植物編 §313 オニグルミ Juglans mandshurica Maxim. var. Sieboldiana Makino
(1)nesko ネシコ 茎 ⦅長万部、幌別、穂別、千歳⦆⦅A十勝・沙流・石狩・有珠⦆
(3)ninum ニヌム [ni(木)num(実)] 果実 ⦅北海道全地⦆
(4)ninum-ni ニヌム・ニ [クルミの・木] 茎 ⦅A十勝⦆
(5)ninum-cikuni ニヌム・チクニ [クルミの・木] 茎 ⦅穂別⦆
(参考)果実は秋に多量に採集して貯えておき、冬になってからそれを炉の中に並べてたき火にあぶり、「核」(「ニヌム・カプ」ninum-kap[クルミ・皮]、「ニヌム・セイ」ninum-sey[クルミ・殻])が自然に口を開くのを待って、刃物でこじ開けて中にある「胚」(幌別「ニヌム・イペ」ninum-ipe[クルミの・身]、美幌「ニトル」nitor)を取って食べた。割って胚を食べた後の殻は、鮭皮をどろどろに煮て作った糊(「ヌンペ」「ヌペ」numpe、nupe)で食膳の裏面の四隅に貼りつけて脚にしたりした。この樹皮は、また染料にも用いた。例えば、イラクサやニレ皮の繊維を黒く染めるには、この樹皮を煎じて得た黒色の汁に二、三日浸した後、鉄分の多い沼の水、それを「イクンネレ・ペチリ」i(物を)kunne-re(黒く・する)pecir(水)というが、それの中に漬けておく(幌別)。また、それでノリウツギで作ったパイプを染めた(屈斜路)。
また、この樹皮や外果皮を突き砕いて川に流し、それで魚を取る毒流しの漁法もあったらしく、神話の中にその反映が見られる。すなわち、悪魔が水源にクルミの梁杭を打つと、クルミの濁った水が流れ出て、鮭どもがその水に中毒して(nesko-wakka ko-wen[クルミの水・に・当たる])浮いて流れる話があり(知里幸恵、アイヌ神謡集、第10話)、また悪魔の子がクルミの小弓にクルミの小矢をつがえて水源を射ると、クルミの濁った水が流れ出し、せっかく上って来た鮭どもがそれに中毒して流れ下る話がある(アイヌ神謡集、第11話)。
北海道の北東部(天塩、北見、釧路)では、熊祭りの際必ず「クルミまき」(「ウコニヌムチャリ」ukoninumcari[u 互い、ko に、ninum クルミ、cari まき散らす])ということをする。お祭りなど、人だかりの所へは魔神たちも寄って来るので、それを遠ざけるためにするのだという。こういうクルミは、拾っても家の中へ持ち込むものではない。魔神にやったものだから、それを持って入れば魔神もついて入るというのである。
美幌では、ヘビに捧げる幣だけをこの木で作った。また足寄では、オオカミ神に捧げる幣をこの木で作った。なお、名寄では、春先この「樹液」(ni-wakka)を取って飲んだ。