植物編 §342 クロユリ 黒百合 Fritillaria kamtschatcensis Ker-Gawl.
(1)anrakor アンラコル [an(黒い)ra(葉)kor(もつ)] 鱗茎 ⦅幌別、穂別、名寄、美幌⦆⦅A沙流・鵡川・空知・千歳⦆⦅D屈斜路⦆
(2)hantakor ハンタコル [<anrakor] 鱗茎 ⦅美幌、屈斜路、塘路⦆
(3)hantakor-apappo ハンタコラパッポ [apappo(花)] 花 ⦅阿寒⦆
(4)hah ハハ [<hap] 鱗茎 ⦅白浦、真岡、鵜城⦆
(5)hapepuy ハペプイ [hap(クロユリ)epuy(頭)] 花 ⦅白浦、真岡⦆
(6)“oci-aius” オチアイウシ ⦅A石狩国上川郡⦆
(7)『シラコル』 ⦅藻汐草⦆
(8) [haru(食糧)] ⦅藻汐草――厚岸⦆
注1.――anrokorがウスバサイシンをさすことがあり(→§290)、またオオウバユリをさすこともある(→§338)。
(参考)鱗茎をうでて油をつけて食べたり、「アンラコルメシ」(anrakor-mesi クロユリ・飯)を炊いて食べたりした(美幌)。樺太ではこの鱗茎を採集して、まず鱗茎の周囲の鱗片をばらばらにして干す。するとこれらは米粒ほどになる。また中心の大きい部分は糸を通して数珠状につないで干す。いずれも貯えておいて冬季の料理の材料にする。その料理の作り方は、まず「チエトイ」(ci-e-toy 食用粘土)を水に溶かしてその水でこの鱗茎を煮て、煮えたら上げて「オトカ」(otoka 深鉢)に入れ、油を入れ、「イネナハ」(inenah すりこぎ)でよく潰して、さらに食用粘土の水を少し入れてゆるめ、コケモモの果実を入れて木さじで静かにかきまわす。この果実は10月ころ採集して箱に入れて冬まで貯えておき、使うときは取り出して凍っているのをとかして使うのである(白浦)。この葉の汁を絞っていれずみの染料にも用いたという(屋代周二、樺太アイヌの研究、p.26)。
厚岸付近のアイヌは物を黒色に染めるのにこの花を用いたという(河野広道、アイヌの織物染色法、蝦夷往来第3号所載、p.71)。