を取りその灰を器物に入れて湯を注ぎ微温湯をつくって患部を浸すと早く口がつく(H)。