植物編 §045 エゾニワトコ Sambucus Buergeriana Bl. var. Miquelij Nakai
(1)sokon-ni ソコンニ [si(糞)kor(持つ)ni(木)] 茎 ⦅美幌、屈斜路、足寄、塘路、名寄、長万部⦆⦅A有珠⦆
(2)soko-ni ソコニ [<si-kon-ni] 茎 ⦅幌別、穂別、様似、鵜城⦆
(3)osiko-ni オシコニ [<o-si-kon-ni、o(尻)-si(糞)-kor(持つ)-ni(木)] 茎 ⦅白浦⦆
注1.――この木は臭気を持つので“尻に糞をつけている木”と呼び、それによって除魔力を発揮せしめようとしたのであろう。Cf.§69.
(4)osoko-ni オソコニ [<o-si-kon-ni] 茎 ⦅真岡⦆
(5)ospara-ni オシパラニ [<o(尻に)si(糞)para(ひろがっている)ni(木)] 茎 ⦅幌別⦆
(6)ospero-ni オシペロニ [<ospara-ni] 茎 ⦅礼文華⦆
注2.――pero-ni(ミズナラの茎)に対する縁語牽引である。
(7)onne-cikuni オンネチクニ [onne(老大な)cikuni(木)] 茎 ⦅幌別⦆
(8)cikap-ipe チカピペ [cikap(鳥の)ipe(食糧)] 果実(俚言からすのまんま) ⦅幌別⦆
(参考)この木は、特有の臭気を持つので、そこに除魔力を認め、薬用呪術用として広く用いられた。onne-cikuni[老大な・木]とはこの見地から尊んで言った名称である。
幌別では、この木を魔除けの木幣に作った時に限り、sokoni-inawという。それ以外の時にsokoniと言えばそれはクサギをさすことになる(→§69)。
樺太では、この木の枝でお守りの人形を作り、子供の着物の襟または帯の所に結びつけておく。それを白浦では「セニシテ・ニポポ」seniste-nipopo[si(自分が)-e(それによって)-niste(堅固になる)-nipopo(<ni-po-po 木の・小さな・子)]と言った。鵜城ではこれで「ソコニ・ナンコロペ」[sokoni(ニワトコの)-nan(顔を)-koro(持つ)-pe(者)]と称する人形を作った。→補注(14)。
この木の「掻きくず」(木質部に小刀の刃を直角に当てて掻き取った綿状の物、北海道「ニマウ」nimaw、樺太「ロチ」roci)を水に浸しておいて、その浸出液で目を洗った(真岡)。また、この掻きくずを水に浸けておき、石を焼いて、それで包んで打身・疝気等の患部を罨法した(同地)。
産後にはこの掻きくずを適当な容器に集めて水を注ぎ、それに焼け石を投じて、必要な麻の布に5分くらいの厚さに伸ばして肩から胸、さらに腹一面を包んで温めた(白浦)。この掻きくずはまたそれで髪を洗ったり油手を拭ったりするのに用いた(同地)。
この木の皮または小枝を煎じて産前産後に飲んだ(幌別)。
難産の際この木に小刀で穴をあけ、その穴から妊婦の襟首を吹きながら、
poho sika! 子よ 出よ!
poho sika! 子よ 出よ!
と唱えた(鵜城)。
果実も食べた(美幌)。またそれを潰して疥癬の患部にすり込んだ(樺太)。
この木で木幣を作り、それで悪神を送れば絶対戻って来ない(幌別)。この木は主として男の墓標に使った(塘路、天塩)。死体を包むござを綴じ合わす串はこの木で作った(屈斜路)。この木の若枝でニシンの尻をつなぐ棒を作った(真岡)。