植物編 §061 タバコ Nicotiana Tabacum L.
(1)tampaku タンパク [<日本語“たばこ”] 葉 ⦅幌別⦆
注1.――煙草をのむことを、“tampaku ku”(タバコを、のむ)、またはi-ku(それを・のむ)という。日本語のタバコがアイヌでは「タンパク」と語尾が「ク」になったのは、単なる音韻変化ではなく、“のむ”という意味に引かれた民衆語源解の結果である。
注2.――アイヌ語のkuは普通“のむ”と訳されている。しかし、日本語の“のむ”は非常に漠然としていて、(イ)水や酒のような液体をのむことにも、(ロ)煙草をのむことにも、(ハ)固形物を嚥下することにも使われる。アイヌ語のkuは(イ)と(ロ)の意味にしか用いられず、(ハ)には「ルキ」rukiという別語を用いる。日本語・アイヌ語・英語を相互に対照してみればこの関係がよく分かるであろう。
のむ……{ku……{to drink
to smoke
{ruki……to swallow
注3.――辞書にはTambako『タムバコ』とある。
(2)tampaku ikkewehe タンパク イッケウェヘ [tampaku(タバコ)ikkewehe(の腰骨)] 茎 ⦅幌別⦆
(参考)幌別ではもと煙草を栽培した。その種子がこぼれて各所に自生のものが最近まで見受けられた。前者を「アエトイタ・タンパク」aetoyta-tampaku[a(我ら)e(それを)toyta(耕作する)tampaku(煙草)]、後者を「ヤイトゥッカ・タンパク」yaytukka-tampaku[自ら生えた煙草、yay(自分を)tuk(生え)ka(させる)tampaku(煙草)]と称した。乾燥したものは葉と茎とを別にし、葉はさらに大小を選別して別々に束にした。大きい束を「ルㇷ゚ネ・チマワリ」rupne cimawari、小さいのを「ポン・チマワリ」pon cimawari と称した。チマワリとは葉を10枚くらいずつ重ねて端を縛ったものを言う。使う時はこれを刻む。これを「タンパク・フンパ」tampaku humpa という。タバコの葉だけでは強すぎるので、それにヤマブドウの葉などを混ぜてのむ。煙草はまた傷の消毒に用いる。耳たぶに耳輪を下げるための穴をあけた時は必ずタバコの茎(「タンパク・イッケウェヘ」tampaku ikkewehe)をさしておく。