植物編 §318 デロ ドロノキ Populus Maximowiczii Henry
(1)yay-ni ヤイ・ニ [ただの・木] 茎 ⦅長万部、幌別、穂別、沙流、千歳⦆⦅A沙流・鵡川・千歳・有珠⦆
注1.――造化の神がこの木で火を作ろうとしたが、だめだった。それで“ただの木”という。→§1、§298。
(2)cis-ni チシ・ニ [cis(<cip 舟)ni(木)] 茎 ⦅白浦、新問⦆
(3)kuruni クル・ニ [<kurunni] 茎 ⦅美幌⦆⦅F樺太⦆
(4)kurunni クルンニ [→下記注2] 茎 ⦅足寄⦆⦅A十勝・石狩⦆
注2.――あるいはkur(魔)-un(住む)-ni(木)の義か。流行病をもたらす魔神たちはこの木から生まれ、そしてそれは火の神の兄姉に当たるので、伝染病の流行する際は、絶対にこの木を火にくべぬという信仰がある(→§298)。
注3.――kurの意味について、ついでに少し説明しておこう。
kurは、kamuyと同じく、古くは、魔の意味をもつ。例えば
kuremik[kur(魔)-e(に)-mik(吠える)]“犬が虚に吠える”
kurkotunasi[kur(魔)ko(に)tunas(早い)]“魔が憑きやすい”
などの用例がある。次に、神の意をもつ。
nupuri-kor-kur[nupuri(山)-kor(持つ)-kur(神)]“熊”
tuserikinkur[tus(綱)-e(で)rikin(登る)-kur(神)]“クモ”
等、神名につく-kurは皆これだ。神謡の主人公アイヌラックルなども、
aynurakkur[aynu(人間)rak(臭い)kur(神)]
の義である。それから、「神のように尊い人」「貴人」の意になる。
kotankorkur[kotan(村)kor(持つ)kur(貴人)]“酋長”
異人をさすkurもこれである。
kurmat[kur(貴人、=異人)mat(女)]“日本婦人”
千島を古くクルムセと言ったのも、おそらくkur(異人の)-mosir(島)の義であろう。
(5)petorun-kuruni ペトルン・クルニ [pet(川)or(の中)un(にある)kurunni(魔の木?)] 茎 ⦅屈斜路⦆
注4.――ここではヤマナラシをkurunniと言っているので、それと区別するために「川の」という限定詞をつけた。
(6)ramu-kapara ラム・カパラ [ramu(その皮?)kapara(薄い)] 茎 ⦅新問⦆
注5.――植物誌(E、p.431)に『タムカパラニー』(樺太アイヌ名)とある。tamu(<ramu)-kapara-niである。
(7)『オコチニー』 ⦅樺太――E、p.431⦆
(参考)この木で舟を作った(白浦、新問)。