アイヌと自然デジタル図鑑

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アイヌ語辞典

植物編 §070 ムラサキ Lithospermum erythrorhizon Sieb. et Zucc.

(1)pewre ペウレ [<pe(汁)-hure(赤い)] 根 ⦅芽室足寄
 注1.――pehureがpewreになったのは、いわゆる民衆語源解(縁語牽引)による。pewreは“若い”という意味の語。

(2)pewre-kina ペウレキナ [ペウレという根のとれる草] 茎葉 ⦅芽室足寄⦆⦅A千歳上川
 注2.――ムラサキを『ペウレ』、あるいは『ペウレキナ』ともいうと書いたものがある(北海道庁、旧土人に関する調査、大正11年、p.131)。辞書や詳表にも『ペウレキナ』を挙げて、ただ“ムラサキ”とだけ書いている。しかし、「ペウレ」が根で、「ペウレキナ」はその地上部たる茎葉をさすのであって、この関係をつかんでいないと不都合がことが起こる。十勝の芽室で次のような「ウレクレク」urekreku“なぞなぞ”を採集した。
 kim ta newa toy tum ta uko-re-kor-pe nep ta an?
 ――kim ta pewrep; toy tum ta pewre.
 山でと土の中でと同じような名を持っているものは何ですか?
 ――山でペウレプ(クマの子);土の中でペウレ(紫草の根)。
 「ペウレ」がムラサキの総名でなく、その根だけを表す名称だからこそ、土の中にあるもの、と言ったのである。
(参考)松浦武四郎の『十勝日誌』に、“眼病(シキウェン)には紫苑(ヘフレキナ)を水に浸して附”とあるが、そこで紫苑と言っているのは実はムラサキである。この植物の液汁は赤い色を呈するので、そういう色の眼病に効くと信じられたのであろう。前掲『旧土人に関する調査』(p.131)に、“根を乾して貯わえ、よく噛んで細かにし、犬・馬・あるいはクマの脂にまぜて火傷に塗れば卓効があり、また感冒のため咽喉が痛む時、やはりその根をよくかんでその汁を飲み下せば、不思議に痛がなくなる”とある。

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