アイヌと自然デジタル図鑑

MENU

アイヌ語辞典

植物編 §053 オオバコ Plantago major L. var. asiatica Decne.

(1)erumkina エルムキナ [erum(ネズミ)kina(草)] 葉(地上部) ⦅長万部虻田有珠室蘭幌別白老穂別名寄

(2)erumsar エルムサル [erum(ネズミ)sar(尾)] 穂 ⦅長万部虻田有珠室蘭幌別白老穂別名寄

(3)erumkina エルムキナ [erum(ネズミ)kina(草)] 葉 ⦅白浦

(4)erum-parakina エルムパラキナ [erum(ネズミ)parakina(ミズバショウ)] 葉 ⦅白浦

(5)erumkina cihe エルムキナ チーヘ [erumkina(オオバコ)cihe(の陰茎)] 穂 ⦅白浦

(6)erumkina ohcara エルムキナ オホチャラ [erumkina(オオバコ)ohcara(の尾)] 穂 ⦅白浦

(7)erumkina kutuhe エルムキナクトゥヘ [erumkina(オオバコ)kutuhe(の円棒状の茎)] 花・茎 ⦅白浦

(8)enumkina エヌムキナ [enum(ネズミ)kina(草)] 葉 ⦅真岡

(9)enum-parakina エヌムパラキナ [enum(ネズミ)parakina(ミズバショウ)] 葉 ⦅真岡

(10)ukokaptuyep ウコカプトゥイェプ [u(互い)ko(に)kap(皮を)tuye(断つ)p(もの)] 花茎・地上部 ⦅様似足寄春採

(11)ukokaptuye-mun ウコカプトゥイェムン [u(互い)ko(に)kap(皮を)tuye(断つ)mun(草)] 花・茎・地上部 ⦅屈斜路

(12)ukokatuyep ウコカプトゥイェプ [u(互い)ko(に)ka(糸を)tuye(断つ)p(もの)] 花茎・地上部 ⦅名寄

(13)ukokoncietayep ウココンチエタイェプ [u(互い)ko(に)konci(帽子)etaye(引く)p(もの)] 花・茎 ⦅幌別穂別
 注1.――本来はu(互い)-ko(に)-kunci(くじ)-etaye(引く)-p(もの)であった。後説。

(14)ukosetatuyep ウコセタトゥイェプ [u(互い)ko(に)seta(犬)tuye(断つ)p(もの)] 花茎・地上部 ⦅江部乙近文

(15)ukonketep ウコンケテプ [u(互いを)konke(折れ曲がら)te(せる)p(もの)] 花茎・地上部 ⦅美幌

(16)ukonketep ikkewe ウコンケテピッケウェ [ukonketep(オオバコ)ikkewe(の腰骨)] 花茎・地上部 ⦅美幌

(17)ukonkepettep ウコンケペッテプ [u(互い)ko(に)konkep(折れ曲がったもの)ette(よこす)p(もの)] 花茎・地上部 ⦅名寄

(18)enkopi エンコピ [en(私)ko(の方に)pi(引く)] 花茎 ⦅足寄
 注2.――本来は、たぶんeukopip[e(それで)u(互い)ko(に)pi(引く)p(もの)]であった。それが民衆語源解によってemkopi[emko(半分)pi(引く)]、あるいはenkopi[“わが方へ引っ張る”]となったのであろう。
(参考)上記諸名称のうち、⑴から⑼まではすべてネズミに関係している。なぜに「ネズミの草」なのか老人に聞くと、穂がネズミの尾に似ているからだと答える。その穂(穂状花序)を各地で尾または陰茎に擬する。⑵、⑸、⑹の名称の語源はそれでとける。⑷、⑼はミズバショウの葉に似て小さいからそう名づけたのであろう。⑽から(18)までの名称は遊戯に基づいた名である。すなわち、子供らはこの植物の花茎の一定数ずつ(10本なら10本とあらかじめ定めておいて)持ちより、1本ずつ折り曲げて相手のに引っ掛けて引っ張り合い、ちぎれた方を負けとする遊びをした。幌別ではその遊びをu-ko-konci-etaye(互い・に・帽子を・引く)と言った。また、種々の競技において先攻者を決めるのにこの花茎を用いて「くじ引き」をしたが、それをもやはり「ウココンチエタイェ」と言った。それによって、語源は「ウコクンチエタイェ」[u(互い)ko(に)kunci(くじ)etaye(引く)p(もの)]であったことが分かる。それが「ウココンチエタイェプ」(帽子を引き合うもの)となったのについては、この葉をおできの頭に貼って膿の芯を吸い出した土俗に関係があった。穂別のある老人は「この草でおできの帽子を取るからそういう名がついたのだ」と言っている。またそれが「犬を引き合うもの」となったのは花茎を引っ掛けて引き合うのが犬の交尾の姿などを連想させたからであろう。
 樺太では、できもの(asispe)はれもの(huhpe)にこの葉を何枚もあぶって重ね、何度もそれを取り替えて熱をとったり膿を吸い出したりした。冬は干し貯えてあったものを水に漬けて使った。小便詰まりには細長い茎を取って来て尿道に差し入れ、痔や脱肛や白癬などには全草を煎じてその湯で患部を洗った(白浦)。

一覧へ戻る

ページの先頭へ戻る