動物編 §269 オオカミ
(1)horkew ホロケウ ⦅胆振、日高、空知、石狩、天塩、多来加⦆
注1.――この語は北海道のどの部落でも通じる。日常語としては別の語を使う所でも、雅語として老人はこの語を知っている。多くhorkew-kamuy(狼・神)というように、kamuy(神)をつけてよぶ。
注2.――日本人は「ホルケウ」「ホロケウ」「ホリケウ」などと書く。
(2)orkew オロケウ ⦅足寄、美幌⦆ 【雅】
注1.――orkew-kamuy(狼神)というように、kamuy(神)をつけてよぶことが多い。
注2.――クラシェニンニコフにorgiou“loup”とある。
(3)horokew ホロケウ ⦅真岡、白浦、落帆、新問⦆
注.――新問ではhórokewというアクセントも耳にした。horokew-kamuy, horokew-kamuyというようにkamuyをつけてよぶことが多い。
(4)onrupus-kamuy オンルプシカムイ [onrupus(狩をする)kamuy(神)] ⦅美幌、屈斜路、春採、白糠、伏古⦆
注1.――これらの地方でも雅語はhorkew-kamuy、orkew-kamuyの形を用いる。
注2.――日本人は「オンルプシカムイ」「オンルブシカムイ」と書く。
(5)wose-kamuy ウォセカムイ [<wo(イヌまたはオオカミのほえごえ)、wo-se(ウォーとほえる)kamuy(神)] ⦅北海道各地、落帆⦆ 【雅】
注1.――石狩国上川郡に(Seta-un-nay「セタ・ウン・ナイ」‘イヌ・いる・沢’という地名があり、永田方正氏は“此セタハ犬ニアラズ「ウオーセカムイ」狼ヲ云フ”として「狼ノ子ヲ生ミシ処」という解釈を与えている。(Nagata, p.53)。
注2.――北見国紋別郡に「オオセウシ」(Woseusi‘ウォーとほえる所’)という地名があり、永田方正氏はこれを「狼多キ処」と解釈し、「狼出デ夥シク鹿ヲ食ヒシ処ナリシガ今ヤ鹿尽キテ狼モ亦ナシ」と書きそえている(Nagata, p.456)。
注3.――「wose-kamuyとhorkewとはちがう。wose-kamuyはオオカミではなくてヤマイヌだ」と主張する老人たちが、白老や幌別には多い。それらの人々によれば、むかしこの北海道にはオオカミのほかにヤマイヌもいたというのである。それがCanis hodophylax Tem.であったかどうかはさておき、もとこのあたりの野山には野生化した犬が群れをなして住んでいて、それをアイヌはkimuy-seta[‘山のイヌ’<kim(山)un(にいる)seta(犬)]と呼んで、setaすなわち飼い犬と区別していた。wose-kamuyはこのkimuy-setaをもさして言ったものらしい。
(6)poyop ポヨプ ⦅和田村誌、静内⦆
注1.――「和田村誌」(イトウ・ハツタロウ執筆。1938年。根室国根室郡和田村役場発行)11ページに「ポヨプ(狼)」とある。
注2.――日高国静内郡に「ポヨプ」という地名があって、永田方正氏はこれに“poiyop or hoiyop”とローマ字をあて、オオカミの意味にとり、『コノアタリ狼多シ。故ニ名ズク。「ホヨプ」ハ凶害ヲナス者ノ義』と注している(Nagata, p.254)。
(7)nupuripaunkur ヌプリパウンクル [<nupuri(山)pa(かみて)un(にいる)kur(神)‘山のかみてに住む神’] ⦅胆振、日高⦆ オオカミの神としての名
(8)nupuripakorkamuy ヌプリパコロカムイ [<nupuri(山)pa(かみて)kor(支配する)kamuy(神)] ⦅幌別⦆ オオカミの神としての名