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アイヌの物語
アイヌ民族博物館
北原次郎太
 アイヌの物語の中には、登場するキャラクターや語り方などいろいろなものがあります。物語の多くは『吾輩は猫である』のように主人公の目線で語られ、主人公が自ら経験したことを語り残す形になっています。話の中で描かれているのは、だいたい江戸時代かそれよりも前の暮らしと考え方です。こうした考え方や教訓は、実際の暮らしの参考となるものもあり、現代まで受け継がれているものもあります。といっても、物語の内容が全て実生活を映しているというわけではありません。物語によっては、アクション映画のように主人公が大暴れするのを楽しむものもありますが、現実の暮らしでそんなことをしてはいけないのは当たり前です。
人間の物語

 ふつうの人間が主人公となる話で、いわば「常識にそった世界」が描かれます。ふつうの人間だからこそ経験する楽しみや悲しみ、人とはどう生きるべきかといったことが豊かに描かれています。聞く人は、物語をとおして、歴史や動植物など自然の利用のしかた、登場人物の行動が「いいか悪いか」「どうすればよかったのか」など、ふだんの生活に必要な道徳を身につけることができます。
英雄の物語

 超人的な力をもった人間たちが登場して、ふつうでは考えられないような大活躍をする物語です。文学研究の世界では伝統的に「英雄」と呼んでいますが、あまり「正義のヒーロー」らしくはなく、もう少しやんちゃなイメージです。
 英雄の物語に出てくる人間たちは、強い神に守られており、空へ飛び上がったり、何年も戦い続けたり、死んだ人を生き返らせたりすることができます。また、普段はたいへんりっぱな家で、美しい着物を着て暮しています。教訓というよりも、こうした豪華な舞台設定や大冒険を楽しむ話です。
カムイの物語

 人間ではなく、神々が主人公となる話です。神様はアイヌ語でカムイと言います。カムイは1人だけではなく、動物や植物、火や水など自然界に宿る精霊の中で、とくに尊敬されているものをカムイと言います。カムイはほかの話にも出てきますが、カムイが主人公となる話ではとくに感情や個性が豊かです。えらいカムイばかりではなく、失敗をしたり、いたずらをして人間に懲らしめられることもあります。
 カムイと人間のお互いのあり方など教訓も語られますが、カムイどうしの恋愛を描いた話もあります。
メロディつきの語り

 物語の語り方には、メロディをつけるものとつけないものがあります。メロディをつける語りは、さらに2つに分かれ、「サケヘ」「サハ」などと呼ぶ決まった言葉が繰り返しつくものと、そうでないものがあります。
 カムイの物語は、メロディをつけて語ることが多く、主人公となるカムイによって「リットゥンナ」「カオリ」「ヨイヤセ」などの決まった言葉を繰り返して、合い間に本文を入れるのがふつうです。繰り返しの言葉は長いものや短いものがあり、話ごとに違ったメロディをつけます。
 英雄の物語は、繰り返し言葉をいれずに、メロディにのせて語るのが普通です。英雄の物語は、それを演じる人がそれぞれ自分のメロディを持っていて、どんな話でも自分のメロディにのせて語ります。ひとりの人が早いものやゆっくりしたものなど2、3種類のメロディを持っているのがふつうで、それを組み合わせて変化をつけます。聞いている人も、ちょうどいいところで「ホッ!」、「フ!」などと合いの手を入れて、語りを盛り上げます。
 メロディをつけるときの文章は、ふだん話すときの言葉とは少しちがいます。特別な言い方でたくさんの短い文章にまとめられていて、どんなメロディにも合わせられるように工夫されています。そういう文章をたくさん知っていると、同じ話を長くくわしく語ったり、かんたんにあらすじだけ語ったりということが自在にできるようになります。
メロディなしの語り

 メロディをつけずに語りますが、ふだんの口調とは少し違い、やや平板な語り方になります。十勝地方では、聞き手が「フーン!」と合いの手を入れます。
 人間の物語を語るときには、メロディをつけない語り方をするのがふつうです。また、もともとメロディがついていた話を、このように語ることもあります。とくに英雄の物語は、旭川や釧路、日高など多くの地方で「女性はメロディをつけない」という習慣がありました。ですから、女性が語るときには、わざとメロディをつけない語り方にしました。
歌

 歌にはいろいろなものがあります。子守唄や仕事をしながら歌うもの、踊りの歌、自分の気持ちや思い出をもとに、その場で作って歌う歌などもあります。
 お祝いや人が集まったときに、数人で歌う歌を「ウポポ」や「リセ」、ヘチリと言います。輪唱でごく短いフレーズを繰り返して歌うもので、歌の内容よりも声の使い方、メロディの変化を楽しむものです。わざと声をふるわせたり、ひっくりかえしたりと、西洋の音楽ではあまり好まれない発声を自在に使えることが、歌が「うまい」ということになります。
楽器

 アイヌの楽器として知られているのは植物を使った笛やムック、トンコリなどです。
ムックは、竹や鉄などを使って出した音を口の中で共鳴させて大きく響かせる楽器です。同じ仕組みの楽器が世界中に広く見られます(→「ムックリ演奏教室」)。
 トンコリは木をくりぬいた長い胴に弦を張った楽器で、両手の指で弾きます(→「トンコリなんでもQ&A」)。
 このほかカチョ「太鼓」やレラスイェ「うなり板」など、占いやまじないを行うときだけに使うものもあります。
 音楽や楽器はずっと同じものばかりではなく、時代とともに変化します。15〜16世紀に日本に伝わった三味線は、それから間もなく、出稼ぎ人などによって北海道にも持ち込まれたことでしょう。江戸時代の後期には松前などで三味線を弾く人の絵が描かれますが、おそらくアイヌにも取り入れられたことでしょう。また、千島列島にはロシアのバラライカを取り入れた「パラライキ」という楽器がありましたし、厚岸には日本の神楽が伝わり「アイヌ神楽」と呼ばれるものがおこなわれました。
 明治時代からあとは、さまざまな西洋の楽器も取り入れられました。現在では電子楽器を取り入れたり、トンコリを電子楽器にして演奏する人、コンピューターで作曲する人など様々な音楽活動がおこなわれています。


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