植物編 §211 ハマナシ(ハマナス) Rosa rugosa Thunb.
(1)maw マウ 果実 ⦅北海道⦆
(2)maw-ni マウニ [上記果実のなる木] 茎 ⦅北海道、樺太⦆
(3)otarop オタロプ [ota(砂浜)oro(の所)o(にある)p(もの)] 果実 ⦅名寄、多来加⦆
(4)otarop-ni オタロプニ [ハマナスの生ずる木] 茎 ⦅名寄、多来加⦆
(5)otaroh オタロホ [<otarop] 果実 ⦅真岡、鵜城⦆
(6)otaroh-ni オタロホニ [<otarop-ni] 茎 ⦅真岡、鵜城⦆
(7)otaruh オタルフ [<otarup <otarop] 果実 ⦅白浦⦆
注1.――北見国枝幸郡にオタルペンルムという地名があり、永田方正氏はota-rup(ハマナス)enrum(岬)と解し、枝幸アイヌハ玫瑰(マイカイ=ハマナス)ヲ「オタルプ」ト云フ沙路ノ物ト云フ義ナリ、と付記している(C、p.443)。
(8)otaruh-ni オタルフニ 茎 ⦅白浦⦆
注2.――その他に、金田一博士によると、ハマナスをmasar-orunpeともいうそうである(虎杖丸の曲、p.757、脚注3)。場所は示されていないが、沙流ででもそういうのであろうか。
(参考)果実を割って、中の「マウピイェ」maw-piye“ハマナスの果実・の種子”を除き、熟したのはそのまま生食し、未熟のものは茹でて魚油をつけて食べた(幌別)。
この果実を多量に採集し、種子を去って、肉質部だけを乾かして貯えておき、クマ祭りの時、それを出して来て煮て搗き、油を入れてかきまわしてどろどろのものを作り、それを場内にまいたり、いやがる参会者を追っかけて顔に塗り付けたりした。それを「マウチョッケプ」maw-cokkep“ハマナス練り”と言った(斜里)。
この果実をクロユリの鱗茎と一緒にどろどろになるまで煮て、木鉢の中に入れて、すりこぎで潰し、アザラシの油を混ぜて食べた(白浦)。
コタンの子供らは、この果実を糸に通して数珠状のものを作り、それを「マウタマサイ」maw-tamasay“ハマナス・みすまる”と言った(幌別)。
この木を削って、その削り花の綿を煎じてお茶に飲んだ(白浦)。
この木の「ロチ」roci“こまかな削り花の綿”をわれわれがタオルを使ってするように、温湿布に用いた(白浦)。
悪疫流行の際は、戸口にイケマの根やギョウジャニンニクの葉にこの木の枝と木幣を添えて立てた(幌別)。
この木の根――「マウニシンリチ」mawni-sinrici“ハマナスの木・の根”は、いれずみの時の浸出液を作るに用いた(§80、参考の部、参照)。