アイヌと自然デジタル図鑑

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アイヌ語辞典

動物編 §296 くじら(クジラ)

(1)humpe フンペ ⦅樺太⦆ クジラの総称
 注.――♂をohka-humpe、♀をmahne-humpeと称する⦅多蘭泊⦆

(2)umpe ウンペ [=humpe] ⦅様似根室

(3)‘rika’ リカ [=humpe] ⦅千島 Torii,p.151⦆
 注.――北海道・樺太でrikaと言えば鯨の白肉(皮下脂肪層)を言う。

(4)heyse ヘイセ [<hey-se(呼吸する)] ⦅十勝⦆ 山の中でhumpeという語をさけて言う⦅十勝。――松浦竹四郎『十勝日誌』⦆

(5)nokor-humpe ノコロフンペ [<no(?<nu豊漁)kor(もつ・支配する)humpe(クジラ)] ⦅北海道⦆ 小イワシクジラ
 注.――‘もしおぐさ’に‘ノコル’‘髭の好き’とある。

(6)sinokor-humpe シノコロフンペ [<si-(真の・大なる)nokor-humpe(小イワシクジラ)] ⦅北海道⦆ イワシクジラ[Balaenoptera borealis Lesson]

(7)oaspeus-humpe オアシペウシフンペ [<o-aspe-us-humpe(尻の方に・背びれの・ついている・クジラ] ⦅胆振⦆ ナガスクジラ Balaenoptera physalus (Linne)
 注.――‘もしおぐさ’に‘アシベコル’[aspe-kor‘背びれ・もつ’]とあるのもこれか。

(8)kuttar-humpe クッタラフンペ ⦅北海道⦆ ナガスクジラの類

(9)kuhtarumpe クフタルンペ [<kuttar-humpe] ⦅真岡白浦

(10)hutarumpe フタルンペ [<kuttar-humpe] ⦅多蘭泊

(11)okekus-humpe オケクシフンペ [<o-ke-kus-humpe(尻から・油・出る・クジラ)、<okekus-humpe(下痢する・クジラ)、このクジラは味がよいので食べ過ぎて下痢するのでこう呼ぶと] ⦅礼文長万部⦆ ナガスクジラの類

(12)okirike-humpe オキリケフンペ [‘下痢する・クジラ’の義] ⦅樺太⦆ ナガスクジラの類

(13)osakanke-humpe オサカンケフンペ [‘さわぐ・クジラ’の義] ⦅礼文⦆ コクジラ Phachianectes glaucus Cope

(14)otapoye-humpe オタポイェフンペ [<ota-poye-humpe(砂を・かきまぜる・クジラ)] ⦅北海道⦆ =osakanke-humpe
 注.――otapoyepとも言う⦅幌別⦆。“もしおぐさ”に‘ヲタホイ’とあるもの。

(15)ipoye イポイェ [<i-poye-p(もの・かきまぜる・もの)] ⦅樺太⦆ =otapoye-humpe

(16)yaki-humpe ヤキフンペ [‘セミ・クジラ’、蝉のそれに似た頭部をもっているのでこう言うと] ⦅礼文⦆ マッコウクジラ Physeter macrocephalus Linne

(17)nise-humpe ニセフンペ ⦅樺太⦆ 同定未詳
 Cf.‘ニセフンペ’めさもちという⦅もしおぐさ⦆。

(18)kene-humpe ケネフンペ ⦅樺太⦆ 同定未詳
 Cf.‘ケネフンペ’皮赤き⦅もしおぐさ⦆。Cf. also‘フーレンベ’油赤き⦅もしおぐさ⦆。

(19)repun-ekasi レプンエカシ [<repun(沖の)ekasi(翁)] ⦅幌別⦆ 昔話の中で言う

(20)pisotki ピソッキ ⦅幌別⦆ クジラの沖詞

(21)okina オキナ [?<日本語「翁」] ⦅北海道⦆ クジラのばけもの

(22)siyokina シヨキナ [<si-okina 大・オキナ] ⦅幌別⦆ クジラの大・ばけもの
 注.――海中に大魚ありオキナと云う由、古くから『北海随筆』その他の諸書にみえている。オキナおよびシヨキナなる語は今も伝えて、巨鯨の劫を経たものと考えられている。参照‘ヲキナ’鯨の大なるもの⦅『もしおぐさ』⦆。シヨキナが水面に浮かんで口を開ければ、上あごは天空にすれすれに、下あごは海底にすれすれに、海上を往来する舟を人もろとも呑んでしまう。また鯨までも丸呑みにするので、ときおりたくさんの鯨が乱れ走るのは、これに追われて逃げるのであるという⦅Cf.Chiri.AMK,I,p.35、Kindaichi, 探訪随筆,p.136⦆。

(23)etucikerep-humpe エトゥチケレプフンペ [etucikerep→§282,(1)] ⦅幌別⦆ 同定未詳
(参照)‘イツチケレ’鼻長し⦅『もしおぐさ』⦆

(24)aspepuyo アシペプヨ [<aspe(背びれ)puy(穴)o(ついている)] ⦅穂別
 注.――鼻の上に米とぎ桶ほどもある大きな口のあるクジラだという。創造神コタンカルカムイが支笏湖を作ったとき、あんまり深くて睾丸をぬらした。おれは海の中を歩くときだって膝から上を濡らしたことがないのに、と怒って、そこにいたイト魚(=イトウ)をつかまえて親指で頭を強くおさえて海へ投げたら、それがこのクジラになったという伝説がある。
 補注――以上の他にも、いろいろ名称があったらしく、たとえば『もしおぐさ』には、なお次のような説が見えている:
 a)‘イシヨボンベ’。[isopo-humpeなら「ウサギクジラ」の義だ。‘白く兎のごとし’と注してあるのを見ると、シロナガスクジラか、あるいはシロイルカだろう。]
 b)‘トゥナイ’。[tunayは褶(ひだ)のことだ。‘腹にうねり’と注してあるのを見ると、ナガスクジラ族らしく思われる。美幌でクジラの古語にtunayという語があり地名などにも出てくる。]
 c)‘イワコトヲマフンベ’。[‘大なるもの’と注してある。]
 d)‘ヤイテミ’。[‘腹に筋あり’と注してある。]
 e)‘ユクランベ’。[‘腹に足のごときあり’と注してある。]
 f)‘タンネイベ’[tanne-ipeは「長い・魚」の義。‘長くて髭多き’と注してある。]

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