日当りの良い場所に生えるスイカズラ科の低木で、独特の香りがします。
アイヌ文化では、この木の香りに魔をはらう力があると考えています。薬用としては樹皮を風邪などに煎じて飲む、打ち身に湿布をするなどします。また祭具としてこの木から木幣を作る地域もあり、樺太では子供のお守り人形を作ります。道北地方ではこの木で墓標を作ります。
当館の採録資料では、日高地方でお葬式のときにこの木で死者に持たせるための副葬品を作ったとあります。同じ日高地方の口承文芸では、死に結びつくイメージのせいか、「不幸をもたらす木」という話が採録されています。
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エゾニワトコの芽吹き(5/10)
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エゾニワトコの花
アイヌ語辞典
アイヌの伝承
物語や歌など
妻の病気と屋根に生えた木
私はまことの長者だった。私の奥さんも働き者で、何不自由なく暮らしていた。ただ不足に思うのは子供がいないことだった。
あるとき、隣の川筋の村の村長の奥さんが病にかかり、ずっと寝たきりになっていて、お祈りをしてもよくならないという噂を聞いた。
いつかそこへ訪ねて行こうと思いながらいたが、あるとき出かける決意をして奥さんにそのことを言い、隣の川筋の村へ出かけた。夕方頃に、私は隣の川筋の村の真中の大きな家に到着した。
家の前で声を出すと、若い女が出てきてまた中に入り、「見知らぬ人が来ています」と言った。すると中で「招き入れなさい」という声がした。私は外で装束をとき、家の中に入った。
座の真中に座って見ると、私より年長の長者がいた。私たちは挨拶を交わした。私は長者の奥さんが病気であると聞いて訪ねてきたのだと言うと、長者は私に感謝し拝礼した。私はこの家に泊まり奥さんを見ると寝たきりの様子だった。若い女が炊事をして私たちは夕食をとり話をした。その夜、私は神窓の下に寝床を敷いてもらいそこで寝た。すると夢の中に神のような人が出てきてこのように言った。
「人間の長者、話すからよく聞きなさい。この家の奥さんが病気であるのは、家を建てたときにニワトコ(ソコニ)という木が屋根に生え、この家の奥さんの運が悪くなったからだ。神々が訪ねて来てもニワトコが生えているので、この家に立ち寄ることができない。
そのニワトコを抜き取って捨てると、この奥さんは生きのびることができるだろう。」
翌朝起きて夢で見たことを話すと村長は「屋根にニワトコがあるのを見ていたが何とも思わずにいた」と言った。家の外に出て見ると本当に大きなニワトコが生えていた。私は屋根に上がりニワトコを抜き取った。そしてそれを村の下手に捨てた。それから私たちは神に祈った。
家の奥さんの背中を打ちお祓いをして、ニ、三日すると家の奥さんは座って食事をするようになった。村長は「よその村の長者のおかげで私の奥さんは生きのびることができた」と言い私に感謝した。私は少しばかりの宝物を受け取り自分の家に帰った。家に帰って家の奥さんにも話をして聞かせた。
それからは隣の川筋の村の村長とも親しく往き来した。隣の川筋の村の村長にも子供が生まれ、私のところにも子供が生まれた。そして何不自由なく暮らした。そして、「家の上に木を生やさないようにしなさい」と子供たちに言い聞かせた。そして私は年老いた、と隣の川筋の人だかが物語った。