動物編 §284 うさぎ A エゾノウサギ B カラフトノウサギ
A エゾノウサギ
(1)isepo イセポ [i-se-po i(ウサギの悲鳴):i-se([ウサギが]キイと鳴く)-p(もの)-po(指小辞);‘キイキイ鳴く小さなもの’] ⦅胆振、日高(沙流地方)、十勝、石狩、天塩⦆
注1.――釧路地方の日常語では「イソポ」を使う。しかしもとは「イセポ」であったらしく、同地方の地名に‘イセポ・ウン・ナイ’(Isepo-un-nay ウサギ・いる・沢)がある(Cf.Nagata.p.343)
注2.――樺太の富内でも古語として老人はこの語を記憶している。
注3.――「イセポ」は実はもと神名であり、それに対してウサギの普通の呼び名としては「イワンパロ」(<iwan-par-o 六つの・口がついている)という語があったという⦅日高[沙流地方]⦆
(2)isopo イソポ [<isepo] ⦅釧路、北見⦆
注.――これらの地方では普通「カムイ」をつけて「イソポカムイ」(ウサギ・神)と言っている。
(3)kaykuma カイクマ [‘折って火にくべる木’;kay 折れる kuma 棒] ⦅日高〔静内〕、浦河、様似、幌満⦆
注.――この語はもと沖狩の忌詞(いみことば)だったらしい。海上に白波が立つのを各地で「イセポ テレケ」〔ウサギがとぶ〕と言う。そこで沖で「イセポ」という名を呼ぶとウサギが出て来て海が荒れると考え、努めて他の語に言いかえることが各地で行われていたのである。「カイクマ」に言い換えたのは波のことを「カイカイ」と言うのでその縁からであろう。
(4)tukisarus トゥキサルシ [<tu-kisar-us(二つの・耳が・ついている)] ⦅白老⦆ 沖狩の際のいみことば
(5)epetke エペッケ [‘みつくち’;<e(顔)petke(裂けている)] ⦅胆振⦆
注.――この語も特殊語で、畑に出て「イセポ」という語を使えばウサギが出て来て作物を荒らすので、そこではウサギを呼ぶのに必ず「エペッケ」〔みつくち〕と呼ぶのだという⦅幌別⦆。
(6)iwamparo イワンパロ →(1),注3
B カラフトノウサギ
(7)osukep オスケプ [Cf.ギリヤーク osk] ⦅多来加⦆
(8)osukeh オスケヘ [<osukep] ⦅白浦、相浜、富内、多蘭泊⦆
(9)isepo イセポ →(1),注2
(10)rikunkamuy リクンカムイ [<rik(上)un(にいる)kamuy(神)] ⦅白浦⦆ ウサギが神になれば言う
注.――ふつうはジャコウジカを言う。→§291(3)。