植物編 §336 ギョウジャニンニク Allium Victorialis L.var. platyphyllum Makino
(1)pukusa プクサ 茎葉 ⦅長万部、虻田、有珠、室蘭、幌別、白老、穂別、鵡川、沙流⦆
(2)mukusa ムクサ 茎葉 ⦅美幌⦆
(3)kito キト [<日本語“祈祷びる”] 茎葉 ⦅北海道北東部及び全樺太⦆
(4)huraruykina フラルイキナ [hura(におい)ruy(はげしい)kina(草)] 茎葉 ⦅A⦆
注.――以上のほか、辞書にnupeなる語を掲げ「ギョウジャニンニク」(Allium Victorialis L.)としている。蝦夷語地名解の沙流郡のところ(p.236)に、「ヌペ」ハ韮ノ一種土人其根ヲ食ス、とある。←補注(28)。
(参考)若い茎葉を汁の実にした。また「トゥネプクサ」(tune-pukusa)と言って、葉を去って茎だけ塩ゆでにして汁をしたみ、油であえて食うのが一つの御馳走であった。茎を細かく刻んで乾かしてカマスに詰めておき、冬にご飯に炊き込んで油をつけて食べたり、風邪・肺病その他の熱病に煎じて飲んだりした。葉はやはり乾かしてカマスに詰めておき、冬お汁の実にした。樺太では、若い茎を取って来て、丸く結んで焼いて油を付けて食った。また、刻んで乾かして、冬に米と混ぜてご飯に炊き、それにエゾエンゴサクの塊茎とアザラシまたはニシンの油を混ぜて、かき回して食った。エゾエンゴサクの塊茎はあらかじめ煮て乾かしてあるので、使う時はただお湯の中へ漬けておくだけでいいのである。また、若い茎を6cmくらいに切って2升炊きくらいの鍋にいっぱい入れ、それにアザラシ油と水とを飯茶わんに各一杯ぐらい注いで、どろどろになるまで煮て食うのも一つの御馳走であった。なお、この植物は、猛烈な臭気を有するので、病魔が近づかぬとアイヌは信じて、伝染病流行の際は、家の戸口や窓口に吊るしたり、枕の中に詰めたりしたほかに、ほとんどあらゆる病気に用いた。例えば、肺病・肋膜炎・風邪・脚気・腎臓・食傷・下痢等には、これを煎じて飲んだり、また火傷・凍傷・痔・子宮病・消渇・打身・いんきんたむし等には、この煎汁で患部を洗浄したり、罨法したりした。
美幌では茎葉を刻んで乾かして貯えておき、濃霧が降りた時、kamuy payekay kusu[流行病の神々が渡って来たから]mukusa retaskep hoka o wa hura atte[ギョウジャニンニクを火にくべてにおいをあげろ]と言って、盛んに燃やしたという。