アイヌと自然デジタル図鑑

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アイヌ語辞典

動物編 §067 サケ あきあじ、あきやじ

 名称について
 cep(チェプ)[ci-e-p(われら・食う・もの)]⦅北海道・樺太一般⦆合成語や慣用句の中ではcepは魚

(1)cep チェプ ⦅虻田幌別白老⦆  鮭 uben-cep 生魚、sat-cep 松前志200 chep ハ chiep
 海の民資料 chepeniste (セ179)
       chepchikoikip(セイ 5)
 ――『松前志』に“夷方これ(=鮭)をチエフと云は、唯魚と云こころなれども、此魚を魚中の真魚と云意にてかく呼べるなり”とある。
 ciepとcep
 探訪随筆 131、132ペ

(2)cep-po チェッポ ⦅美幌⦆ 1)魚の子 2)小魚

(3)ipe イペ ⦅北海道、樺太 一般⦆  「食事する」「食事」「食物」などの意味に日常に使われているが、合成語や成句の中では「魚」の意味をも表す。
 sak-ipe、cuk-ipe、matne-ipe、pinne-ipe、tanne-ipeなど。

(4)sipe シペ [<si(真)ipe(魚)] ⦅北海道、樺太⦆
 注.――どこでもサケの意に通じるが、所によって意味が少しずれている。ビV(41)、屈10、沙1(69)
 siipe
 “Saumon, autre espece”(クラ)
 sapakor satcep 普通ハ頭ツケヌ。
 sapakor sipe ハ kamui etokohv サコサヘテオキ熊送ル時 not poke サ入レテヤル
 礼文では今は普通kamuy-cepと言うが、昔はsipeと言ったと。

(5)sipe-kamuy シペカムイ ⦅白糠⦆ サケ
 タライカでは、日常語で単独にsipeを使えば雄の成魚をさす。
 ♂ sipe
 ♀ matte-sipe
 しかし合成語の中では一般に鮭の意に用いる。
 mattesipe-homa サケの筋子。

(6)sake サケ ⦅千島⦆

(7)si-cep シチェプ [si(真)cep(魚)] ⦅厚真、千島⦆ サケ

(8)sian-cep シアンチェプ [sian(真の)cep(魚)] ⦅斜里⦆ サケ

(9)kamuy-cep カムイチェプ [kamuy(神)cep(魚)] ⦅長万部虻田幌別様似浦河東静内旭川、その他各地⦆ サケの総称
 注1.――kamuy-cepは特別のサケをさすことがある。
 厚真では最初にとれたサケを言い、大きな木皿にのせて上座にすえておく(poro nima a-o wa ape-etok ta a-ante)
 注2.――穂別ではkamuy-cepというのは、atuy otta hererse kanne an-pe(海中できらきら光っているもの)を言うと。
 kamuy-cepというのはつまり‘神のもとへ行く魚’(kamuy oro o-arpa cep)の意に解している。
 屈斜路では口の曲がったサケや、背が2つにも3つにも折れたようになっている異体のサケをkamuy-cepという。こういうサケがとれると、頭をつけたまま、内臓だけとり、からからに干して幣をつけて大切に保存しておき、クマ祭のとき、みやげに持たせてやるのだと言って、祭壇におかれたクマの頭のアゴの下に入れる。
 白糠では川に最初にのぼってくるシロッケをkamuy-cepと言い、これはimekになる。それに対してブナッケをsipeという。
 美幌では海にいるシロッケ(ビホロIII, 26)あるいはkamuy-cepはあだ名でsipeが本名だという人もある。ウロコの光り方も模様も違い、並のサケより一回り大きいサケとも。
 多蘭泊では、最初に川に入って来たサケをkamuy-ceh(神魚)と言い、これはkamuy-eweicrah(神に捧げる魚)の義だというが、別に神にあげもしない。鮭汁を作って部落の古老を招く(henke ceh ohawe an-e-tah kara)だけだ。
 摩周湖のkamuy-cep
 「夕方湖面を眺望せしに岸を隔つ事十余丁にて、大さ箕の如き黒き頭を上て口を開けるが、頣中恰も丹朱を含る如く、夕陽に映ずるや金烏の東海に泛が如く、其光赫々として水に映ずるに、土人は少しも是に驚かずカモイチェッフ(神魚)と云り。此湖中此魚斗にて他の魚なしと。是何時より住るや知らず。時々頭を上る由。其小さき物岸に寄る事有と。」(久摺日誌)
 kamuy-cep ari ciokay ci-porse「神・魚と私どもは言います」⦅様似⦆

 季節による名称

(1)cuk-cep チュクチェプ [cuk(秋)cep(魚)] ⦅屈斜路長万部名寄多来加⦆ 秋とれる鮭
 多来加ではcukcepはサケの産卵後の老魚(ホッチャレ)をさす。cukcep-kap(鮭・皮)、この皮で脚絆や魚皮衣をつくる。
 注1.――a)サケの総称 b)秋のサケ(長) c)ブナ毛(ピウカI,3)
 注2.――siitchip "saumon"「鮭」⦅クラ⦆
 注3.――(B)にはchukchep, chukche, chutcheを挙げて“鮭 The autumn salmon.”としている。

(2)cuk-ipe チュキペ ⦅白老幌別⦆ サケ

(3)cuh-ceh チュフチェヘ [<cuk-cep] ⦅新問白浦落帆富内真岡鵜城

(4)mata-cep マタチェプ [mata(冬)cep(魚)] ⦅幌別⦆ 冬になって川へ入る鮭

(5)meorun-cep メオルンチェプ [me(寒気)orun(へ向かって入る)cep(魚)、‘寒い頃の魚’] ⦅屈斜路⦆ 正月、二月の寒い頃に川へ上ってくるサケ。口が赤く歯も生えていず、体色はまだ銀鱗ではあるが、ハシリのサケよりは幾分黒いと。

 海にいるときの名称 いわゆる白毛(シロケ、シロッケ)

(1)atuyorun-cep アトゥイオルンチェプ、アトゥヨルンチェプ [<atuy(海)or(中)un(にいる)cep(魚)] ⦅幌別⦆ 海にいるサケ。いわゆる白毛。

(2)cikap-ipe チカピペ [cikap(鳥)ipe(魚)] ⦅名寄⦆ 時期おくれに入ってくるシロッケ。
 注1.――ここでは次のような対立がある:
  cuk-cep  ブナッケ
  cikap-ipe 冬のシロッケ
 注2.――天塩川も河口から名寄市の内淵(ナイプチ)あたりまでくると秋のサケはすでにブナッケになっている。それでcuk-cepと言えばブナッケに決まっている。しかし時期おくれに入ってくるサケはここらでもまだ未成熟でウロコがピカピカして身も赤い。それをcikap-ipeと言うのだ。(=mata-cep)

(3)tetara-ceh テタラチェヘ [tetara(白い)ceh(魚)] ⦅真岡⦆ 銀鱗のサケ、いわゆるシロッケ

(4)eruype エルイペ [<eru(光る)ipe(魚)] ⦅常呂⦆ シロッケ

(5)herasnu-cep ヘラシヌチェプ [herasnu(光る)・cep(魚)] ⦅長万部⦆ シロッケ

(6)hererke-cep ヘレルケチェプ [hererke(光る)・cep(魚)] ⦅沙流⦆ シロッケ
 注.――“kane neno an hererke cep”〈金のように光る魚〉などという。(沙流)

(7)hererus-cep ヘレルシチェプ [hererus(光る)・cep(魚)] ⦅虻田幌別⦆ シロッケ

(8)heru-ram ヘルラム [heru(光る)ram(ウロコ)] ⦅幌別東静内⦆ シロッケ

 川に入ってからの名称
 川へ入り立てはまだ銀鱗だが、やがて婚姻色を呈してブナの木の肌の色――いわゆるブナケ(あるいはブナッケ)になる。

(1)petoruncep ペトルンチェプ [pet(川)or(中)un(にいる)cep(サケ)] ⦅幌別東静内⦆ 産卵のため川へ入って来たサケ

(2)upen-cep ウペンチェプ [upen(若い)cep(魚)] ⦅美幌⦆ 川へ入ったばかりの生きのいいサケ。これはまだ銀鱗(シロッケ)である。

(3)pewre-cep ペウレチェプ [pewre(若い)cep(魚)] ⦅長万部礼文虻田屈斜路⦆ 走りのサケ

(4)pewrep ペウレプ [<pewre(若い)-p(もの)] ⦅長万部⦆ ハシリのサケ

(5)asit-cep アシッチェプ [<asir(新しい)cep(魚)] ⦅虻田穂別⦆ 川へ入りたてのサケ、シロッケ
⦅屈斜路⦆川で最初にとれたサケ。ここでは9月10日ごろとれる。asitcepkamuy(新しい魚の神さま)あるいはただcepkamuy(魚の神さま)とも言い、これは部落内の各戸に肉を一片ずつ配る。

(6)asit-cep-kamuy アシッチェプカムイ [<asir(新しい)cep(魚)kamuy(神さま)] ⦅屈斜路⦆ 走りのサケ。これはまだシロッケ。
 ――コ138に「   」とある。アンチィプカムイはan-cep kamuyで‘真の魚神さま’の義。

(7)kamuy-eweihrah カムイエウェイヒラハ [<kamuy(神)e(に対して)uwe(皆で)ikra(贈る)-p(もの)] ⦅多蘭泊⦆ 川に初めて入って来たサケ

(8)cep-kamuy チェプカムイ [cep(魚)kamuy(神)] ⦅屈斜路⦆ =asit-cep

(9)itto-cep イットチェプ ⦅虻田⦆ 海から川へ入ってから1日もたたぬ若いサケ。シロッケ。

(10)kamuy-cep カムイチェプ ⦅各地⦆ 川へ最初に入って来たサケ。

(11)kamuy oro o-arpa cep カムイ・オロ・オアルパ・チェプ [kamuy(神)oro(のもと)o-(へ)arpa(行く)cep(魚)] ⦅厚真⦆ 川で最初にとれたサケ。

(12)pet nonkar ペッノンカル [<pet(川)nonkar(偵察する)、pet-nonkar-cepの下略] ⦅美幌⦆ いちばん先に川へ入ってくるサケ。ビIII, 27

(13)peteci-cep ペテチチェプ [<pet(川)e-(で)ci(煮える、こげる)cep(魚)、川焼けのした魚] ⦅幌別⦆ 鮭のブナッケ

(14)peteci ペテチ [peteci-cepの下略] ⦅幌別穂別沙流

(15)pet-us-cep ペトゥシチェプ ⦅美幌⦆ 川へ入ってcep-isaして黒くなったもの。方言でいわゆるブナッケ。川に永くいついた魚。

(16)cuk-cep チュクチェプ ⦅名寄⦆ ブナッケ。

(17)isa-cep イサチェプ ⦅屈斜路⦆ ブナッケ。
 注.――cep-isa.

(18)mekkaus メッカウシ ⦅美幌屈斜路
 注.――makka-us-cepの略。ホリにつきかけた雄で、背の辺が少し白くなったもの(=ikuspetuyep)

(19)meskas メシカシ ⦅虻田⦆ 背びれ(mesa)がすれて白くなった雄鮭

(20)mekkas メッカシ ⦅屈斜路⦆ サケマスの産卵してしまった♂ コ139 <mekkaus.

(21)ican-cep イチャンチェプ [ican(ホリを掘っている)cep(魚)] ⦅屈斜路名寄⦆ 語源通りホリを掘っているサケをさす
 ――コ140、ピウカI, 3産卵している産卵鮭

(22)ican-ceh イチャンチェヘ [<ican-cep] ⦅白浦

(23)ican-orun-cep イチャノルンチェプ ⦅美幌東静内穂別

(24)ikuspetuyep イクシペトゥイェプ [ikuspe(柱)tuye(切る)-p(者)] ⦅幌別

(25)mosekarpe モセカラペ [mosekar(草刈る)-pe(者)] ⦅幌別
 注.――cep-moskar沙II ?

(26)mosep モセプ [<mose(草刈る)-p(者)] ⦅幌別

(27)okiray オキライ [<o(尻)kiray(櫛)、‘尾がくし状になっている魚’] ⦅美幌斜里足寄名寄白糠真岡多蘭泊多来加⦆ 産卵後の尾のすり切れたサケ。ホッチャレ
 hemoy-okiray(多来加)ピウカⅠ3、ビIII 59.
 注.――ホッチャリになることをo-kiray-neという。語源は「尻が・くし・になる」ということだ。従ってこの名称はもとo-kiray-ne-cep(尻が・くし・になっている・魚)の意だろう。

(28)oisiru オイシル [<o(尻)i(もの)siru(こする)、‘尻を・ものが・こする’] ⦅礼文虻田幌別穂別沙流東静内⦆ 産卵後の尾のすりきれたサケ。真っ白くなったサケ。

(29)oisiru-cep オイシルチェプ [<o(尻)i(もの)siru(こする)cep(魚)、‘尻を・ものが・こすった・魚’] ⦅幌別⦆ 産卵後の尾のすりきれたサケ。ホッチャリ。
 注.――“a poronno cipor kuta wa oisiru kanan”「卵をぶちまけて尾がすりきれていた。」

(30)isiru-cep イシルチェプ ⦅美幌⦆ いわゆるホッチャリ。

(31)isiru-ca イシルチャ [<i(ものが)siru(こすった)ca(雄魚)] ⦅美幌⦆ ♂のホッチャリ

(32)isiru-os イシルオシ [<i(ものが)siru(こすった)os(雌魚)] ⦅美幌⦆ ♀のホッチャレ

(33)okiski オキシキ [<o(尻)kiski(太い毛)、o(尻が)kiski(毛)ne(になっている)cep(魚)] ⦅落帆白浦⦆ ホッチャリ

(34)cipor-sak チポロサク [<cipor(卵)sak(欠く、持たぬ)、‘卵を失った魚’の義] ⦅屈斜路沙流東静内⦆ 産卵後の老雌魚、♀のホッチャレ。これは却ってルイベにするのにいい⦅東静内⦆

(35)up-sak ウプサク [<up(精囊、しらこ)sak(を欠く)、up-sak-cep(しらこを失った魚)の下略] ⦅東静内⦆ しらこをかけ終わった老雄魚。

(36)mose-cep-kamuy モセチェプカムイ [<mose(草刈る)cep(魚)kamuy(神)、‘草を刈る魚神さま’] ⦅東静内⦆ ホリには最初に♀魚がやってくる。その最初にホリに現れる♀サケ。

(37)cipor-sak-oisiru チポロサクオイシル [cipor(卵を)sak(失った)oisiru(ホッチャレ)] ⦅沙流

(38)ittoomasak イットオマサク [<itto(すっかり)oma(卵)sak(失った)] ⦅美幌⦆ 産卵後の老♀魚 ビIII 59, 26

 成長段階による名称

(1)sipe-ram シペラム [サケの子] ⦅屈斜路美幌白糠⦆ サケの幼魚。筋子ぶら下げているサケ⦅美幌⦆
 ――ramの説明
 icanuy-ram
 sipe-ram
 pon-ram
 hosiki-ram
 nokan-ram
 ついでに人体に魚名を適用する例
 mim-us “tan wen oisiru”.

(2)pakkay-ceppo パッカイチェッポ [pakkay(子を負う)ceppo(小魚)] ⦅幌別

(3)sipenampo シペナンポ [sipe-ram-po、-poは指小辞] ⦅沙流⦆ 目玉の大きな小さい稚魚

(4)sikenampo シケナンポ ⦅幌別

(5)ciporseceppo チポルセチェッポ [cipor(卵)se(負う)ceppo(小魚)] ⦅幌別

 性別による名称
 ca←→os サケマス類の稚魚⦅北海道⦆
 サケマス類の雄魚は一般にcaといわれるが、pinne-ipeとも言われる。それに対して雌魚はos(あるいはhos)とよばれ、またmatne-ipe(あるいはmahne-ipe)とよばれる。
 つまり、次のごとくである:
  ♂ ca=pinne-ipe
  ♀ os=matne-ipe
 以上の他、個々のものについてはそれぞれ別の呼称がついているものもある。
  ♂ ikuspetuyep  cipor-sak
  ♀ mosep     up-sak
 樺太では seta ♂ 成犬
      sipe ♀ 成魚

(1)ca チャ ⦅北海道、樺太一般⦆

(2)si-ca シチャ [si(大)ca(雄魚)] ⦅幌別旭川沙流穂別⦆ ♂サケの大なるもの。5貫目もある大♂⦅穂別⦆

(3)maynep マイネプ [<mat(女)ne(である)-p(者)] ⦅鵜城⦆ メスのサケ

(4)ciporo-cep チポロチェプ [<cipor(卵)o(入っている)cep(魚)] ⦅屈斜路⦆ 雌魚
 注.――ca(♂)に対する

(5)homaop ホマオプ [<homa(卵)o(入っている)-p(者)] ⦅名寄

(6)mo-ca モチャ [mo(小)ca(雄魚)] ⦅幌別穂別⦆ ♂の小なるもの

(7)os オシ、オス ⦅北海道、樺太各地、美幌名寄多蘭泊⦆ めすのサケ

(8)hos ホシ、ホス ⦅美幌屈斜路⦆ コ139、ビIII 59

(9)poro-os ポロオシ [poro(大きい)os(雌魚)] ⦅幌別

(10)si-os シオシ、しオス [si(大)os(雌魚)] ⦅旭川⦆ 雌鮭の大なるもの

(11)pon-os ポノシ [pon(小さい)os(雌魚)] ⦅幌別

 大小で分ける経済価値

(1)yay tuy ka kor ヤイトゥイカコロ [yay(自分で)tuyka(=mekka, cikir-mekkasike 足の甲)kor(持つ)] ⦅美幌⦆ 一尾の皮でkeriの片足が出来る鮭。それ一尾の皮だけでcikir-mekkaが覆われるほど大きなサケ。

(2)si-cep シチェプ [si(大)cep(魚)] ⦅幌別⦆ 並外れて大きなサケ

(3)siancep シアンチェプ ⦅斜里

 異様のサケ

(1)caro-noyke-cep チャロノイケチェプ [caro(その口)noyke(ねじれている)cep(魚)] ⦅屈斜路

(2)cinunukap チヌヌカプ [<ci-(われら)nunuka(大切にする)-p(者)] ⦅屈斜路⦆ 下あごが川上に向かって東に曲がっているサケ。こういうサケを捕ったら、はらわたを去り、 コ139

(3)noci-koyke-cep ノチコイケチェプ ⦅美幌⦆ 干してクマとったときに背負わせてやる大切なサケ。(an-aynu-kor-pe)

(4)si-cep シチェプ [si(大)cep(魚)] ⦅幌別⦆ 並外れて大きなサケ
 漁期中アイヌの表現を借りれば‘tannu pakno an poro cep’〈イルカほどもある大きな魚〉がとれることがある。こういうサケがとれたらinaw-kike(木幣の削り花)をつけてつるしておき、上客があった場合のごちそうにする。

(5)inawkot-cep イナウコッチェプ [<inaw(木幣)kor(もつ)cep(魚)] ⦅幌別沙流浦河⦆ 並外れて小さなサケ。
 漁期中にこのような鮭がとれると♂♀にかかわらず、何尾でも削り幣をつけてつるしておき、クマ祭のとき、弁当をもたせてやるといってクマのあごの下に入れる(幌別)。
 ウグイ位しかない小さなサケ。♂ばかりで♀はない。こういうサケをとると、inaw-kike二つ作って、一つは背に、一つは腹につけて、まな板の上にのっけて上座におく⦅沙流⦆図サルII、3
(B)にinao-kot-cep、inau-kot-cep、をあげ、‘Young salmon’(鮭あるいは鱒の子)としているのはこれである。

(6)inawkocep イナウコチェプ [<inaw-kot-cep<inaw-kor-cep] ⦅幌別
 注.――(B)にkamui-koitukka-cepをあげ、‘A kind of salmon with a long head’(長イ頭ノ鮭)とある。これも本来の意味におけるkamuy-cep(神魚)であり、inaw-kot-cep(幣をもつ神)なのだ。

(1)maratke マラッケ  鮭 チョロ子

(2)etu-puy エトゥプイ  (27) cep-〜

(3)rikanu-cipor,-i/-o リカヌチポロ ⦅穂別⦆ 形の崩れぬ筋子

(4)cep-po チェッポ [<cep(魚)po(子)] ⦅穂別⦆ (サケマスの)幼魚

(5)cepke チェプケ ⦅千島⦆ 油 kemとsum

(6)pake パケ ⦅屈斜路12⦆ cep-pake

(7)cep-pisoy(-e) チェプピソイ ⦅近文⦆ 魚のはら

(8)cep-setur(-u) チェプセトゥル ⦅A沙流 73⦆

(9)cep-kap、cep-ur チェプカプ、チェウル  魚皮 衣 kaya フィゴ

(10)ceh-aka チェヘアカ  (28)

(11)ceh-noski チェヘノシキ  (27)

(12)ceh-ohcara チェヘオホチャラ  (27)

(13)ceh-sapa チェヘサパ  (27)

(14)cinara チナラ  干鮭(松前誌 200)

(15)cipor(-o) チポル、チポロ [<cup(下腹部)or(内)]

(16)cipor, -i/-o チポル、チポロ
 rikanu-cipor かたまっている筋子⦅穂別⦆
 cororo-cipor, cororo-p ジョロ子⦅穂別⦆

(17)cuporo チュポロ ⦅網走
 ① ハラワ(47-10)
 ② 魚の子

 ciporとhoma
 一粒一粒をciponnum⦅浦河、幌別⦆
 sine-ciponnum ekupa wa ... rikanu
 チポロオピネ成熟して一粒一粒に離れたもの(コ 139)
 チポロオピネコネチ普通筋子といわれる未成熟卵
 rikanu-ciporo⦅幌別、浦河⦆
 maratki    ⦅幌別、浦河⦆

(1)homa ホマ 何魚の卵でもいう⦅天塩⦆すずこ⦅多蘭泊⦆魚卵⦅千島⦆

(2)ciporo チポロ  ジョロゴ⦅多蘭泊⦆ =nunke-homa.

(3)nunke-homa ヌンケホマ  ジョロゴ⦅多蘭泊⦆ =ciporo

(4)ciporo opine チポロ オピネ  魚の成熟 ka-omo 〜komo ki
 ciporo opine koneci
 成熟して砕けた(cf, コ139)

(5)ciporkirpu チポロキルプ  生食(No. 10-83)
 humim    屈 12
 mim と kam
  nota-kam
  mim-us
 kina-mim
 hup     屈 13
 kurki    屈 12
 mohrap   屈 12
 motarap  屈 12
 motot    屈 13
 mohrahponi   27
 ninke us pone 屈 12
 nota       27
 notarah     27
 nohkew     27
 pare     屈 12
 ramram   鱗(ウロコ)
 (cep)rupi (セ 101)
 Sira-mim(-i)
靴(keri)を作るために皮をとった後の魚肉⦅近文⦆魚
 sis-pe     27
 teur
 メフン    屈 13

 鮭の処理法

(1)tupa トゥパ  屈 13

(2)eupusi エウプシ    22

(3)numpe ヌンペ  ニカワ。魚の皮を口中でかんで造る。吉田 118(Kut.)

(4)atat アタッ ⦅幌別⦆ nikeruyをつくった真中をさいて干すもの。サケ

(5)kerikap ケリカプ ⦅幌別⦆ 鮭の処理法の一。頭部をとらずに骨を除いて干すもの。この皮でkeriを造る。肉ははいで食う。サケ

(6)satcep サッチェプ ⦅幌別⦆ 鮭の処理法の一。頭部を去って開いて干す。サケ

(7)nikeruy ニケルイ ⦅幌別⦆ サケ

(8)atah アタハ [A] ⦅白浜⦆ 切身干し

(9)at-tuypa-atat アットゥイパアタッ  素干魚の半分

(10)tuypa-atat トゥイパアタッ ⦅屈斜路⦆ 切身干し

(11)cep-atat チェプアタッ ⦅屈斜路⦆ 鮭を三枚に身おろしして、中骨をとって干したもの。atatの語源は恐らくa-ta-ta「我らが・切り・切りした」の意で本来は作り方の名であったろう。

(12)atat-kamuy アタッカムイ  C 349 ピウカ I, 3 ciporもhomaも使う。

(13)mike-kar ミケカラ    魚の処理

(14)sateki cep サテキチェプ ⦅千島⦆

(15)sat-cep サッチェプ ⦅屈斜路⦆ 鮭を背割りにして開いて干したもの。「干せた魚」の義。

(16)satcep サッチェプ  干したサケ
 注.――次の3種がある。(コ139)
 ㋑ satcep 背割りにして干したもの
 ㋺ cep-atat 三枚に身おろしして中骨をとって干したもの
 ㋩ tupa 片身ずつ身おろししたものに、さらに縦に二条細く斬り抜いて干したもの
  ㋺の中骨の干したのは sattek mottuy と言い山狩りの犬の食料にした。

(17)cep at チェプアッ
 ――川に鮭が満ちあふれつ、遡上するさまを、古謡の中では次のように述べる。
  ne-hi koraci   それと共に
  cep at ciri    魚の群れるさまは
  ene oka-hi :    こんなぐあいだった:
  pokna rupi    下方の群は
  suma siru     石がこすり
  kanna rupi    上方の群は
  sukus cire    日光が焦がす
  pakno at ciri an それほどに群来したのだ
   (『アイヌ聖典』p.170)
  ここでcepというのはサケのことである。
.

(1)cepekoh チェペコッ [<cep(食物)e-(によって、のために)ekot(死ぬ)] ⦅鵜城⦆ 餓死する。
 ――cepは(1)魚、(2)サケ類、を表すが語源はci-e-p(我ら・食う・物)の義で、古い合成語の中ではその原義を保存している場合があって、これもその一例である。

(2)cepesahke チェペサハケ [<cep(食物)e-(で)sat(やせることを)ki(する)] ⦅真岡⦆ 飢えてやせる。
 ――“cepesahke sumari”「飢えてやせ衰えたキツネ」

(3)cep-haru チェプハル [<cep(魚)haru(食糧)] ⦅幌別⦆ 魚の肉

(4)cep hemesu(あるいはhemespa) チェプヘメス(チェプヘメシパ) ⦅幌別⦆ サケマスが川をのぼる。――hemesu「のぼる」。hemespaはその複数形

(5)cep-hurkap チェプフルカプ

(6)cep isa チェプ イサ ⦅屈斜路⦆ サケが爛熟する(産卵するばかりの状態になる)

(7)cep-kap チェプカプ ⦅北海道・樺太一般⦆ 魚皮

(8)cep-ke チェプケ  辞III、34

(9)cep-kar チェプカラ  辞III、93

(10)cep-mim(-i) チェプミム [cep(魚)mim(肉)] ⦅近文幌別⦆ 魚肉

(11)cep-ninkew チェプニンケウ  辞III、229

(12)cep ocakacaka チェプ オチャカチャカ ⦅屈斜路⦆ 魚が川でパチャパチャする

(13)cepoma チェポマ [<cep(食物)homa(恐れる、恨む)] ⦅白浦⦆ 飢える

(14)cep-pa チェッパ  辞III、22

(15)cep pe yoski チェッペヨシキ  辞III、435

(16)cep rup チェプルプ

(17)cep sikiru ekannayukar チェプ シキル エカンナユカラ  魚が身をひるがえすようにくるりと向きをかえて引き返す。(『アイヌ神謡集』p.60)。――sikiru[si-kiru(自分を・旋回させる)・まわる、さける]。e-kanna-yukar[e(それについて)kanna(再び)yukar(演技する)、そのさまを再現する、まねる、さながらの様子を示す]
  cep sikiru sikopayarとも言う(『ポン・オイナ』p.223)

(18)cep teseske ekannayukar チェプ テセシケ エカンナユカラ  ユ 375

(19)cep-tuy チェプトゥイ  辞III、258

(20)cep-ur チェプル ⦅北海道・樺太一般⦆ 魚皮、魚皮衣

(21)cep-ur-kap チェプルカプ  辞III、120

(22)ceh-noye チェヘノイェ [<cep(食物)noye(からむ)] ⦅白浦⦆ 飢える

(23)ceh-sahke チェヘサハケ [<cep(食物)sat-ki(やせること・する)] ⦅新問⦆ 飢える

(24)ican イチャン
 ican-kar⦅美幌⦆(コ140)
 ican-kar
 〜-orun(トーロ、ビ)
 〜-koyki 屈(コ140)
 o-ican-kor 浦河

(25)ican-kar イチャンカラ  icanは本来動詞。hempak-iw、coniw、waniwなどに対してican-iwなどというから。しかし今は名詞に考えられican-un-i、ican-karなどという。ただし、この-karは他動詞を強化するためのものかもしれない。

(26)ican-kor イチャンコロ ⦅屈斜路⦆ 産卵穴を掘る。サケ・マスにだけ言う。→kon-kor.

 kon⦅美幌、塘路⦆
 ホリ〜-orun⦅美幌、塘路、屈斜路⦆
   〜-kor⦅美幌(サケマス以外の魚についてのみ)⦆
   〜-uni⦅美幌⦆
 Kon
  kon-un-i=ican(釧路341)
  ホリのみを ican といい、鮭以外の魚のホリ。
  kon-orun
  kon-kor
  konkorun(contam. f.)

(27)rakan ラカン ⦅屈斜路⦆ 魚が群来る。pon cep rakan「小さい魚が群来ている」

(28)rakanorun ラカノルン ⦅塘路?⦆ ウグイが産卵のために川底に穴をほる

(29)kippa キッパ
 kirpa=ican(C. p.276)
 cirkap=ican
 kippa<kirpa(C276)

(30)kirikatci キリカッチ =ican(C129)

(31)nayoro ナヨロ [<nay(谷川、小川)or(内)o(に入る)] ⦅沙流⦆ サケが産卵のために谷川(小川)に入る。――汚れものを洗った水などを流すからa-o-wakka-ku-nay(われらが・そこで・水を・飲む・小川)にcep nayoro ka somo ki(サケが川へ入らぬ)などという。

(32)nay-orun ナヨルン ⦅布伏内⦆ (鮭・鱒などが)川へ入る

(33)nayorun ナヨルン  chep a-tukan kusu an pon-ku.

(34)ray cep turse ekannayukar ライ チェプ トゥルセ エカンナユカラ  ユ 396

(35)sunan-cup スナンチュプ

(36)mo-mohrahponi モモホラハポニ  28
 雄 ca ♂  雌 os ♀
 鮭のsarkop たべれば足早くなるといってsarkop euuetusmakする。
 鮭の鱗で占(東遊 351)
 普通はkamuy-cepと言うが、大昔はsipeとも言った(礼文、浦河?)
 鮭の皮をはぐ巫女の手をとりもつ祭器(久保)
 鮭 花と (コ140)
 ヒラキにする→骨とる→干しておく→肉はぐ
 秋味の結束
 木の皮――柳の皮でまるく
 四束――80本
 五束――100本

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