動物編 §275 カワウソ
(1)esaman エサマン ⦅北海道、樺太⦆
注.――この語の語源について、たしかなことは分からないが、ひょっとしたら満州語のsamanと関係があるかもしれない。樺太のアイヌは、その北方の隣人であるギリヤーク・オロッコ・ツングースなどからシャーマン教(英 shamanism)をとりいれて、それをsamanと言っている(Cf.K.Kindaichi.AINU NO KENKYU, 2nd ed., 1940, p.33f.)。この語は古く北海道でも使われたらしく、カワウソの頭骨を以てする卜占をesamankiと言った(Cf.Batchelor, Dictionary, p.130)。この語の語源は、たぶんe-saman-ki「それで・サマンを・する」であったと思われるが、samanの意味が忘れられるに従って、民間語源はそれをesaman-ki「エサマンを・する」と分析し、この卜占にはカワウソの頭骨が多く用いられたので、esamanがカワウソの意味になったのではなかろうか。カワウソの頭を食うと放心状態になって物忘れするとか、カワウソは健忘であるとかいう信仰のあるのも、やはりシャーマン教に関係があるのではなかろうか。
(2)worun-cironnup ウォルンチロンヌプ [<wor(水)un(にいる)cironnup(けもの)] ⦅礼文⦆
(3)worus-cironnup ウォルシチロンヌプ [<wor(水)us(にたくさんいる)cironnup(けもの)] ⦅美幌⦆
(4)horus-cironnup ホルシチロンヌプ [<hor(水)us(にたくさんいる)cironnup(けもの)] ⦅屈斜路⦆
注1.――ある人はこれを「ホロチロンノップ」と書いて‘湿潤に住む狐類’の意にとっている(Sarasina, p.121)。
注2.――バチラーの辞書はworo-chironnupの形をあげている。やはり‘水・にたくさんいる・けだもの’の意だ。
(5)sapa-kapke-kur サパカプケクル [<sapa(頭)kapke(はげている)kur(神)] ⦅千歳⦆
(参考)――カワウソに対する悪口にsapa-kaptek(‘頭・ひらぺったい’)という語がある(Y.Chiri,p.116)。
(6)petniru ペッニル [<pet-ninu(川を・縫う)?] ⦅美幌⦆ 【夜ことば】
注.――esamanという語を夜間に使ってはいけない。もし使うとカワウソが何かに化けて出てくる。それで夜間にカワウソについて何か言うときはpetniruという語を使った。