植物編 §102 ミズキ Cornus controversa Hemsl.
(1)utukanni ウトゥカンニ 茎 ⦅北海道各地⦆
(2)utukani ウトゥカニ 茎 ⦅長万部、幌別、穂別⦆
注1.――幌別ではutukani、utukanni、いずれも通る。
(3)inawnani イナウナニ [inaw(木幣)na(切る)ni(木)] 茎 ⦅礼文華⦆
(4)inawnini イナウニニ [inawni(木幣の木)ni(木)] 茎 ⦅長万部⦆
注2.――「木幣の材をとる木」の義。長万部ではミズキをutukaniともinawniniともいう。
注3.――北見国紋別郡にイナウニ・ウシ・ペッ「木幣樹・多くある・川」なる地名あり、永田翁の注に“「イナウニ」又「ウトゥカンニ」ト云フ”とある(C,p.446)。かの地では「イナウニ」というだけでミズキを意味したらしい。
(参考)この木は、木幣の材として、キハダに次いで重要な木である。天国では、キハダは金で、ミズキは銀で、ハンノキは銅だと言われ、ミズキで作った幣は天国へ行くと銀の幣になると考えられている。
幣は普通ヤナギで作るが、神に特に敬意を表する場合にはミズキで作る。
例えば、鮭を獲った場合、その頭を叩いて殺す打頭棒――「イサパキクニ」[i(それの)sapa(頭)kik(叩く)ni(木)](幌別)、「イパキクニ」[i(それの)pa(頭)kik(叩く)ni (木)](美幌)、「イサパタニ」[i(それの)sapa(頭)ta(打つ)ni(木)](白浦)、――これは直径3cm、長さ45cmくらいの棒で、川漁に歩く際は必ずこれを携行し、鮭を獲ったら一本一本これで頭を叩いて殺すのであるが、その際
イナウ・コル inaw kor (木幣を持て)!
イナウ・コル inaw kor (木幣を持て)!
と唱えながら叩く。これによって、打頭棒は神へ捧げるイナウと考えられていることが分かる。鮭はこのイナウを土産にもらって初めて天国へ大手を振って帰ることができるのである。だから有り合わせの石塊や木幣で頭を叩けば魚の神が怒ってもう二度と魚を与えぬと信じて、この打頭棒は特に大切に扱われ、漁期ごとに新しいのを作って用い、用がすめば戸外の幣場に置いて「イワクテ」iwakte[帰らせる、その霊を本国に帰らせる]するのである。
この打頭棒を普通はヤナギで作るが、古い人は特にミズキで作る。ミズキで作れば銀の幣を捧げることになり神に喜ばれるからである。なお、打頭棒については§206、注3参照。