動物編 §273 エゾテン;てん
(1)hoinu ホイヌ ⦅幌別、穂別、様似、新問、多来加⦆
注.――樺太では、カラフトクロテン(M.zibellina sahalinensis)をさす。
(4)kasupekira カスペキラ [<kasup(杓子)e(をもって)kira(逃げる)] ⦅美幌、屈斜路、足寄、白糠、春採⦆
注.――‘しゃもじを持って逃げるもの’などという奇妙な名がどうしてついたのか。この動物は、むかし、よくアイヌの家に忍び込んで、いろいろな物を盗んで逃げた。もしそんなところを人に見つかると、あべこべに、とがめだてするかのように、歯をむき出していがむので、ikka-ka-o-niwen-hoynu[盗んだ・上・に・いがむ・テン]という名まであった。そういう習性がある上に、この動物は山の神(クマ)の料理人だという信仰があるので、アイヌの家に忍び込んで、料理に使うしゃもじを盗んで逃げるものというあだ名がついたのであろう。
(5)kasipekira カシペキラ [<kasupekira] ⦅美幌⦆
(6)kaspekira カシペキラ [<kasipekira] ⦅名寄⦆
(7)pon-cironnup ポンチロンヌプ [<pon(小さい)cironnup(けだもの)] ⦅屈斜路⦆
補注1.――shuke-hoinu(‘めしたきする・テン’)というのがあり、エゾテンの中で、とくに顔の黒いのをさすという。山の神であるクマのために飯たきをするから顔がよごれるのだという(Cf.Batchelor.AFS.p.30f)。
補注2.――Kracheninnikofはテンをあらわす千島アイヌ語としてTanne-rumをあげている(Torii,Les Ainou des Iles Kouriles,p.71). tanne(長い)erum(ネズミ)の約であろうか。